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 第6話「幹部集合!これが敵ネオ・ダークフォール」



 運命の日まで後7日。


 紡「フェアリーリップ、メイクアップ!」


 早朝のひょうたん岩。

 まだ朝焼けにも満たない時間だった。

 その上でフェアリーリップに変身する紡がいた。


 フェアリーリップは、ポーチとは反対の右側の腰に付いているアイテムを手に取った。

 その外見は、オーケストラの指揮者が手にするタクト(指揮棒)の様にも見えた。

 フェアリーリップは、ポーチからグリーンリップを取り出し、それをタクトの根元の部分に込める。

 そして、そのタクトを空に振りかざす。


 紡「エレメント・スピリチュアル・パワー!」


 しかし、その声も空しく何も起こらない。


 紡「くっ…!何故なの…!何が足りないの…」


 変身を解いた紡は、まだ夜明け前の暗い空を呆然と見上げた。




 ?「揃ったか…?」


 何処であろうか。

 その雰囲気は、今まで何度か見たネオ・ダークフォールの建物の中である事に間違いない事は確かであった。

 ただ、今までの部屋とは規模が違いすぎる。

 優に百人は入れるであろう部屋に会議用の机とイスが並んでいる。

 しかし、その会議室と思われる場所には、たったの四人の人、いや怪人が座っているだけだった。

 その声の主は両側に並んだ机の間に挟まれた一番奥の机の前に座っていた。

 誰が見てもその怪人がこの部屋にいるメンバーのトップであろう事は明確だった。

 その怪人の背後には巨大なスクリーンが設置してある。


 カーボニウム「ここに来れるヤツは全員揃ってんじゃねえの?」


 イリジウム「…」


 ネオジム「セシウム様、時間です。会議を始めましょう」


 セシウム「そうだな…。出席率80%…。想定内だ…」


 セシウムと呼ばれた怪人はそう言うと、机の上に置いてあるマイクユニットのスイッチを押し、マイクに向かって話しかけた。


 セシウム「マーキュリー様…、お時間です…」


 すると、セシウムの後ろのスクリーンに人影が映された。

 この部屋でトップの地位であろうセシウムから様付けで呼ばれた彼こそ、ネオ・ダークフォールのトップ「マーキュリー80(エイティ)」だった。

 スクリーンに映された人影が言葉を発する。

 あの態度の軽いカーボニウムでさえ、彼の姿がスクリーンに映ってから、全く言葉を発していなかった。

 そう、この会議室にいない者が、この場の空気を支配していたのだった。


 マーキュリー「フフフフフ…。皆さん、ご苦労です…。報告は受けています…。各大陸の準備は、ほぼ終わったようですね…」


 その場の空気とは異なり、物腰柔らかな口調だった。

 しかも、その声は女性、いや、まるで子供の声の様だった。

 だが、その場にいる者、全てが緊張を切らせる事はない。

 これが彼を知る者の正しい対応だと分かっているからだった。


 セシウム「はい…。各担当者から業務終了の報告を受けております…」


 マーキュリー「分かりました。では、最後の準備に取り掛かるとしましょう…」


 セシウム「ただ…」


 マーキュリー「何ですか?」


 セシウム「まだ…、プリキュアの件が片付いておりません…。進行率5%…。想定外です…」


 イリジウムの心臓が凍りつく。


 マーキュリー「…。担当は誰です?」


 セシウム「担当は…、イリジウムです…」


 マーキュリーの視線がイリジウムに突き刺さる。

 何とか動いている心臓が再び止まりそうになる。


 マーキュリー「イリジウム…。貴方程、優秀な者が梃子摺るとは…」


 マーキュリーは、決して怒気の篭った喋り方をしている訳ではない。

 しかし、イリジウムの緊張、いや、恐怖は頂点に達していた。

 彼は、まさかこの場でプリキュアについて追求されるとは思ってなかった。

 そう、彼はプリキュアの存在がこの組織にとって取るに足らない事と認識していたからである。

 それが大きな間違いであった事をこの時痛感していた。


 イリジウム「そっ、それが、プ、プリキュアは、よ、四人ではなかったのです!」


 いつも冷静沈着で他人を見下す態度を取っているイリジウムと同一人物とは思えない喋りだった。


 マーキュリー「何ですと…?」


 ネオジム「そうです!」


 ネオジムが、いきなり立ち上がった。

 緊張と恐怖が綯い交ぜになっているイリジウムの姿を見るに絶えず、助け舟を出そうとしたのである。

 男気のある、彼らしい態度だった。


 ネオジム「確かにプリ、グアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!」


 ネオジムが話し始めた途端、胸を押さえ、悲鳴を上げた。

 そして机に倒れ込んだ後、彼は全く動かなくなった。


 マーキュリー「私はイリジウムと話しているのです。それは確かですか?イリジウム」


 マーキュリーは、動かなくなったネオジムを一瞥する事もなく、言葉を続けた。


 しかし、イリジウムは突然の出来事に声を失っていた。

 その様子は、まるで過呼吸の症状が出ている様だった。


 マーキュリー「イリジウム…」


 イリジウムも喋らなくてはと思っているが、焦れば焦る程、声が出ない。

 口のみが金魚の様にパクパクするだけだった。


 マーキュリー「イリジウム…、貴方に尋ねているのですよ!!!」


 それまで淡々と話していたマーキュリーが、初めて声を荒らげた。


 イリジウム「たっ、たっ、確かに…、ご、ご、五人いると、ネ、ネオジムがっ!」


 イリジウムが肺から声を絞り出す様に答える。

 それはまるで、マーキュリーの怒気を孕んだ声によって、止まっていた心臓が動き出したかの様だった。

 しかし、その声は裏返ったままであった。


 マーキュリー「貴方が見たのではないのですか…。それを先に言いなさい…。死んでからでは何も喋れないでしょう…」


 そう言うと、マーキュリーは小さな溜息をついた。


 マーキュリー「セシウム、貴方は報告を受けていますか?」


 セシウム「はっ…!確かに五人いたとネオジムの報告書にもありますし、本人からも直接確認しました…」


 マーキュリー「そうですか…。こちらの仕入れた情報とは違いますね…。そうですか…」


 マーキュリーは、少し物思いに耽った。

 それは、ほんの数秒だったが、その場にいた者には、それが永遠にも感じる時間だった。


 マーキュリー「では、計画を少し変更しましょう…。セシウム、貴方が自ら指揮を執りなさい。そして、幹部全員をプリキュアの対策に当てるのです」


 セシウム「はっ…!了解しました…」


 イリジウムも答えたつもりだったが、既に声が出る精神状態ではなかった。

 セシウムがマーキュリーに返事をすると、マーキュリーが映っていたスクリーンの電源が落ちた。

 その瞬間、会議室の空気が支配から解き放たれた。

 

 カーボニウム「ふえ~、危ねえ、危ねえ…」


 最初に声を発したのは、予想通りカーボニウムだった。


 カーボニウム「いや~、ネオジムちゃんも災難だったね~」


 カーボニウムが事切れているネオジムを突っつく。


 セシウム「カーボニウム…、止めるんだ…」


 カーボニウム「君子、危うきに近寄らずってね!ムヒヒヒヒ…」


 そう言いながら、イリジウムの席に近づく。


 カーボニウム「いや~、イリジウムちゃんも大変だね~。ウヒャヒャヒャヒャ…」


 いつもなら絡んでくるカーボニウムに嫌味の一つでも返すイリジウムだったが、流石に今はそんな気力さえなかった。


 セシウム「いい加減にしないか…!」


 カーボニウム「へいへい…。でも、他人の不幸は蜜の味ってね~。ウヒャヒャヒャヒャ…」


 そう言うとカーボニウムは、両腕を頭の後ろで組み、鼻歌を歌いながら会議室を後にした。

 イリジウムは席を立つ事もなく、その横で動かなくなったネオジムを見た。


 イリジウム「…」


 その時、カーボニウムが出て行った会議室の扉とは反対側の扉が派手に開いた。


 ?「セシウム、さっま~」


 それは甘えた女性の声だった。

 そこには声と同様、女性を思わせる体型の怪人が立っていた。

 そして、その怪人がセシウムに駆け寄り抱きついた。


 セシウム「リチウム…、戻ったか…」


 リチウムと呼ばれた怪人がセシウムの胸から顔を上げる。


 リチウム「は~い。アフリカ大陸の準備は全て整いました~。これもセシウム様への愛の力がなせる業ですぅ~」


 セシウムが手元のデータを見る。


 セシウム「進行率100%率…。想定内だな…。しかし、帰って来て早々だが、君に新しい辞令が出ている…」


 リチウム「何ですか~?セシウム様のご命令なら、リ・チ・ウ・ム~、何でもしちゃいますぅ~」


 リチウムはセシウムに抱きついたまま、セシウムの胸に顔を擦り付ける様に頭を振った。


 セシウム「新しい辞令は…、プリキュアの抹殺だ…」


 イリジウム「(そ、それは私が!)」


 イリジウムが声を出そうとしたが、それを止めた。

 そう、彼にも後がないのだ。


 リチウム「プリキュアですか~。でも、それってイリジウムさんが担当だったはずでは~?ああ、失敗しちゃったんですね~!もう、ドジっ子!」


 そう言いながらも、リチウムはセシウムに抱きついたままだ。


 セシウム「では頼んだぞ…、リチウム…(成功率98%…。想定内だな…)」


 リチウム「行かれちゃうんですか~!?リチウム、さ~み~し~い~」


 セシウムは、抱きついてるリチウムの腕を解き、会議室を後にした。



 会議室に残っているのは、イリジウムとリチウム、そしてネオジムの骸だけになった。


 リチウム「あ~あ!やってらんないよ!帰っていきなり仕事かよ!ついてないね~」


 セシウムの姿が見えなくなった途端、リチウムの態度が豹変した。

 その声もトーンの低い声に変わっている。

 イリジウムが座っている机に腰掛け、足を組んだ。


 リチウム「何だい、これは?」


 その時、ネオジムの骸がリチウムの組んだ足に当たった。


 リチウム「邪魔だね!」


 そう言うとリチウムは足でネオジムの骸を蹴り飛ばした。

 ネオジムの骸が会議室の壁に当たって砕け散り、砂になった。


 リチウム「アンタもヘマやらかしたね~」


 リチウムは、イスに座ったまま俯いているイリジウムに、そう言いながら胸元から取り出した煙管に火を着けて吸った。

 そして、その煙をイリジウムの顔に吹きかける。

 しかし、イリジウムは俯いたまま微動だにしない。


 リチウム「あら~?あのイリジウムが、どうしたのかしらね~。プリキュアにやられて、僕落ち込んでるんでちゅか~?」


 イリジウム「私はプリキュアに敗れてなどいない!!!」


 会議が終わった後、初めてイリジウムが発した言葉だった。

 リチウム「へぇ~、それにしては難しい顔してるじゃないのさ」


 そう言うとリチウムは手に持った煙管の先をイリジウムの頭の上に差し出し、ひっくり返した。

 煙管の火種がイリジウムの頭に落ちる。


 イリジウム「ぐっ!」


 リチウム「僕は部屋に帰ってママのオッパイでも吸ってなさい。その間にアタシがプリキュアを片付けてあげるからさ!アハハハハハ…」


 そう言うとリチウムは、笑いながら煙管を片手に会議室を後にした。


 イリジウム「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 イリジウムは突然立ち上がり、目の前の机に両腕の拳を叩き付けた。

 机が木っ端微塵に砕け散る。


 イリジウム「おのれ…プリキュア…ッ!プリキュアッ!!プリキュアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」




 紡の隠れ家となっているソフトボール部の旧部室に紡と舞、薫、チョッピ、フープの姿があった。

 美術部の部活動を終えた舞と薫が、ソフトボール部の旧部室に顔を出していた。

 だが、その場の空気は沈んでいた。

 紡の様子がおかしい。

 舞や薫が話しかけても生返事だった。

 旧部室の中にチョッピとフープの話し声だけが響いていた。


 舞「紡さん、何かあったのかしら?」


 舞は薫に耳打ちした。


 薫「そうね…。何だか元気ないわね」


 舞と薫も紡の近づきがたい空気を感じ、少し離れて座っていた。

 未来から来たとは言え、紡はどう見ても舞や薫より年上の女性だ。

 外見から見ると、高校2、3年生位だろうか。

 黙られると中学生の舞や薫では声を掛けられない雰囲気を持っている。

 その耳打ちを盗み聞きしたフープが紡に近づいた。


 フープ「紡はどうして元気ないププ?薫と舞も心配してるププ」


 舞薫「フープ!!」


 薫は慌ててフープを捕まえる。


 フープ「何するププ~!」


 舞「え~と、紡さんゴメンなさい!」


 舞が頭を下げるが、紡は上の空だった。

 さっきのフープの言葉さえも聞こえていない様だ。


 薫「紡?」


 薫が紡の肩に手を掛けた。

 その瞬間、紡が薫の腕を掴み地面に叩き付けた。

 しかし、そこはスポーツ万能の薫。

 素早く受身を取った。


 舞「紡さん!」


 チョッピ「紡~!」


 その声に紡は我に返った。


 フープ「薫~!」


 泣きそうな顔をしたフープが、倒れている薫の下に飛んでいく。


 紡「わ、私…。ごめんなさい!」


 そう言うと紡は表に飛び出していった。


 薫「待って!」


 薫は起き上がり、紡の後を追う。

 しかし、部室の外には既に紡の姿はなかった。


 薫「私はこっちを探す。舞はあっち、チョッピとフープは向こうを探して!」


 舞「分かったわ!」


 チョッピ「分かったチョピ!」


 フープ「分かったププ~!」


 薫、舞、チョッピとフープは、三手に分かれて紡を捜した。


 薫「紡~!」


 舞「紡さ~ん!」


 チョッピ「何処チョピ~!」


 フープ「出てくるププ~!」


 薫や舞達は学校の近くを捜し回ったが見つからない。

 舞達は大空の樹と咲のいる病院に行ってみると言って学校を後にした。

 その時、薫は紡と前に会った時の事を思い出した。


 薫「もしかして…」


 薫は、ひょうたん岩に向かった。

 

 薫が、砂浜に着いた頃には、もう日が傾いており、砂浜から見える水平線に夕日が沈みかけてようといた。

 ひょうたん岩の上に紡はいた。

 沈み行く夕日を見つめている。


 薫「紡…」


 紡も薫に気付いた様だが、振り向く事も、立ち上がる事はなかった。

 薫はそっと紡の横に座った。

 お互い何も喋らない。

 ただ、二人沈み行く夕日を眺めていた。


 最初に口を開いたのは紡だった。


 紡「ここは先生…、未来の薫さんが連れてきてくれた場所なんです…。大切な友達との思い出の場所だって…」

 紡「未来の世界では、滅びの雨が降り続き、こんな夕日を見る事は出来ませんでした…」

 紡「それにネオ・ダークフォールの怪人達が生き残った人間を狩っている地上に出る事は本当に危険だったんです…」

 紡「私は子供の頃は普通の女の子でした…。でも、先生や博士と出会って戦士として戦う道を選びました…」


 紡が大きく首を振った。


 紡「ううん。本当は戦士になんてなりたくなかった。普通の中学生、高校生になりたかった。勉強や友達との遊び…、それに恋だってしたかった…。多分…」

 紡「でも、そんな事が望める世界じゃなかった…。未来に絶望してた…」

 紡「そんな時に先生がここに連れてきてくれたんです…。こんな夕日は見えないけど、ここにいると何故か元気が湧いてくるんです…。不思議ですよね…」


 喋り続ける紡を薫は何も言わず微笑み、ずっと見守っていた。


 紡「さっきは、本当にすみませんでした!」


 そう言い、紡は薫に頭を下げた。

 薫は謝る紡の手をそっと取った。

 紡が頭を上げる。


 薫「いいのよ。未来の私が鍛え上げたんでしょ。いい反応だったわ」


 そう言い微笑んだ薫を見た紡の瞳にうっすらと涙が浮かんだ。

 未来の薫と姿が被る。


 紡「先生…」


 薫「でも、舞にはしちゃ駄目よ。舞は運動があまり得意じゃないから」


 薫は笑顔でウインクした。


 紡「はい…。先生…」


 紡に笑顔が戻った。



 二人がひょうたん岩から下り、旧部室に戻ろうとした時だった。


 ?「何なんだい…?今の三文芝居は…」


 それは突然だった。

 さっきまで紡と薫が語っていた、ひょうたん岩の上に怪人が足を組んで座っていた。

 手に持った煙管で自分の肩を叩いている。


 薫「いつの間に…」


 その時、薫は紡から途轍もない殺気を感じた。

 さっきまでの紡の穏やかな表情は、そこにはない。

 その目には殺意が宿っていた。

 薫さえも一瞬動く事が出来なかった。


 紡「お前は…、お前はああああああああ!!!」


 紡はポーチからピンクリップを取り出し、フェアリーリップに変身すると、その怪人に飛び掛った。


 薫「紡!!!」


 紡「お前っ!お前っ!お前だけは許さない!リチウムーーーーーー!!!」


 リチウム「おや~?アンタに会った事あったっけ?アタシも有名になったもんだね~」


 フェアリーリップの攻撃がリチウムを襲うが、リチウムは避けようともしない。

 しかも、その渾身の一撃をリチウムは何事もない様に煙管で受け止めた。

 その煙管とフェアリーリップの拳にスパークが走る。

 しかしフェアリーリップも、それを気に止めようともせず、攻撃を続けた。


 紡「お前は…、お前はああああああああ!!!許さない…、絶対に許さない!!!」


 リチウム「何を許さないって~?」


 満もフープもいない薫はプリキュアに変身する事が出来ない。

 しかし、ここを離れる訳にもいかない。

 紡の様子が、どう見ても普通の状態ではなかった。

 薫は何度も紡の名を呼ぶが、全く答えようとしない。

 紡の目にはリチウムと呼んだ怪人しか映っていなかった。

 その目は殺意の炎で燃えていた。

 紡の身体をも燃え尽くしてしまいそうな激しい殺意の炎だった。

 薫には紡の名を呼び続ける事しか出来なかった。


 フェアリーリップはゴールドリップを引くと、更に連撃を加えた。

 しかし、フェアリーリップの拳には全く手応えがなかった。

 リチウムの身体まで攻撃が届いていないのだ。

 フェアリーリップの攻撃が当たろうとする瞬間、パチパチと電気がスパークする。

 何か目に見えないバリアの様な物で弾かれている様だった。

 それに気付いているのか、気付いていないのか、フェアリーリップは全く攻撃の手を休めようとはしない。

 薫はそれを紡に伝えようとするが、紡には薫の言葉は全く届いていないようだった。


 しかし、リチウムもフェアリーリップに全く攻撃をしかけてこない。

 まるで猫じゃらしに飛び掛る猫を見て楽しんでいる様だった。


 紡「お前が!お前が先生をーーーーーー!!!」


 その言葉で薫は悟った。

 このリチウムと呼ばれた怪人が未来の自分の命を奪ったのだと。


 リチウム「何言ってるんだい、アンタはさっきから…。訳分かんないね~」

 リチウム「まあ、いい…。そろそろ飽きた…。片付けるよっ!」


 その刹那、リチウムは手に持っていた煙管をフェアリーリップの連撃の隙間を縫って、フェアリーリップの喉仏に突き刺した。

 カウンターでその攻撃を受けたフェアリーリップは海上へ吹き飛ばされた。

 フェアリーリップの身体が、水切りの石の様に何度も水面を跳ねると、最後に大きな水飛沫を上げて、海の中に沈んだ。


 薫「紡ーーー!!!」


 フェアリーリップは直ぐに海中から飛び出したが、その顔は真っ青だ。

 プロテクターでガードされてるとはいえ、人間の弱点の一つである喉に直撃を喰らい呼吸が殆ど出来ない様だった。

 チアノーゼの症状を起こしていた。

 それに加え、先程までの連撃の影響か、手足の震えが止まらなくなっていた。

 その目も焦点が合っておらず、虚ろだった。


 それでもフェアリーリップは前に進んでいく。

 膝が崩れ落ちそうになっても、決して歩みを止めなかった。


 それを見ている薫の瞳からは涙が止め処なく流れていた。

 そう、彼女は誰の為でもない、未来の薫の為に戦っているのだから。

 でも、それは見ていられる状態ではなかった。

 未来の薫も、こんな姿の紡を望んでいた訳では決してないだろう。

 しかし、薫の悲痛な叫び声も、今の紡を止める事は出来ない。

 もう、これしか紡を止める方法はなかった。


 リチウム「面倒なヤツだね…。これで…死にな!」


 リチウムの止めの鋭い一撃がフェアリーリップを襲う。


 意識が朦朧としているフェアリーリップには、それを防ぐ手段は残されていなかった。


 紡「(せん…せ…、ご…め…)」


 その時だった。

 リチウムの一撃がフェアリーリップを貫こうとした瞬間、薫が二人の間に割って入った。


 紡の目に映ったのは薫の笑顔だった。

 だが、その目は涙で腫れていた。


 紡「せん…せい…」


 その瞬間、紡の目の前に薫の身体から鮮血が飛び散った。


 紡「せん…せ…?せんせい…!?せんせえーーーーーーーーーーー!!!」


 薫は紡を抱きしめる様にその場に崩れ落ちた。


 満「薫ーーーー!!!」


 それは駆けつけた満、そして咲、舞達の声だった。





 キャスト

 日向咲(キュアブルーム)/声:樹元オリエ

 美翔舞(キュアイーグレット)/声:榎本温子

 霧生満(キュアブライト)/声:岡村明美

 霧生薫(キュアウィンディ)/声:渕崎ゆり子

 フラッピ/声:山口勝平

 チョッピ/声:松来未祐

 ムープ/声:渕崎ゆり子

 フープ/声:岡村明美

 紡(フェアリーリップ)/声:斎藤千和

 イリジウム77/声:小山力也

 カーボニウム6/声:高木渉

 ネオジム60/声:堀秀行

 リチウム3/声:喜多村英梨

 セシウム55/声:島田敏

 マーキュリー80/声:三瓶由布子





 第7話「未来を救え!泉の郷の仲間たち!」へ続く

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