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 第3話「お帰りなさい咲!今日も絶好調ナリ!!」


 舞、満、薫、そして精霊達の心は酷く揺らいでいた。

 イリジウムと名乗る怪人の襲撃、滅びの力の復活、未来から来たと言う紡と名乗る少女、その少女から聞かされた未来、そして咲の病気。

 昨日一日で余りの事が起こりすぎ、誰もが眠れない夜を過ごした。



 そして咲と再会したのは、その二日後だった。

 病室で咲と面会した一同は言葉を失った。

 あの真夏の向日葵の様だった咲と同じ人物だとは思えなかった。

 今は薬で眠っているが、腕に刺さった点滴と顔の酸素マスクが痛々しい。

 沙織は娘の友達に心配をかけまいと気丈に振る舞っているが、紡の言葉を聞いた今では、その振る舞いが紡の言葉に重みを与える結果となってしまった。


 病院から出た舞達の足取りは重かった。

 誰も言葉を発しない。

 ムープ、フープさえも押し黙っていた。

 フラッピ「…フィーリア王女なら…、フィーリア王女なら何とかしてくれるラピ!」

 舞達はフラッピの提案で大空の樹に向かう事にした。

 もう舞達に残されてる選択肢はなかったのだ。

 フィーリア王女なら何とかしてくれるのではないかという一縷の望みをかけて。



 大空の樹の下に舞、満、薫、フラッピ、チョッピ、ムープ、フープが集った。

 その場の重苦しい空気と沈黙とは裏腹に、森の涼やかな風が駆け抜けて行った。

 フラッピとチョッピが大空の樹に語りかける。


 フラッピ「フィーリア王女、フラッピ達の声を聞いてほしいラピ!」


 チョッピ「力を貸してほしいチョピ!」


 すると大空の樹から多くの光が集まり、小さな人の形を象った。

 そこに現れたのは、世界樹の精霊「フィーリア王女」だった。


 一同「フィーリア王女!」


 フィーリア「お久しぶりです、皆さん…。咲さんは…いらっしゃらない様ですね…」


 舞「フィーリア王女!教えてほしい事があります」


 舞達は二日前に起きた事、紡の事、そして彼女が伝えた未来の話をフィーリア王女に語った。


 フィーリア「残念ですが、私にはどうする事も出来ません…」


 舞「そんな…」


 一縷の望みをかけていたフィーリア王女の言葉に、その場の誰もを絶望感が襲った。


 フィーリア「確かに伝説の戦士プリキュアである咲さんには精霊の加護が強く働いてます…。しかし、それは決して病や老い、死を防ぐ力ではありません…」


 薫「…」


 フィーリア「ただ、この時期に咲さんが病気になったのと、滅びの力の復活との関係が偶然とは私には思えません…」


 満「どういう事ですか?」


 フィーリア「実は数百年に一度、世界樹の力が弱くなる時期があるのです…」

 フィーリア「精霊の力の源となる太陽の力が最も弱くなる時が、もう直ぐ来ようとしています…」


 薫「太陽の力が弱くなる…。はっ!惑星直列!」


 満と舞も直ぐに理解した。


 満「私も聞いたわ。それに夕凪では日食が見れるって」


 舞「ええ…。去年、私の家族がこの町に戻ってきたのも、お父さんがその研究をする為だったの」


 ムープ「惑星直列って何ムプ?」


 フープ「日食って何ププ?」


 満「惑星直列は、太陽系の八つの惑星が一直線に並ぶ現象よ」


 薫「日食は太陽と地球の間に月が入って、太陽が黒く見える現象なの」


 ムープ「太陽が黒くなるムプ!」


 フープ「怖いププ~」


 満「滅びの力の復活と惑星直列…」


 舞「そして、咲の病気と紡さん…」


 薫「偶然とは思えないわね…」


 舞「フィーリア王女、紡さんは本当に未来から来たのですか?紡さんが言っている事は本当なんですか?」


 舞は、もう一つの疑問をフィーリアにぶつけた。

 すると、フィーリアは首を振り答えた。


 フィーリア「私は全てを見通せる訳ではありません…。ただ…、今の状況を考えると、何かが起ころうとしている事は確かです…」


 薫「彼女の言ってる事は本当なのでしょうか?」


 フィーリア「私にも答えは分かりません…。ただ言えることは一つ…。自分の気持ちに嘘を付かず、自分達の信じる道を進む事です…」


 そう言い、フィーリアは優しく微笑んだ。


 フィーリア「全ては精霊の導きのままに…」


 その声と共にフィーリア王女の姿は消えていった。


 フィーリア王女が消えた後も、誰もこの場を動こうとはしなかった。

 誰もが俯いたままだった。

 舞や精霊達の間に長い沈黙が続いた。

 舞が顔を上げた。

 その目には決意が宿っていた。


 舞「紡さんの所に行きましょう」


 満と薫が頷くと、フラッピ達もそれに続いた。



 舞達がひょうたん岩に着いた時は、既に夕暮れだった。

 紡と名乗った少女は、そこで沈み行く夕日を眺めていた。

 夕日の眩しさか、その沈み行く太陽の姿に何かを重ねたか、夕日を見つめる紡の目は悲しげだった。


 舞達の足音に気付いた紡が振り返った。


 紡「…」


 重い空気がその場を支配していた。


 舞「紡さん、貴女が本当に未来から来たのなら、今起きている事を説明してほしいの…。本当に咲は…」


 紡「はい…。残念ながら咲さんは今から半年後に病気で亡くなってしまいます…」


 紡が言葉を発する度に、その場の空気が更に重くなる様に感じる。


 紡「しかし、これは本当の恐怖の始まりでしかなかったのです。…今から10日後、「運命の日」を迎えます」


 満「運命の日?」


 紡「はい…。その日は日食によって闇に覆われます。しかも、それはただの日食ではありません」


 薫「惑星直列ね…」


 薫の言葉に紡が頷く。


 紡「その運命の日、ここ夕凪では200年に一度の天体ショーに沸き上がっていました…」


 紡「しかし…、あの出来事が起きてしまったのです」


 その場にいる誰もが、紡の言葉、一つ、一つに息を呑む。


 紡「その日は天気予報では快晴でしたが、日食が進むと雲が出てき始め、やがて雨となりました」

 紡「最初は誰もが普通の雨と思っていました。しかし、その雨は、その後も決して止む事はありませんでした…」

 紡「そして人々は後(のち)に、その雨をこう呼びました…」


 紡「滅びの雨と…」


 その言葉に一同は凍りつく。


 満「滅びの…」


 薫「雨…」


 紡が言葉を続ける。


 紡「この雲を取り除く為、世界を挙げて様々な方法が試されましたが、全て徒労に終わりました…」

 紡「日も差さず、雨に濡れた木々は枯れ、動物達も姿を消していきました…」

 紡「そして地上から太陽の光と精霊が消え、緑や鳥達の鳴き声が永遠に失われてしまったのです…」


 舞「そんな…」


 ムープ「怖いムプ~」


 フープ「恐ろしいププ~」


 紡「その運命の日を前に現れたのがネオ・ダークフォールです」


 満薫「…」


 紡「彼らは滅びの雨によって精霊を滅ぼしました…そして、残された人類もネオ・ダークフォールによって…」


 舞「…」


 紡「僅かに残った人々は地下にコロニーを作り、彼らから隠れる様に息を潜めながら暮らしています…。私もその中の一人でした…」

 紡「そんな中、咲さんは病気で亡くなり、舞さんと満さんも…」


 舞満「…」


 チョッピ「舞…」


 ムープ「満…」


 紡は一呼吸置き、意を決して話し始める。


 紡「先日、私の動きが薫さんに似ていると言われたのは、未来の世界では薫さんが私の先生だったからなのです」


 薫「私が…、貴女の先生…?」


 紡「はい…。しかし…、先生も私を助ける為に…」


 舞「でも、貴女は未来からどうやって?」


 紡「それは博士が私を過去に送ってくれたのです」


 満「博士?」


 紡「はい。博士は精霊の力と科学との融合の研究を行っていました。そして滅びの力も…。その研究の中で偶然、タイムトラベルの発見をしたそうです」


 紡は腰に付けていたポーチを開いた。

 その中には6本のリップが並んでいた。

 リップは、それぞれ六色ある。

 その内のピンク色のリップを取り出す。


 紡「フェアリーリップの力も博士の研究によって作り出されました」


 フラッピ「確かに前の戦いの中、紡から精霊の力を感じたラピ」


 チョッピ「何か懐かしい感じがしたチョピ」


 紡「そして私は、あの未来を変える為、この時代にやって来ました。伝説の戦士プリキュアと共にネオ・ダークフォールを倒す為に!」


 薫「でも、滅びの力はゴーヤーンと共に滅んだはずよ。何故、今になって滅びの力が…」


 紡「それは分かりません…。ただ以前、博士が決して消えない青白い炎を見たと…。それこそが滅びの力の元だと言っていました」


 満「青白い…」


 薫「炎…」


 舞「まさか…」

 満、薫、舞の脳裏に「アクダイカーン」の前で燃える青白い炎が浮かんだ。

 アクダイカーン。
 かつてダークフォールの戦士を率い、緑の郷を滅ぼそうとした存在。
 そのアクダイカーンの無限とも言える力の源こそ、その青白い炎だったのだ。


 紡「どうか皆さん、私にネオ・ダークフォールを倒す力を貸して下さい!」


 紡が深々と頭を下げる。


 紡「先生や博士が言っていました。四人のプリキュアが揃えば絶対に負けないと」


 紡の言葉に対して、誰も何も言葉を発しようとはしなかった。

 いや、発せられなかった。

 心の整理が全くつかない。

 余りにも多くの事が起こり過ぎて、何が真実で、何を信じて良いのか分からなかった。

 正に五里霧中の心境だった。

 再び沈黙がその場を支配した。


 フラッピ「…紡は本当に咲の病気を治せるラピ?」


 その沈黙を破ったのは意外にもフラッピだった。


 紡「これです」


 頭を上げた紡がポーチからカプセルを取り出す。

 紡「この薬を飲ませれば12時間以内に体内のウィルスを除去する事が出来ます」

 フラッピが紡に歩み寄っていく。


 満「フラッピ、待って!これは敵の罠なのかも知れないのよ!」


 満がフラッピを止めようとする。


 フラッピ「前に咲が風邪を引いた時にはフラッピが看病したラピ…。でも、今回は違うラピ…」


 フラッピの後姿が震えている。


 フラッピ「あんな咲は見た事ないラピ…。もう、あんな咲を見てられないラピ~!」


 そう叫んで振り返ったフラッピの瞳には涙が溜まっていた。


 チョッピ「フラッピ…」


 ムープ「ムプ…」


 フープ「ププ…」


 紡「フラッピさん…」


 それまで沈黙していた薫が意を決して発した。


 薫「私は彼女を信じるわ…」


 満「薫!」


 薫「彼女の目…、私は彼女を信じたい…」


 満「薫…」


 舞「私も紡さんを信じる」


 満「舞…!」


 チョッピ「チョッピも信じるチョピ」


 満「チョッピ…」


 ムープ「ムープも信じるムプ!」


 フープ「フープも信じるププ!」


 満「ムープ…、フープ…」


 満は、みんなの反応に戸惑っていたが、やがて諦めたかの様に大きく溜め息をついた。


 満「分かったわ…。でも、私は貴女を信じない!」


 薫「満…」


 満「私は薫と舞、フラッピ、チョッピ、ムープ、フープを信じるわ」


 舞「満さん…」


 紡「満さん…、ありがとうございます…」


 満「その代わり、咲に何かあったら私は貴女を絶対に許さない…!」


 満の鋭い眼光が紡を貫いた。

 紡は視線を逸らす事なく、小さく頷いた。

 フラッピは紡からカプセルを受け取った。

 満は紡とこの場に残ると言い、舞と薫、精霊達は咲の入院する病院へ向かった。



 病室では咲に沙織が付き添っていたが、今まで積み重なった疲労の為か、咲の眠るベットに俯せになって眠っていた。


 フラッピ「咲…、起きるラピ…」


 沙織に気付かれない様、フラッピが小さな声で咲に声を掛けた。


 薫「咲…」


 チョッピ「起きるチョピ…」


 舞「咲、起きて…」


 ムープ「起きるムプ」


 フープ「起きるププ」


 みんなが優しく声を掛ける。

 眠っていた咲がゆっくり目を開けた。


 咲「…フラ…ッピ…?」


 フラッピ「咲…!」


 フラッピは泣き出しそうになるのを我慢して、紡から貰ったカプセルを取り出した。


 フラッピ「これを飲むラピ…」


 咲「…これ…は…」


 フラッピ「元気になる薬ラピ…」


 咲「…元気に…なる…薬…?」


 フラッピ「そうラピ」


 舞「そうよ、咲」


 咲「舞…」


 舞が咲の手を握る。


 薫「それを飲んで、早く元気になってね…」


 咲「薫…」


 チョッピ「みんな待ってるチョピ」


 咲「チョッピ…」


 ムープ「元気になるムプ~」


 フープ「なるププ~」


 ムープ、フープも目に涙を貯めている。


 咲「ムープ…、フープ…」


 咲は重い身体を起こそうとする。

 直ぐに舞が咲を支えた。


 咲「みんな…ゴメンね…」


 薫がコップに注いだ水を持ってきた。


 薫「早く元気になってね、咲」


 咲は薫の言葉に弱々しく頷くと、フラッピから受け取ったカプセルを水で流し込んだ。

 再びベットに横になった咲は、そのまま眠りについてしまった。

 心なしか、その寝顔は先程より安からに感じた。


 その時、咲のベットに俯せになって眠っていた沙織が目を醒ました。

 フラッピ達が急いで、舞と薫の後に隠れる。


 沙織「…あら、舞ちゃん、薫ちゃん来てくれてたの。ゴメンなさいね。居眠りしちゃって」


 舞「いいんですよ、おばさま。それより、咲は私達が見てるので、今日はお家に帰られたらいかがですか?」


 薫「みのりちゃんも心配してると思いますから」


 沙織「でも…」


 そう言って沙織は咲の顔を見る。

 すると眠っている咲の表情が前より穏やかに見えた。


 沙織「(友達が来てるからかしらね…)」


 沙織「…ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて今日は帰らせてもらうわ。明日の朝、咲の着替えを持って来るから、それまでお願いね」


 舞「分かりました。おばさま」


 沙織「お家にはちゃんと連絡してね」


 舞薫「はい」


 沙織が病院の方に頼んでくれたのか、病室に泊まる事が許された。

 看護士が二人分の毛布を用意してくれたのだ。

 その間も咲は眠り続けていた。



 そして夜が明けた。

 舞と薫は来客用のソファーに並んで眠っている。

 その横でチョッピとムープ、フープが一緒に眠っていた。

 ただフラッピだけは、咲のベットの横の床頭台の上でウトウトしていた。

 居眠りの姿勢で、状態は前かがみになっており、今にも床頭台の上から落ちそうだ。


 そして遂にバランスを崩し、咲の寝ているベットに落ちてしまった。


 フラッピ「ラピ~!」


 フラッピが咲の顔を直撃した。


 咲「もう~痛いな~、フラッピ~。もうちょっと寝かせてよ~」


 咲が寝返りを打つ。


 フラッピ「ち、違うラピー!コ、コロネの仕業ラピー!」


 フラッピ「…ラピ?」


 咲とフラッピの声に舞達が目を覚ました。


 舞「…さ…き?」


 ベットの中で更に寝返りを打った咲が声の方を寝ぼけ眼で見た。


 咲「(…ん?…舞…?あれ…?どうして舞が家にいるの?)」


 薫「咲!」


 咲「(あれ…?薫も…)」


 チョッピ「咲~!」


 咲「(チョッピ泣いてる)」


 ムープ「咲~!」フープ「咲~!」


 咲「(ムープ、フープ…?)」


 咲「ん?」


 ポタポタと何かが咲の頬をが叩いた。


 フラッピ「咲…」


 それはフラッピの大粒の涙だった。


 咲「フラッピ!?」


 咲は思わず跳び起きた。


 フラッピ「咲ー!」


 一同が咲に抱き着いた。


 咲「ちょ、ちょっと~!どうしたのよ、みんな~」


 舞「咲のバカ!心配したんだから!」


 舞の瞳は涙で溢れていた。

 舞だけではない。

 薫やフラッピ達、みんなが泣いていた。


 咲「あれ?私…、アメリカの試合で投げてて…、全然ストライクに入らなくて…」


 フラッピ「もう大丈夫ラピ…」


 咲「フラッピ…」


 咲「よく覚えてないけど…。ん~、今日も絶好調ナリ~!」


 咲が伸びをする様に手を上げた。


 舞「もう、咲ったら…」


 みんなの顔に笑顔が戻った瞬間だった。





 キャスト
 日向咲(キュアブルーム)/声:樹元オリエ

 美翔舞(キュアイーグレット)/声:榎本温子

 霧生満(キュアブライト)/声:渕崎ゆり子

 霧生薫(キュアウィンディ)/声:岡村明美

 フラッピ/声:山口勝平

 チョッピ/声:松来未祐

 ムープ/声:渕崎ゆり子

 フープ/声:岡村明美

 日向沙織/声:土井美加
 フィーリア王女/声:川田妙子


 紡(フェアリーリップ)/声:斎藤千和





 第4話「夢じゃない!みんなのいる一日」へ続く

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