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 第2話「未来に何が?苦しみの紡」



 PANPAKA・パンを訪れた舞達は、その現実を受け入れるのに暫くの時間を要した。


 大介「取り合えず、向こうに着いたら直ぐに電話入れてくれ」


 沙織「分かったわ。みのりをお願いね」


 みのり「お母さん!お姉ちゃんを待ってるから…!」


 沙織「大丈夫よ」


 一番早いアメリカへの飛行機の席が空いていたのが1席だけだった為、沙織だけがアメリカへ向かう事になった。


 沙織「満ちゃん、悪いけど私の留守の間、家の事よろしくね。満ちゃんに任せておけば安心だから」


 満「え…?あ、はい…。分かりました…」


 沙織「舞ちゃん、咲は私とお父さんの子よ。子供の頃から病気しても、数日後には元気に走り回ってたんだから、余り心配しないで」


 舞「はい…」


 沙織「薫ちゃん、みのりは貴女に一番懐いてるから、暫くの間、みのりの事よろしくね」


 薫「心配しないで下さい…。おばさま…」


 残った者が見守る中、沙織は呼んでおいたタクシーに乗り、空港へ向かって行った。

 みんなの思いを背に、何かの間違いであるという僅かな希望を乗せて。



 ひょうたん岩の上に佇む紡。

 空はどんよりと曇り、今にでも雨が降りそうな雲行きだ。

 少女が空を見上げると、ポツリ、ポツリと頬に水滴が当たった。





 紡がいた未来。

 その世界は雨が降り続く、太陽の光が届かない灰色の世界だった。

 木々は枯れ、そこには鳥の鳴き声もない。

 ただ雨音だけが響いていた。


 雨の音が響く廃墟。

 その中から水溜りを叩き、駆ける音が聞こえた。

 その音は人が駆けている足音なのだが、そのスピードは速く、まるで動物が駆け抜けている様だった。

 しかし、その足音の主は、まだあどけなさが残る少女だった。

 年齢は14歳位だろうか。


 今は季節で言えば、夏の時期だ。

 だが、その少女の吐く息は白かった。

 ネオ・ダークフォールの手によって世界を覆った滅びの雨が齎したのは、太陽の光を奪っただけではなかった。

 その雲により、太陽の赤外線も遮断され、地上は氷河期の様な寒さに覆われていたのだ。


 その少女に向け、何処からかレーザーが飛んだ。

 少女は、それをしなやかに避け、レーザーの発射場所を手にした銃らしき武器で正確に打ち抜く。

 だが、少女が反撃すればする程、攻撃は激しくなり、遂には少女の体を幾つかのレーザーが貫いた。

 しかし、少女の表情が多少歪むもの、致命傷には至っていない様だ。


 ?「はい!ストップ!」


 何処からか、女性の声が聞こえた。

 その声と同時にレーザーの攻撃が止み、少女もその場で動きを止め、その声の方を向いた。


 女性「全然ダメ。今の攻撃が本物なら貴女、五回は死んでるわよ」


 声の主が物陰から現れた。

 松葉杖を突きながら現れた女性の年齢は、20歳位だろうか。

 だが、彼女の持つ落ち着いた雰囲気が、もっと年上の女性に感じさせた。

 本来なら、誰もが振り向く美女であったであろうが、その顔の半分が包帯で覆われている。

 腰まで伸びたワンレングスの髪も、手入れが行き届いてるとは言いがたい。


 少女「すみません…。でも、足場がわ…、くっ!」


 少女が言葉を発し終わる前に包帯の女性の松葉杖が少女の肩に振り下ろされた。

 少女は堪らず低い悲鳴と共に膝を突いた。


 女性「雨でぬかるんでたからって、敵が攻撃を止めてくれるの!?ヤツらはそんな隙を絶対に逃さない…!」

 女性「ヤツらは人の弱さを突く…。心でも決して負けては駄目…」


 少女「はい…。先生…」


 少女が再び訓練に戻るのを見届けた女性は、胸元のポケットから一枚の写真を取り出した。

 古い写真だ。

 それは結婚式の写真だった。

 そこにはウェディングドレスに身を包んだ咲と、その咲を抱きかかえたタキシード姿の和也が写っていた。

 そして二人の周りには舞、満、薫、そして二人の両親とみのり、クラスメート達も写っていた。


 女性「(満…、舞…)」

 女性「(咲…)」




 5年前。

 中学最後の夏。

 ソフトボールの日本選抜に選ばれた咲が、アメリカ遠征で不在中の町を蘇った滅びの力が襲った。

 満と薫は二人で滅びの力と戦うが、その戦いにより重症を負ってしまった。

 プリキュアに変身出来ない舞は、二人を見守る事しか出来なかった。

 そんな状況でも舞、満、薫には希望があった。

 咲が戻ってくれば。


 しかし、その希望は見事に打ち砕かれてしまった。

 ソフトボールのアメリカ遠征から帰って来た咲は、みんなが知っている咲ではなかった。

 舞達がアメリカから戻ってきた咲を見たのは、病院のベットの上で寝ている姿だった。

 アメリカでの試合中に倒れた咲は、アメリカの病院からそのまま飛行機で搬送され、海原中央病院に入院したのだった。


 咲の腕には点滴が刺され、顔には酸素マスクが付けられている。

 アメリカ遠征に備え、遅くまでグラウンドで居残り練習していた元気な咲の姿は、そこにはなかった。

 ベットに横たわる咲を見た誰もが声を失った。

 ただ、薫の手を握ったみのりの啜り泣きが聞こえるだけだった。


 医師の話では病気の原因は不明だが、ウイルス性の全脳炎ではないかと言われた。

 特に進行が早く、このままでは余命数ヶ月との事だった。



 両親が咲の看病に追われる中、舞、満、薫は、PANPAKA・パンの切り盛りを手伝った。

 満と薫は、自らの怪我を押して働いた。

 咲の幼馴染「星野健太」を始め、クラスメートも店を手伝っていた。

 その中には、和也の姿もあった。



 そして、あの運命の日が訪れた。

 その日は、夕凪で皆既日食が見れるという事で、町中がお祭り騒ぎだった。

 しかも、ただの皆既日食ではない。

 200年に一度と言われる惑星直列も同時に起こるという事で、マスコミにも注目されていた。

 町の誰もが、日食観察用のサングラスを手に日食が起こるのを待ちわびていた。

 日食は、ベルセリウス重化学工業の工場建設問題の中、町の住人がその悩ましい問題を忘れる事が出来る時間だったのだ。


 そして遂に、その時を向かえた。

 昼前から日食が始まった。

 町の誰もが観察用のサングラスを片手に太陽を見上げていた。

 だが、日食が2/3程進んだ頃、空を急に雲が覆い、雨が降り始めた。

 天気予報では、その日は快晴のはずだった。


 しかも、その雨は普通の雨ではなかった。

 それは「滅びの雨」だったのだ。


 その雨が降っていたのは夕凪だけではなかった。

 日本、アジア、世界、地球上全てが厚い雲に覆われていたのだった。

 人工衛星から撮られた写真は、既に青い星、地球とは思えない姿が写されていた。

 そして、その雨は、何日経とうが決して止む事はなかった。


 この雲を取り除く為、世界を挙げて様々な方法が試されたが、全て徒労に終わった。

 日も差さず、雨に濡れた木々は枯れ、動物達も姿を消していった。

 そして地上から太陽の光と精霊が消え、緑や鳥達の鳴き声が永遠に失われてしまったのだった。



 そんな中、咲の容態は悪くなるばかりだった。

 咲は、家族や舞、満、薫、クラスメート、そして和也が訪れると気丈に明るく振舞った。

 自分の事よりも部活動や店の事、そして満と薫の怪我を心配していた。


 しかし、その間も滅びの力の襲撃は止む事はなかった。

 孤軍奮闘する満や薫にも確実に限界が近づいていた。

 人々を避難させる為の時間稼ぎをするので精一杯だった。

 そして咲にも、最後の時が一刻一刻と近づいていた。



 和也「咲ちゃん…、僕と結婚してくれないか」


 和也からの突然のプロポーズだった。

 その場にいた舞や満と薫、そして咲の両親もがその言葉に驚いた。

 それまでの会話が途切れ、病室を沈黙が支配する。

 誰も何も聞かされていなかった。

 咲自身も一体何が起こったのか、理解するのにしばらく時間が必要だった。


 自身の病気の事は咲には伏せられていたが、自分の命がもう残されていない事は本人もよく分かっていた。

 この数ヶ月で咲の体は痩せ衰え、頬もこけ、速球を投げていた腕もスプーンを持つのがやっとな程、細くなっていたのだ。


 和也「僕の奥さんになってほしい」


 その沈黙を破ったのは、再び和也だった。


 咲「で、でも…、私…」


 和也の目は真剣だった。

 咲の命が残り少ない事は、勿論知っていた。

 それを知った上でのプロポーズだった。

 咲も流石に、どう答えていいか戸惑っていた。

 思わず、舞に助けを求めようと目を向ける。


 舞は微笑んでいた。

 満や薫、沙織も微笑んでいた。

 みのりは目を輝かせ、咲と和也の顔を交互に見ている。

 大介は困り顔だったが、咲と目が会うと、溜息をついて諦め顔で頷いた。


 咲「…。私を…、私を和也さんのお嫁さんにして下さい」


 病室内に歓声が上がった。

 特にみのりはお兄さんが出来たと大喜びだった。


 しかし、数週間後に行われた咲と和也の結婚式がみんなの最後の笑顔となったのだった。




 ?「…薫ちゃん。雨に当たると身体に障るよ」


 薫と呼ばれた女性が振り向くと、そこには傘を差した男性が立っていた。

 薫は手に持っていた古い写真を懐に閉まった。

 その男性が手に持っていた、もう一本の傘を差し出す。


 薫「博士…」


 博士と呼ばれた男性が傘を上げると、その顔はオペラ座の怪人を髣髴させるマスクで覆われていた。

 しかし、その風貌に似合わず、その声は優しく、若々しさを感じる声だった。


 少女「お兄ちゃん!」


 少女は博士と呼ばれた男性に気付くと駆け寄ってきた。


 博士「どうだい、新しいプロテクターは?」


 少女「前みたいに重くなくて動きやすいよ。でも、ちょっと格好悪いよね…」


 少女の表情が先程までの戦士の顔とは異なり、年頃の少女の表情に戻っている。


 博士「これでも大変たっだんだよ。プリキュアの様に精霊の力で守られてる訳じゃないからね」


 少女「私も先生みたいな服がいいな~」


 それまで二人の会話を黙って聞いていた薫が口を開いた。


 薫「博士…。貴方は人類、いや世界の最後の希望なのです。軽々しく、ラボから出られては困ります」


 博士と呼ばれた男性が薫の顔を見て、軽い溜息をついて言った。


 博士「こんな淀んだ空気になっても、たまには外の空気を吸いたくなるんだよ。それに最後の希望は僕じゃない…。彼女だよ」


 そう言って優しく少女の頭を撫でる。

 少女も頭撫でられて喜ぶ様な歳じゃないと思うのだが、太陽の光を遮る厚い雲で覆われたこの世界で、彼の存在は少女にとって太陽とも言える存在だった。

 そう、夏の向日葵を照らす太陽の様に。


 博士「薫ちゃん、さっきも言ったけど、君こそもっと身体を大事にしないと…。もう、家族と呼べる人は、この三人しかいないんだから…」


 今度は薫が小さな溜息をついて言った。


 薫「博士…。何度も言いますが、いい加減に「薫ちゃん」は止めて頂けませんか…!」


 薫の鋭い眼光が博士に突き刺さる。


 博士「ゴメン、ゴメン、昔からの癖が抜けなくてね…。アハハハハ…」


 仮面で表情は窺えないが、博士の屈託のない笑い声につられ、薫にも少しだけだが笑顔が戻った。

 それを見ている少女も、こんな世界でもこの時が永遠に続けばいいのにと思う時間だった。



 ?「見つけたよ。プリキュア…」


 その声に三人の身体に戦慄が走った。

 声の方向を見ると、どす黒い雲の下に一人の怪人が浮かんで立っていた。

 その姿は、何処か女性をイメージさせた。


 女怪人「アンタが最後のプリキュアだね?はぁ~、長かったよ…。まさか、こんなに逃げ切るとはねぇ~。組織も思っちゃいなかったよ…」


 女怪人が薫と共にいる博士に気付いた。


 女怪人「おや~?そこにいるのは裏切り者の博士じゃないか!こりゃついてるね~!捜す手間が省けたってもんだ!」

 女怪人「博士には生きたまま来てもらうよ。残りの二人にはここで…、死んでもらおうかっ!」


 女怪人は、その声と共にテレポートしたのではという猛スピードで、三人との間を一気に詰めた。


 気付けば、女怪人と三人との間は、もう数メートルしかなかった。


 薫「二人とも逃げて!…ここは私が食い止める!」


 少女「先生!ダメ!」


 その刹那、女怪人の一撃が薫達を襲った。

 だが、薫の胸のペンダントから発せられた光が、その一撃を跳ね返し、女怪人はぬかるんだ地面に突き飛ばされた。


 女怪人「グッ!よくも…、よくもこのリチウム様に泥を食わせてくれたねぇ…!どうやら苦しんで死にたい様だねぇ!!」


 リチウムと名乗った女怪人は、起き上がると間髪入れず、再び薫達に襲い掛かった。

 しかし、ペンダントから発せられた光のバリアが薫達三人を包み込み、リチウムの攻撃を防いだ。


 少女「先生!私も一緒に戦わせて下さい!先生と一緒なら私…、死ぬのは怖くない!」

 

 少女のその言葉を聞いた途端、薫が下唇を噛んだ。

 あれは、薫が少女に罰を与える時の仕草だ。

 少女は反射的に肩を竦めた。


 しかし、少女が受けたのは薫の優しい抱擁だった。

 少女も薫の意外な行動に驚き戸惑ったが、その優しい、暖かな温もりは今の状況を忘れさせてしまう、そんな抱擁だった。

 それは、少女が幼い時のかすかな記憶、母の温もりだった。


 薫が子供を寝かしつける母親の様な優しい声で語りかける。

 それは、ここ何年も聞いた事のない薫の優しい声だった。


 薫「貴女は最後の希望…。唯一残された希望なの…。貴女や博士、そして私もみんなから大切な物を託された…」

 薫「貴女には、まだやらなくてはならない使命がある…。でも、まだその準備は整っていない…。まだ、その時ではないの…」


 薫が少女の頭を撫でる。


 薫「嘗て私は一度命をなくした…」

 薫「だけど、みんながこの世界に呼び戻してくれた…。それは貴女を守る為だったのかも知れないわ…」


 少女「先生…」


 少女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

 博士も、その横で二人を無言で見守っている。


 薫「この先、貴女は一人で戦う事になるかも知れない…。今よりもっと辛い戦いが待ってるはず…」

 薫「でも、貴女は一人じゃない…。貴女のご両親や咲…、舞や満…、そして精霊達も貴女と一緒に戦っている…。それを忘れないで…」


 少女「…せ…ん…ぐっ…」


 少女は何かを言おうとしているが、嗚咽で言葉にならない。
 少女にも分かっていた。
 この後に訪れるであろう、別れの時を。


 薫「貴女は私にとって大切な家族…、そしてたった一人の妹だったわ…。ありがとう…」


 少女「薫…、お…姉さ…」


 二人は、ありったけの力で抱きしめ合う。

 二度と離れる事がない様に。


 その抱擁をリチウムのヒステリックな奇声が引き裂く。

 リチウムが攻撃を加える度に光のバリアに皹が入っていく。

 リチウムはバリアに何度も攻撃を弾かれながらも、その手を休める事はない。

 そしてバリアに出来た皹が徐々に大きくなってきた。


 薫は意を決し、少女の手を解き、自分の首から掛けていたペンダントを、そっと少女の首に掛けた。

 薫が博士に視線を送ると、博士は黙って頷いた。

 二人の間に言葉は全くなく、視線を交わしたのも一瞬だったが、使命を共にしてきた二人にとっては、それで充分だった。

 そして薫は、光のバリアから出て、遂にリチウムと対峙した。


 少女「先生…、薫…お姉さん…」


 博士は、まだ茫然自失としている少女を担いで、ラボへの通路に足を向けた。


 リチウム「おや…?やっとお別れが済んだのかい…?けど、安心しな…。このリチウム様が直ぐに小娘もあの世に送って上げるからさ!」


 薫が手に持っていた松葉杖を手放す。


 薫「それは無理だわ…。だって貴女はここで死ぬんだから…。伝説の戦士…プリキュアによってね!」


 薫の体から一気に精霊の力が噴出す。

 松葉杖を突かずには歩けなかった薫が嘘の様だ。

 だが、それは蝋燭が消える前の一瞬の煌きにも見えた。



 博士と少女は、地下のラボへ向かう通路を歩いていた。

 しかし、少女の体には生気が抜けたかの様に力が入っていない。

 その頬を涙が零れ落ちる。


 少女「せん…せ…。薫…お姉…さ…」


 博士は決して後ろを振り向こうとせず、ラボへの通路を一歩一歩少女を抱え、進んで行く。

 顔を覆う仮面で表情は窺えないが、その仮面の縁を涙が伝い落ちていた。



 そんな中、薫とリチウムの戦いは続いていた。

 だが、それは戦いとは言えない、薫への一方的なリンチ状態となっていた。

 薫は既に立つ事も、防御する事も出来ないでいた。

 それでも薫は決して悲鳴を上げない。

 二人が安全な場所に避難するまでは、二人を振り向かせない為には、どんな痛みにも声を上げる訳にはいかなかった。


 リチウム「ハンっ!さっきの威勢はどうしたんだい?私を倒すんじゃなかったのかい?伝説の戦士が聞いて呆れるねぇ!」


 リチウムが防御さえ出来ず倒れている薫の身体に蹴りを入れる。


 リチウム「アンタより先に死んだプリキュアもこんなもんだったんだろうねぇ!口先だけの伝説の戦士だね!アハハハハハ…!」


 リチウムの高笑いが雨音だけが響く廃墟に木霊した。


 その時、リチウムの足元で動かなくなっていた薫が、震える手でリチウムの足を掴んだ。

 消え入りそうな声を出す。


 薫「私の…事は…、何を言われても構わない…。でも…、咲や舞…、満の事を悪く言うのは…絶対に…許…さない…」


 リチウム「はぁ?絶対に許さないって?一体、何を許さないん…だい!!」


 リチウムの強烈な蹴りが薫の腹部を直撃し、薫の身体は水面を跳ねる石切りの様に地面を跳ね、瓦礫の山に突っ込んだ。

 その衝撃によって、薫の上に瓦礫が崩れ落ちる。

 長年の雨で湿ってるとは言え、リチウムの強烈な一撃により、崩れた瓦礫の山から埃が舞い上がった。


 リチウム「あら~?強く蹴り過ぎたかしら?まあ、瓦礫の山に埋もれて死ぬなんて、プリキュアの墓標にはピッタリだね…。アハハハハハ…!」


 リチウム「さ~て…、じゃあ、あの小娘を始末しに行きますか…」


 リチウムが二人を追おうと瓦礫の山に背を向けた瞬間だった。


 埃の中から一陣の風が舞った。


 リチウム「何ぃ!!!?」


 それは薫だった。

 リチウムを後ろから羽交い絞めにした。

 だが、薫の端正だった顔は潰れ、足も不自然な方向に折れ曲がっている。


 リチウム「離せ!離せっ!!離せええええぇぇぇぇ!!!」


 薫がブツブツと何かを呟いているが、それはもう言葉としては聞き取れない。


 薫「(咲と満が焼いたパン、美味しかったな…。また、食べたいな…)」

 薫「(舞とみのりちゃんと一緒に行った雨の日の紫陽花…、きれいだったね…。また、一緒に行こうね…、みのりちゃん…)」


 厚い雲に覆われ、太陽の光が差す事のなかった地上。
 その一帯を眩いばかりの光が包み込んだ。



 いつもの朝の登校風景。
 咲、舞、満、薫が一緒に登校している。

 咲「ねえ、ねえ、見て、このパン!満が一人で作ったんだよ!」


 舞「美味しそう~!満さん、凄いじゃない!」


 満「そ、それ程でも…」


 咲「謙遜!謙遜!これなら、PANPAKA・パンの将来も安泰ナリ~!」


 満「え?お店は咲か、みのりちゃんが継ぐんじゃないの?」


 咲「う~ん、まだ分からないけど、みのりは舞お姉ちゃんや薫お姉さんみたいに絵が上手くなりたいって言ってるから、継いでくれるかは分からないし…」

 咲「それに、私の一番の夢は…」


 咲が顔を赤らめる。


 咲「あの人の…お嫁さんだから…」


 舞「え?あの人って、私の知ってる人!?もしかして、星野君!?」


 咲「ちょ、ちょっと、何でそこで健太の名前が出てくるのよ!」


 薫「うふふふふ…」


 咲「もう!舞~」



 廃墟に暗闇と静寂が戻った。



 そして少女は、この時から笑顔を失ってしまった。





 紡「先生…、薫おねえさーーーーーん…!」


 紡は自分の声で目が覚めた。

 少し眠ってしまったらしい。


 紡「また…、この夢…」


 紡は夜の闇の中、ひょうたん岩の上で膝を立て、顔を埋めた。

 その手にはペンダントが握り締められている。

 そのペンダントの中では不気味な青白い炎が揺らめいていた。





 キャスト
 日向咲(キュアブルーム)/声:樹元オリエ

 美翔舞(キュアイーグレット)/声:榎本温子

 霧生満(キュアブライト)/声:渕崎ゆり子

 霧生薫(キュアウィンディ)/声:岡村明美

 日向大介/声:楠見尚己

 日向沙織/声:土井美加

 日向みのり/声:斎藤彩夏
 美翔和也/声:野島健児

 紡(フェアリーリップ)/声:斎藤千和
 博士/声:?

 リチウム3/声:喜多村英梨





 第3話「お帰りなさい咲!今日も絶好調ナリ!!」へ続く


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