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 第1話「未来からの使者?あの娘は何者なの!?」

 

 ゴーヤーンとの戦いから数ヶ月後。

 咲、舞、満、薫は中学3年生に進級していた。
 その中学最後の夏に事件は起こった。
 咲は中学ソフトボールの地方大会での優勝の後、全国大会でも活躍し、日本選抜選手に選ばれた。

 そして、この夏休みに日本選抜の一員として日米親善試合の為、渡米していた。


 その夏、ここ海原市夕凪の住民達の間では、二つの話題で持ち切りだった。

 一つは2週間後、この町で皆既日食が見れるという事。

 日食観察用のサングラスが売れに売れていた。


 だが、もう一つの話題が難題だった。

 世界的大企業「ベルセリウス重化学工業」の工場が夕凪に出来ると言う話だ。

 夕凪の豊富な水源が目的らしい。

 しかも工場をトネリコの森を切り開いて建てるという。

 ベルセリウス重化学工業は世界有数の大手企業だが、数ヶ月前に上層部が刷新され、新しい幹部主導により夕凪への工場進出が決まった。


 工場の誘致活動を行った訳ではない夕凪では、反対運動が起きていた。

 その中心にいるのが天文学者であり、舞の父親「美翔弘一郎」である。

 弘一郎「私はこの町の清んだ空気、星空はかけながえのない物だと思っています!」

 弘一郎「しかし残念ながら、ベルセリウス重化学工業の行う排煙処理では、この星空を守る事は出来ないでしょう…」


 咲の自宅であるパン屋「PANPAKA・パン」にも建設反対の張り紙が。


 しかし、以外な賛同者がいた。

 舞の兄「美翔和也」である。

 ベルセリウス重化学工業は宇宙開発に積極的で、日本での有人ロケット開発でも大きな役目を担ってたからである。


 和也「確かにトネリコの森が切り開かれるのは心が痛むけど、これも宇宙科学の発展に必要な事なんだよ」


 舞「でも、それで大空の樹が切られるなんで、絶対にダメ!あの樹は私達にとって大切な樹なの!」


 薫「私も反対です!」


 和也「舞や薫ちゃんも大人になったら、宇宙開発の必要性が分かってくれると思うよ」

 ゴーヤーンとの戦いの後、満は咲の家に、薫は舞の家に海外からのホームステイという形で同居していた。



 大空の樹の下に座る舞、満、薫。


 舞「もう、お兄ちゃんは宇宙の話になると絶対に譲らないんだから…!」


 薫「大空の樹がなくなるとフィーリア王女も消えてしまう…」


 満「精霊界との行き来も出来なくなってしまうわ…」


 舞「チョッピ、フラッピ…」


 満「ムープ…」


 薫「フープ…」


 その時だった。


 ?「舞~!大変チョピ~!」


 その声と共に大空の樹の洞から光の玉が四つ現れた。


 舞「チョッピ!」


 ?「満~!」


 ?「薫~!」


 満「ムープ!」


 薫「フープ!」


 光の玉の輝きが弱まるにつれ、それは形を成してきた。

 その正体は、鳥の精「チョッピ」と月の精霊「ムープ」、風の精霊「フープ」、そして花の精「フラッピ」だった。


 フラッピ「大変な…、大変な事が起こるラピ!」


 舞「フラッピ!」


 フラッピ「咲は、咲はどうしたラピ?」


 そう言って、フラッピは辺りを見回しながら尋ねた。


 舞「咲は今、ここにはいないのよ…。今、アメリカに行ってるの…」


 フラッピ「ラピ~!本当ラピ!?大変な、大変な事になるラピ…」


 チョッピ「…」


 フラッピ「実は…」


 フラッピが話し始めた時、満、薫、そして精霊達は何か途轍もない気配を感じ取った。


 フラッピ「ラピ~!」


 チョッピ「チョピ~!」


 フラッピとチョッピの耳が逆毛立つ。

 ムープ、フープと呼ばれた精霊は、その恐怖で満、薫の後ろに隠れてしまった。


 フラッピ「嫌な気配がするラピ!」


 チョッピ「凄い力を感じるチョピ…!」


 満「こ、この感じは…!」


 薫「私達は知ってる…」


 舞「そんな…、まさか…」



 夕凪中学校の校庭では、ベルセリウス重化学工業の工場建設への反対集会が行われていた。

 町の住人が数百人は集まって、校庭内に溢れかえっている。

 その中には咲の母「日向沙織」と咲の妹「日向みのり」の姿もあった。

 集まった住人達が壇上の美翔弘一郎の演説に耳を傾けている。


 弘一郎「我々はこの掛け替えのない海を、山を、空を、そしてこの町を未来ある子供達の為に残さなくてはなりません!」

 弘一郎「ベルセリウス重化学工業と何度も交渉しようとしましたが、残念ながら話し合いに応じてもらえませんでた…」

 弘一郎「確かに我々個々の力は小さな力です。ですが、みんなで力を合わせれば大きな相手にも決して負けないと私は信じています!」

 弘一郎「皆さんの力で子供達に美しい自然ある未来を残しましょう!」


 集会に集まった住人達から歓声が上がった。



 ?「自然?自然など汚らしい…。醜いだけだ…。真の美しさとは金属で造られた直線と曲線を指すのだ…」

 ?「自然物など、統一感のない不揃いなゴミと一緒ではないか…!」


 心に直接語りかけてくる様な、背筋が凍りつく冷たい声が弘一郎の演説を遮った。

 弘一郎が声の方を振り向くと、そこにはいつの間にかフードを被った人が立っていた。

 夏には不自然な黒ずくめのフード付きのコートで全身を覆っている。


 弘一郎「何ですか、貴方は!」


 フードの男「真の美しい世界を理解出来ない貴様らが生きている資格など、何処にもないのだ…」

 フードの男「この汚らわしい世界共々…、消えろ…!」


 フードの男がその声と共に羽織っていたコートを脱ぎ捨てた。



 その瞬間、集会に集まっていた住民達は声を失った。

 その姿は特撮やアニメに登場する怪人を連想させる姿だった。

 だがそれは、より無機質で、そして生々しい。

 まるで生物と鉱物の両方の性質を持った様な不気味な姿だった。

 身長は2メートル程の大柄だが、引き締まった体格をしている。

 その怪人の掌が光った瞬間、校庭に爆発が起こった。

 怪人の姿を見て凍りついた住人達も我に返り、逃げ惑う。


 その混乱の中、母親の沙織と離れ離れになってしまったみのりの姿があった。


 沙織「みのりー!みのりー!!」


 沙織は逃げ戸惑う群衆の中、みのりの名を必死に叫ぶ。

 だが、その声はパニック状態にある群衆の阿鼻叫喚にかき消された。


 みのり「お母さん、どこ~!怖いよ~」


 逃げ惑う人達に突き飛ばされ、みのりが群衆から弾き出された。


 みのり「お母さん…、お父さん…、お姉ちゃん…。…薫お姉さん…、助けて…」


 みのりは恐怖に震えながら、その場に泣き崩れてしまった。


 怪人がそれに気付いた。


 怪人「煩い…。消えろ…!」


 怪人の掌から再び放たれた閃光がみのりを襲う。


 怪人「何…?」


 間一髪、怪人の閃光からみのりを救ったのは薫だった。


 薫「みのりちゃん大丈夫?怪我はない?」


 みのり「薫お姉さん!」


 みのりは薫にしがみ付き、泣き顔を埋める。

 満と舞が薫に合流した。


 満「舞、みのりちゃんとお母さんを連れて安全な所まで逃げて」


 舞「分かったわ…。満さん、薫さんも気を付けて。あの人の力は…」


 薫「分かってる…」


 怪人「何だ、貴様らは…。不粋な輩だ…」


 満と薫が怪人と対峙した。


 満「私達は一度命を失った…。でも、精霊達が命を救ってくれた…」


 薫「そして、この町の人達は私達を温かく受け入れてくれた…。今度は私達が…」


 満薫「みんなを守る番!!」


 満「ムープ!」


 薫「フープ!」


 その声に満と薫の後ろに隠れていた二匹の精霊がミックスコミューンに姿を変えた。


 満薫「デュアル・スピリチュアル・パワー!!」


 二つの光が二人を包み込む。


 満「未来を照らし」


 薫「勇気を運べ」


 満「天空に満ちる月、キュアブライト!」


 薫「大地に薫る風、キュアウィンディ!」


 満薫「プリキュア・スプラッシュスター!!」


 満と薫がキュアブライトとキュアウィンディに変身し、怪人の前に降り立った。


 怪人「ん?貴様らは…、プリキュア…か?」


 満「だったら、どうなの!?」


 怪人「フフフ…、アハハハハハハ…!やっと、お目に掛かれたな!」


 校庭の片隅では、みのりと沙織を避難させた舞が、フラッピ、チョッピと共に戦いの行方を見守っている。


 舞「あの人、プリキュアの事を知ってる…?」


 怪人「我が名はイリジウム77(セブンティセブン)。私の力は大地の記憶を呼び覚ます…」


 怪人「出でよ!超(ちょう)ウザイナー!」


 イリジウムと名乗った怪人の声に大地が揺れる。

 そして校庭の土が盛り上がり、何かを形勢しはじめた。

 その土の塊が人型を形勢し始める。

 その形が整うつれ、ブライトとウィンディ、そして舞達の表情が青ざめていった。


 舞「あ、あれは…、まさか!」


 満薫「ウザイナー!!」


 イリジウム「ウザイナー?フッ…、何を言っている…。これは超(ちょう)ウザイナー!」


 イリジウム「行け!超ウザイナーよ!プリキュアを始末するのだ…!」


 超「チョー、ウザイナ~!」


 「超ウザイナー」と呼ばれた土から生まれた怪物がプリキュアを襲う。

 その怪物の大きさは10メートル近くもあった。

 しかも。


 満「これはやはり…、滅びの力…!」


 薫「滅びの力はゴーヤーンと共に滅んだはず…。それなのに何故今、滅びの力が…!」


 蘇った滅びの力。

 何故?
 誰が?
 まさか…!?

 目の前の戦いに集中しなくてはならないのは分かっている。

 しかし、ブライトとウィンディの心は、嵐の海の様に荒れていた。

 そして、その心の乱れが隙を生み、ミスを生む。

 ブライトとウィンディは超ウザイナーにジリジリと追い詰められていった。


 舞「満さん!薫さん!」


 ブライトとウィンディの苦戦する姿に、舞が思わず飛び出そうとする。


 チョッピ「止めるチョピ!咲がいなければプリキュアに変身出来ないチョピ…!」


 フラッピ「そうラピ!足手纏いになるだけラピ!」


 舞「でも、このままじゃ…!」


 チョッピ「満と薫、ムープとフープを信じるチョピ…」


 舞「咲…」


 舞は海の向こうにいる咲に思いを馳せた。




 その頃、アメリカでは咲を始めとする日本選抜チームと、アメリカ選抜チームとの親善試合が行われていた。

 マウンドには咲が立っており、夕凪中学ソフトボール部と同じ「太田優子」とバッテリーを組んでいる。


 審判「ボールゥ!」


 咲「何か…おかしい…ナリ…。絶不調…ナ…リ…」


 優子「ターイム!」


 制球の定まらない咲を心配して優子がマウンドへ駆け寄った。


 優子「咲、どうしたの!?球が全然走ってないよ!…咲!?」


 しかし、優子はマウンドに立つ咲の真っ青な顔色を見て言葉を失った。

 その瞬間、咲がマウンドに崩れ落ちた…。


 優子「咲!どうしたの咲!返事して、咲ーーー!!」




 イリジウムの襲撃から逃れた沙織とみのりは、自宅であるPANPAKA・パンに戻った。

 しかし、そこには電話の受話器を持ったまま立ち尽くす咲の父「日向大介」の姿があった。

 その表情は蒼白で、沙織も良からぬ事が起きた事を瞬時に悟った。


 大介「咲が…、咲が倒れたって連絡が…。落ち着き次第、直ぐに飛行機で日本に戻るって電話があって…」


 沙織も我を失いかけるが、右手に伝わるみのりの手の温もりがそれを引き止めた。


 沙織「店を閉めて、直ぐアメリカに向いましょう…!」


 みのり「お姉ちゃん、どうしたの…?何かあったの?」


 ただならぬ空気を感じ、泣き止んだばかりのみのりの瞳には、また涙が溜まっていた。


 大介「大丈夫だよ。あの咲に何かある訳ないだろう。うちのパンを食べれば直ぐに元気になるさ」


 沙織「そうよ、みのり。大丈夫よ」


 みのり「そうだよね…!大丈夫だよね!」


 大粒の涙を零れ落としながら、精一杯の笑顔でみのりが応えた。



 満「くっ!強い…」


 薫「このままじゃ…」


 超ウザイナーの圧倒的な力にブライトとウィンディは追い込まれていた。


 イリジウム「フハハハ…!噂程ではないな…、プリキュア!所詮、噂など信用に足らぬものなのだ…!」

 イリジウム「あのお方も用心深い…。超ウザイナー!余興は終わりだ…!プリキュアに止めを刺すのだ…!」


 超「チョー、ウザイナ~!」


 超ウザイナーの止めの一撃がブライトとウィンディを襲う。


 舞「満さん!薫さん!」


 舞が堪らず飛び出した。


 薫「…舞!」


 満「来ちゃダメー!」


 チョッピ「舞~!」


 フラッピ「駄目ラピー!」


 ブライトとウィンディに駆け寄ろうとする舞にイリジウムが気付いた。


 イリジウム「何者だ?フッ…。プリキュアの仲間なら道連れだ…!超ウザイナー、あの娘を先にやるのだ!」


 超「チョー、ウザイナ~!」


 満薫フラッピチョッピ「舞ー!!!!」


 ブライトとウィンディが舞の下に必死に駆け寄ろうとするが、超ウザイナーの攻撃の方が早い。

 超ウザイナーの拳が舞を襲う。


 舞「きゃー!」


 舞は思わず目を瞑った。

 しかし、何時まで経っても超ウザイナーの攻撃が舞には届く事はなかった。

 舞は恐る恐る目を開けた。

 その目に映ったのは七色の虹だった。

 美しい虹だ。


 舞「(きれい…。この虹、いつか見た気がする…。チョッピの故郷の虹…?本当にきれい…)」


 ?「舞さん…、お怪我はありませんか?」


 そこには女性が立っていた。

 舞に向かっていた超ウザイナーの腕が吹き飛ぶ。


 超「チョ~、ウザイナ~!」


 誰だろうか。

 彼女は舞の名前を呼んだ。

 その姿は、何処かプリキュアを思わせるコスチュームを纏っていた。

 背も舞より高く、年齢は2、3歳年上に見えた。


 舞「貴女は…」


 女性「説明は後です。満さん、薫さん、超ウザイナーを倒します。協力して下さい」


 薫「あの人、私達を知ってる…?何者?」


 満「ウィンディ、分かってるけど、今はコイツを倒すのが先よ」


 今までプリキュアを圧倒していた超ウザイナーを吹き飛ばされ、イリジウムの顔が怒りで歪む。


 イリジウム「貴様…!何者だ!!?」


 女性が凛とした立ち姿で答える。


 女性「自然と科学のコンダクター、フェアリーリップ!」


 舞「フェアリー…リップ…」


 満「フェアリーリップ…」


 薫「フェアリーリップ…」


 フラッピ「誰ラピ?」


 チョッピ「チョッピも知らないチョピ…。でも…、何か…懐かしい感じがするチョピ…」



 イリジウム「フェアリーリップだと…。フン…、プリキュアの仲間か…。行け、超ウザイナー!」


 超「チョー、ウザイナー!」


 猛スピードで向かってくる超ウザイナーにたじろぎもせず、フェアリーリップが左の腰のポーチに手を伸ばす。

 そのポーチの中には5本のリップが並んでいた。

 リップはそれぞれ五色ある。


 イリジウム「(ん?あれは…)」


 フェアリーリップは、その中からグリーンのリップを取り出し、そのリップで唇にラインを引いた。

 フェアリーリップの唇の色がゴールドからグリーンに変化した。


 フェアリーリップ「グリーンリップ・メイクアップ!」


 その声と共にコスチュームの一部が唇と同じ様にゴールドからグリーンに変わった。


 フェアリーリップ「木の精霊よ、力を貸して!」


 その声に応じる様に、校庭に植えてある木に巻きついていた蔦が何本も伸び、超ウザイナーの体を四方八方から搦め捕った。

 そして、その蔦が超ウザイナーの手足を身体を締め上げていく。

 超ウザイナーは、身体に絡んだ何本もの蔦によって身動きが取れなくなった。


 フェアリーリップ「今です!」

 ブライトとウィンディが手を繋ぎ、目を瞑る。

 二人の掌に精霊の力が集う。


 薫「精霊の光よ!命の輝きよ!」


 満「希望へ導け!二つの心!」


 満薫「プリキュア・スパイラルスター」

 満薫「スプラーーーーーーーッシュ!!」


 ブライトとウィンディの両手から放たれた光の渦が超ウザイナーを包み込む。


 超「チョ、チョ~、ウザイナ~」


 その光の渦に巻き込まれた超ウザイナーは崩れ落ち、土へと戻っていった。


 イリジウム「(まさかな…)」


 舞が気付くとイリジウムの姿は既に消えていた。



 舞「ありがとうございました。貴女は一体…?」


 何処かの高校の制服だろうか。

 フェアリーリップと名乗った少女は、セーラー服姿になっている。

 髪は三つ編みの茶色がかった黒髪で、変身時には着けていなかったメガネをかけている。


 ?「私は…、私の名前は紡(つむぎ)といいます」


 満「貴女は一体何者なの?気付かないと思って?」


 満の鋭い視線と言葉が紡と名乗った少女を貫く。


 満「貴女の戦い方…、貴女の動きは薫そっくりなのよ」


 舞「え!?」


 薫「…」


 チョッピ「本当チョピ?」


 フープ「分かったフプ?」


 ムープ「全然分からなかったムプ…」


 紡は一呼吸置いて語り始めた。


 紡「全てお話します…。信じていただけるとは思いませんが…、私は未来からやって来ました」


 一同「!!!」


 ムープ「未来ムプ!」


 フープ「凄いププ~!」


 フラッピ「そ、そんな話、聞いた事ないラピ!」


 紡「勿論、素直に信じてはいただけないのは分かっていますが、それが事実です」

 紡「そして、今から2週間後…、大変な事が起こるのです…」


 チョッピ「今のがフィーリア王女が言ってた大変な事じゃないチョピ!?」


 紡「いいえ…。今のはただの序章でしかありません…」


 満「確かにさっきは苦戦したけど、咲が帰ってくれば問題ないわ。四人で力を合わせれば、あんな敵」


 紡「それは無理です…」


 紡が満の言葉を遮った。

 この後の紡の言葉に一同は凍りつく事になる。


 紡「何故なら…、未来に…、未来にプリキュアは存在しないからです」


 満は咄嗟に紡との距離を取り、紡に対して身構えた。


 舞「つ…紡さん…、なっ、何を言ってるの…?」


 紡「咲さんは…、今から半年後、ウィルス性の病気で亡くなります。この時代では治せない病気で…」


 そこにいる誰もが耳を疑った。

 信じられない言葉だった。

 その場を沈黙と重い空気が支配した。


 フラッピ「そ、そんな事ある訳ないラピ!咲は伝説の戦士プリキュアラピ!病気になんか負ける訳ないラピ!」


 チョッピ「そうチョピ!あの咲が病気になる訳ないチョピ!舞、嘘に決まってるチョピ!」


 舞「…そうよ、嘘よ…。咲が病気で死ぬなんて、私信じない!」


 満「当たり前じゃない!もう直ぐアメリカから帰ってくるんだし、この人が言ってるのが嘘だって直ぐに分かるわよ!」


 満「舞を助けてくれた事には感謝するけど、私達にはもう関わらないで。あの敵は私達四人で倒すわ!」


 紡「…分かりました。ですが、敵は彼だけではありません。彼の所属する組織…、ネオ・ダークフォールこそが本当の敵なのです」


 満、薫、そして舞の顔が青ざめる。


 満「ネオ…」


 薫「ダークフォール…」


 舞「そんな…」


 滅びの力の復活を知った時から、その予感はあった。

 だが現実にその言葉を聞くと、過去の戦いの記憶が舞達に重く圧し掛かってきた。


 紡「私は咲さんを助ける事が出来る薬を未来から持ってきました。もし、私の事を信じて下さるなら、ひょうたん岩に来て下さい。…そこで待っています」


 そう言うと紡は踵を返し、舞達の前から去って行った。

 その態度は、まるでこれから起こる事を全て見通しているかの様だった。




 オフィスを思わせる空間。

 しかし、無機質で温かみのない冷たい空間だ。

 その通路であろうか、歩いていたイリジウムに後ろから声を掛ける者がいた。


 ?「よう!イリジウム!仕事の方は終わったのかよ!えっ!?」


 その声の主はイリジウムと異なるが、同じ怪人を思わせる姿だった。

 頭の後ろで両手を組み、陽気な雰囲気を醸し出している。


 イリジウム「(カーボニウムか…)」


 イリジウムは振り向きもせず歩き続ける。


 カーボニウム「何だよ、シカトかよ!おめおめと帰ってきたって噂だぜ!ん?もしかして、アレか?ん~、プリクラだっけか?プリンターだっけか?」


 イリジウム「プリキュアだ…」


 カーボニウムに声を掛けられても振り向きもしなかったイリジウムが歩みを止めた。


 カーボニウム「そう、それそれ!本当にいたんだプリキュア!いや~、UMAみたいなもんかと思ってたけど、本当にいたんだな!
 カーボニウム「よし、俺様もいっちょ見てくるか!」


 イリジウム「止めておけ!この仕事の担当は私だ!もし、貴様が私の仕事に口出しをすると言うのなら…」


 カーボニウム「ヘイヘイ、分かりましたよ…。退散しますよ…。まあ、アンタがしくじったなら、いずれ俺様にも回ってくるだろしね…。ニヒヒヒヒ…」


 そう言うとカーボニウムは頭の後ろで手を組んだまま、来たのと同じ方向へ口笛を吹きながら戻っていった。


 イリジウム「(クズがっ…!)」

 イリジウム「(…しかし、あの女が持っていたあれは…。調べる必要があるな…)」




 紡が去った後の校庭には、舞、満、薫と精霊達が佇んでいた。

 そこには長い沈黙の時間が流れていた。

 滅びの力の復活と未来から来たと言う紡と名乗る少女。

 そしてプリキュア、咲のいない未来。

 何が真実で、何を信じていいのか、みんなが混乱の中にいた。


 フラッピ「と、とにかく咲の家に行ってみるラピ」


 舞「そ、そうね。みのりちゃんの事も心配だし…」


 チョッピ「舞…」


 満「薫、どうしたの?さっきから黙って。咲の事は心配いらないわよ。彼女の強さは私たちもよく知ってるでしょ」


 薫「え?ええ…。ちょっとさっきの紡って人が気になって…。あの人の目…。私…、何処かで会った気がするの…」


 満「さっきは有耶無耶になったけど、あの人の動き…、確かに気になるわね…」


 フープ「満~、薫~」


 ムープ「置いてくムプ~」


 夕暮れの中、舞達三人と四匹の精霊達はPANPAKA・パンに足を向けるのだった。

 誰もが心に一抹の不安を抱きながら。





 キャスト

 日向咲(キュアブルーム)/声:樹元オリエ

 美翔舞(キュアイーグレット)/声:榎本温子

 霧生満(キュアブライト)/声:渕崎ゆり子

 霧生薫(キュアウィンディ)/声:岡村明美

 フラッピ/声:山口勝平

 チョッピ/声:松来未祐

 ムープ/声:渕崎ゆり子

 フープ/声:岡村明美

 日向大介/声:楠見尚己

 日向沙織/声:土井美加

 日向みのり/声:斎藤彩夏

 美翔弘一郎/声:入江崇史

 美翔和也/声:野島健児

 太田優子/声:城雅子

 紡(フェアリーリップ)/声:斎藤千和

 イリジウム77/声:小山力也

 カーボニウム6/声:高木渉


 超ウザイナー/声:渡辺英雄





 第2話「未来に何が?苦しみの紡」へ続く

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