第11話「最強は最硬!?カーボニウム脅威の力」
運命の日まで後3日。
オフィスの一角と思われる部屋。
そこは暗く、温かみも感じない空間だった。
その場所は、何度も見たプリキュア達の敵、ネオ・ダークフォールの建物の中だった。
その建物の中にあると思われる、いつか見た会議室を思わせる部屋。
そこにカーボニウムの姿があった。
だが、以前とは異なり、その会議室に座っているのはカーボニウム一人だけとなっていた。
中央のモニターの電源が入り、マーキュリーの姿が映し出された。
マーキュリー「フフフフフ…。我が組織…、ネオ・ダークフォール最強の矛、セシウムまで敗れるとは…。プリキュアの力、やはり侮れませんね…」
自分の部下、最高幹部であるセシウムが倒れたというのに、マーキュリーの表情は笑顔だった。
カーボニウム「…」
マーキュリー「いよいよ、貴方に出てもらう必要があるようですね。カーボニウム…」
カーボニウム「はっ!」
マーキュリー「ネオ・ダークフォール、最強の盾…。期待していますよ」
カーボニウム「はっ!マーキュリー様の期待を裏切らない結果をお待ち下さい!」
マーキュリー「フフフフフ…、アハハハハハハ…」
マーキュリーは笑い声を残し、モニターの電源が切れた。
カーボニウム「ふぅ~。(我々の創造主とはいえ、マーキュリー様との対面は息が詰まる思いだぜ…)」
カーボニウムは誰もいなくなった会議室を見渡す。
カーボニウム「まさか、セシウムちゃんまで敗れるとはね…。リチウムちゃんの裏切りがあったとは言え、確かに侮れない相手だね~」
カーボニウム「だが、所詮は人間…。この俺様には勝つ事は出来ないっしょ」
そう言うとカーボニウムは席を立ち、いつもの様に頭の後ろで手を組むと、出口の扉に向かった。
カーボニウム「しっかし、面倒くせ~な~」
そう言いながら、会議室を後にした。
フラッピ「もっとカキ氷を出すラピ!」
咲「はいはい…」
咲がクーラーボックスからアイスを取り出す。
その時、フラッピにあの痛みが襲う。
フラッピ「キーンと来たラピ~!」
チョッピ「フラッピは急いで食べすぎチョピ」
チョッピの手にはソフトクリームが握られている。
ムープ「ムープも負けないムプ!」
フープ「咲!フープも、もう1つ欲しいププ!」
ムープとフープもフラッピと同じ様にアイスをかき込む。
咲「もう~、私達の分がなくなるじゃない…!」
舞「うふふ…」
満「すっかり元気になった様ね」
薫「そうね。あの時はどうなる事かと思ったけど」
咲達はセシウムとの戦いの前に話していた海水浴に来ていた。
そこは小さな入り江になっており、周りが崖に囲まれている。
まるでプライベートビーチの様だった。
セシウムとの戦いの中で、全ての精霊の力を使い果たしたフラッピとチョッピは、あの戦いの後、まる一日眠っていた。
しかし、あれから数日経ち、今ではすっかり元気になっていた。
だが、そんな中、紡だけは浮かない表情だった。
薫「紡?」
紡「え…?あ、はい!」
薫「貴女…、まだリチウムの事を…」
紡「え、いや…。…。そう…、ですね…」
紡「私にとっては未来の先生の仇…。でも、そのリチウムが結果的とはいえ、私達を救ってくれた…」
舞「紡さん…」
満「女心と秋の空か…。あのセシウムも女性の気持ちまでは、解析出来なかったのかしらね」
ムープ「舞~!これは何ムプ?」
ムープとフープが舞のビーチバッグから空気の入っていないビーチボールを取り出した。
舞「これはビーチボールって言うの。こうやって空気を入れてから遊ぶのよ」
そう言うと舞はビーチボールの空気穴に口を当て、膨らませ始めた。
ムープ「凄いムプ~!」
フープ「大きなシャボン玉ププ~」
ムープとフープが早速ビーチボールで遊び始めた。
咲達もそれに加わる。
咲の水着はビキニタイプで、オレンジをベースに白のチェックが入っており、向日葵をイメージした水着の様だ。
胸元と腰には小さなリボンが付いている。
舞はワンピースタイプ。
薄紫の生地に手足の付け根部分と胸元に羽の様なフリルが付いた可愛らしいデザインだ。
満も咲と同じビキニタイプだが、ボトムがキュロットスカートになっている。
赤を基調としたスポーティーな印象を受けるデザインだ。
薫は青を基調としたワンピースタイプの水着だ。
大人しめなデザインだが、腰にはパレオを巻いている。
紡もビキニタイプの水着で、ボトムの腰部分は紐状だ。
黒を基調としており、高校生であろう紡が着ると、中学生の咲達から見ても大人の雰囲気を醸し出している。
水着の上に上着を着ているのだが、逆にそれが更に大人っぽさを引き出していた。
舞「紡さんも一緒に遊びましょ!」
そう言って舞はビーチパラソルの下にいる紡に声を掛けた。
紡「いえ、私は…」
薫もムープとフープのビーチボールの遊び相手をしながら紡に声を掛ける。
薫「紡、先生からの命令よ!」
薫が紡に笑顔で言った。
紡「…はい!」
紡が恥ずかしそうに答えて立ち上がった。
身体に掛けていた上着を脱ぐ。
舞「あれ?紡さん、その水着って…」
紡「はい。咲さんが私にって…。に、似合いませんか?」
赤面する紡に舞が首を振って否定する。
舞「ううん!そうじゃなくって」
満「それって、夏休み前にみんなで買い物に行った時に咲が買った水着じゃないの?」
薫「そうね。見覚えがあるわ」
フラッピが焼きトウモロコシを齧りながら言った。
フラッピ「その水着はサイズが合わなかったラピ。咲が見栄をはムゴムゴ!」
咲が急いでフラッピの口を塞いだ。
咲「ちょ!ちょっと!フラッピ!!」
咲「いや!あの!その!…ちょ~っと、派手過ぎたかな~なんて思って…」
咲が慌てて弁解に走る。
満「あの水着、和也さんに見せたかったんじゃないの?」
舞「え?お兄ちゃんに?」
咲「満!ちょっ!ばっ!なっ!」
咲は今度は満の口を塞ぎに掛かった。
薫「ふふふ…」
紡「ははは…」
小さな入り江のビーチに笑い声が木霊した。
?「何だよ!何だよ!え!?何か面白うそうな事してんじゃねぇか!よ~、よ~、俺様も混ぜてくれよ!な!」
高い崖の上に人影があった。
その姿は忘れもしない。
ネオ・ダーフォールの怪人カーボニウムだった。
咲「アンタは…」
舞「カーボニウム…」
カーボニウム「カーボンって呼んでくれよ」
咲「誰が呼ぶもんですか!」
カーボニウム「プリキュアちゃん達のお陰で、ネオ・ダークフォールの幹部も俺様だけになっちまったよ…。やれやれだぜ…」
紡「…え?」
薫「前に戦ったネオジムは幹部ではなかったの?」
カーボニウム「あ~、ネオジムちゃんね…。あいつは、うちのトップに処分されちゃったよ。ウヒヒヒヒ…」
満「処分って、どういう事よ!」
カーボニウム「あ~、つまり、始末されたって事よ!!ウヒャヒャヒャヒャ…!」
咲「そんな…」
舞「自分の部下にまで手を掛けるなんて…、許せない!」
フラッピ「咲!プリキュアに変身するラピ!」
咲「分かった!」
薫「紡!行くわよ!」
紡「はい!先生!」
フラッピ達がミックスコミューンに姿を変えた。
咲達がそのミックスコミューンを構える。
咲舞満薫「デュアル・スピリチュアル・パワー!」
紡も腰のポーチからピンクリップを取り出す。
紡「フェアリーリップ・メイクアップ!」
咲「花開け大地に!」
舞「羽ばたけ空に!」
満「未来を照らし!」
薫「勇気を運べ!」
咲「輝く金の花、キュアブルーム!」
舞「煌く銀の翼、キュアキーグレット!」
満「天空に満ちる月、キュアブライト!」
薫「大地に薫る風、キュアウィンディ!」
紡「自然と科学のコンダクター、フェアリーリップ!」
咲舞満薫「プリキュア・スプラッシュスター!!!!」
舞「聖なる泉を」
薫「汚す者よ!」
満「阿漕な真似は」
咲「お止めなさい!」
カーボニウム「何だよ!何だよ!もう変身しちまうのかよ!え!?折角だから、水着で戦ってくれよ!」
薫「貴方が言ってる事はセクハラよ…」
その言葉を聞いた途端、カーボニウムのテンションが下がる。
カーボニウム「うわ…。出たよ…。セクハラ…。あ~あ…。これだから女は面度なんだよ…」
満「ウィンディ、こんなヤツの相手をする必要はないわ!」
舞「私達の大切な時間を奪わないで!」
カーボニウム「わちゃ~。俺様、言われ放題じゃねぇかよ。嫌われたもんだね~。でも、残念だが、これも仕事…。悪いけど…、付き合ってもらうぜ!」
そう言うとカーボニウムはプリキュア達に一歩一歩近付いてくる。
だがそれは、人が歩く様なスピードで、両手を頭の後ろで組んで、口笛を吹いている。
その姿は、カーボニウムの言動と同じく、これから戦いを始める姿には全く見えなかった。
しかし、プリキュア達はこの後、カーボニウムの真の恐ろしさを知る事になるのだった。
咲「行くよ!イーグレット!」
舞「うん!」
満「ウィンディ!」
薫「ええ!フェアリーリップ!」
紡「はい!ゴールドリップ・メイクアップ!」
フェアリーリップがゴールドリップを唇に引いた。
プリキュア達がカーボニウムに飛び掛る。
しかし、カーボニウムは構えさえしない。
頭の後ろで腕を組んだままだ。
咲舞「や~!!」
ブルームのパンチがカーボニウムの腹部目掛けて繰り出される。
イーグレットはカーボニウムの目の前でジャンプし、空中から脳天目掛けて踵落しを仕掛けた。
下と上からの二段同時攻撃だ。
だが、カーボニウムにブルームとイーグレットの攻撃が当たった途端、二人が吹き飛ばされた。
咲舞「きゃ~!!」
満「ブルーム!」
薫「イーグレット!」
カーボニウムに向かって駆けているブライトとウィンディの両方の掌に月と風の精霊の力が集まる。
満「月の光よっ!はあっ!」
薫「天空の風よ!ふっ!」
カーボニウムをブライトの光弾とウィンディの風の刃が襲うが、それも何処吹く風の様だった。
爆風が巻き起こっただけで、カーボニウムには全く効いた様子が無い。
相変わらず、カーボニウムは頭の後ろで腕を組んだままだ。
満「そんな!」
薫「効いてない…!」
その爆風を切り裂いて、フェアリーリップが連撃を繰り出す。
紡「てや~!!!!」
しかし、その結果はブルームとイーグレットと同じだった。
一撃毎に弾き返される。
紡「くっ!」
フェアリーリップは連撃を止め、大きく後ろにバックジャンプした。
カーボニウム「おい、おい。もう終わりかよ?え!?」
咲「何なの、アイツの身体…!」
舞「当たってない訳じゃない…」
紡「あの感じ、まるで素手で金属を叩いてるみたいです…」
満「精霊の攻撃も全く効いてないわ」
薫「手応えはあるのに…。何故なの…」
カーボニウム「ちぇっ…。しゃーねーな~。じゃあ、撃って来いよ!お前達の必殺技!それなら俺様にも効くかもな~。ウヒヒヒヒ…」
咲「何ですって!やってやろうじゃない!」
舞「ブルーム!駄目よ!この間みたいに罠かも知れないわ!」
満「でも、このままじゃ埒が明かない…!」
薫「それに、プリキュアの力はセシウムにも効いた…。カーボニウムに効かないはずはないわ」
紡「それまで私達が二人を絶対に」
満薫紡「守ってみせる!!!」
咲「分かった!イーグレット!」
舞「うん!」
満「ウィンディ!」
薫「フェアリーリップ!」
紡「はい!」
ブライト、ウィンディ、フェアリーリップがカーボニウムに向けて駆け出す。
満薫紡「や~!!!」
カーボニウム「時間稼ぎのつもりか?信用されてねぇな~。ま、仕方ねぇか…。付き合ってやるよ!」
ブライト、ウィンディ、フェアリーリップ、三人の連撃を繰り出すが、やはり素手で金属を殴っている様な感覚だった。
その間、ブルームとイーグレットは精霊達の力を集めていた。
ブルームとイーグレットが手を繋ぎ、目を瞑る。
咲「大地の精霊よ」
舞「大空の精霊よ」
二人の掲げた掌に精霊の力が集う。
舞「今、プリキュアと共に!」
咲「奇跡の力を解き放て!」
満「今よ!」
ブライトの声を合図にウィンディとフェアリーリップも四散する。
咲舞「プリキュア・ツインストリーム」
咲舞「スプラーーーーーーーッシュ!!」
二人の両手から放たれた光がカーボニウムを包み込む。
カーボニウム「うひょ~!!すげぇ光じゃねぇか!!こりゃ~駄目かな~。グワ~」
薫「やったの!?」
フラッピ「まだラピ!」
チョッピ「強い滅びの力を感じるチョピ!」
光の渦が弾け跳んだ。
カーボニウム「なんちゃって!ヌヒヒヒヒ…」
そこには無傷のカーボニウムが立っていた。
咲「そんな…」
舞「通じない…」
満「くっ!今度は私達よ!」
ブライトとウィンディが手を繋ぎ、目を瞑る。
二人の掲げた掌に精霊の力が集う。
薫「精霊の光よ!命の輝きよ!」
満「希望へ導け!二つの心!」
カーボニウム「うひゃ~!連続の必殺技か~。こりゃ、流石の俺様も諦めるしかねぇか~!?」
満薫「プリキュア・スパイラルスター」
満薫「スプラーーーーーーーッシュ!!」
ブルームとウィンディの両手から放たれた光が再びカーボニウムを包み込む。
カーボニウム「うっ!うぎゃ~!!」
咲「今度こそ!」
しかし、そこには前と同じ様に無傷で立つカーボニウムと姿があった。
舞「そっ…、そんな…」
カーボニウム「ウヒャヒャヒャヒャ…。残念でした~」
紡「プリキュアの力が…通用しないなんて…」
満「くっ…。私達の技が効かない…」
薫「一体、どうすれば…」
最高幹部であるセシウムでさえ倒したプリキュアの力。
しかも、ベストコンディションと言える状態での攻撃だった。
それが通用しない所か、傷一つ与える事が出来なかった。
今まで、どんな強敵でさえ倒してきたプリキュアと精霊達の力だった。
プリキュア達の中で何かが折れそうになる。
咲「ど、どうせ何かトリックがあるに決まってるわ!」
舞「そうよ!何か攻略法があるはず」
カーボニウム「ウヒャヒャヒャヒャ…。めでたいやつらだね~。トリック?はっ!攻略法?はっ!そんなもん、ある訳ないっしょ!」
カーボニウム「俺様は無敵、不死身なのよ~ん。ウヒャヒャヒャヒャ…」
カーボニウムが腹を抱えて笑い出した。
カーボニウム「よし!じゃあ、頑張ったご褒美に俺様の秘密を教えてやろう!俺様の力は硬度!つまり、硬さよ!」
紡「硬さ…」
カーボニウム「俺様の身体はモース硬度10!つまり、ダイヤモンドと同じって事よ!そう!この地球上で最も硬くて強い!その俺様を傷付けるって事は」
カーボニウムが人差し指を立て、左右に振る。
カーボニウム「地球上の物じゃ不可能って、こ、と、さっ!それが例え精霊の力だとしてもな…。ヌヒャヒャヒャヒャ…」
咲「ダイヤモンド…」
舞「そんな…」
カーボニウムの衝撃的な発言にプリキュア達は言葉を失った。
カーボニウムの笑い声だけが、入り江に響き渡った。
紡「みなさん聞いて下さい」
それまで、押し黙っていたフェアリーリップが小声でブルーム達に話しかけた。
紡「確かにダイアモンドは地球上で最も硬い鉱物です。ですが、『水の一滴、岩をも砕く』という言葉があります」
薫「日本の諺ね」
咲「あれ?そうだっけ?聞いた事ないけど…」
舞「もう、前に授業でやってたじゃない…」
満「フェアリーリップは、それがカーボニウムにも通用するって言いたいの?」
紡「はい…。正直、それがダイアモンドの硬さに通じるのかは分かりません。でも…」
薫「今の私達に残された選択肢はないって事ね…」
紡「そうです」
満「つまり、同じ所を何度も攻撃すればいいって事ね?」
舞「でも、その場所は何処にすればいいの?」
紡「イリジウム、セシウム、そしてリチウム…、彼ら全員、最後に残ったのは胸の中心にあると思われる宝石…、コアでした」
咲「うん!分かった…!」
カーボニウム「女の子同士の内緒話は終わったかよ?え!?これも仕事でね?来ないなら、こちらから行かせてもらうぜいっ!?」
それまで、プリキュア達の様子を窺っていたカーボニウムが声を発した。
咲「へん!そう言っていられるのも今の内よ!こっちには取って置きの作戦があるんだからね!」
薫「ブルーム…」
満「何か…、それ…、ドロドロンのセリフっぽいわよ…」
咲「ちょ、ちょっと~!何でドロドロンと一緒にするのよ~!」
舞「みんな、行きましょ!」
一同が頷いた。
カーボニウム「作戦ねぇ~。徒労に終わるんだろうけどねぇ…。ウヒャヒャヒャヒャヒャ…」
プリキュア達とカーボニウムが再度激突した。
プリキュア達はフェアリーリップが立てた作戦通り、カーボニウムの胸部を集中的に攻撃する作戦に出た。
カーボニウムも直ぐにそれに気付いた。
カーボニウム「へ?作戦ってのは、一箇所に攻撃を集めるって事かよ?え!?ムヒャヒャヒャヒャ…」
カーボニウム「無駄、無駄…。そんな事じゃ俺様に傷一つ付ける事は出来ねぇよ」
咲「そんなの、やってみなきゃ分からないでしょ!」
カーボニウム「うひゃ~。可愛げのない女だね~。まあ、いいさ。せいぜい、頑張ってみるんだな。ムヒヒヒヒ…」
プリキュア達とカーボニウムの戦いが始まって数時間が経とうとしていた。
長時間の戦いにより、プリキュア達は疲弊し、攻撃も正確に行えなくなっていた。
カーボニウム「ヘイ!ヘイ!プリキュアちゃん!もう、へばったのかよ!え!?」
咲「な、何なの…、コイツ…」
舞「本当に傷付かないの…?」
カーボニウムはフェアリーリップの立てた作戦をあざ笑うかの様に、ノーガードで戦っていた。
あえて胸部を攻撃させているかの様にも見えた。
だが、数時間のプリキュアの猛攻にも関わらず、カーボニウムの胸部には掠り傷一つ負わせていなかった。
集中力の途切れてきたイーグレットにカーボニウムの蹴りが直撃した。
舞「きゃー!」
イーグレットが入り江の崖に向かって吹き飛ぶ。
長時間の戦いにプリキュア達の精霊の力も尽きかけていた。
既に精霊のバリアを張る事も出来ない状態だった。
紡「イーグレット!」
イーグレットが崖に激突する直前、フェアリーリップが間に入った。
舞「ありがとう…」
咲「コイツ…、本当に倒せないの…」
舞「傷一つ付ける事が出来ないなんて…」
再びプリキュア達の心の中で何かが折れそうになった。
紡「くっ…!」
満薫「みんな!諦めちゃダメ!」
それは、ブライトとウィンディの声だった。
ブライトとウィンディも身体はボロボロだ。
イーグレットやブルームと同様、体力も精霊の力も尽きかけている。
だが、それを感じさせない様な声だった。
薫「運命は変えられるって教えてくれたのは貴女達じゃない」
満「強い気持ちさえ持ち続ければいつかきっと願いが叶うって言ってくれたじゃない」
咲「ブライト…」
舞「ウィンディ…」
薫「私は信じたい。プリキュアの力を」
満「信じればきっと奇跡は起こせる」
咲「ありがとう!ブライト、ウィンディ!私達も信じるわ!」
舞「そうね!私達に出来る事をやりましょ!」
紡「(これが…、これがプリキュアの本当の強さ…。力じゃない…。やっぱり、お兄ちゃんは間違っていなかった…)」
その時だった。
フェアリーリップのポーチが赤く燃え上がった。
紡「これは…」
カーボニウム「何だよ!何だよ!え!?まだ、何かやる気かよ!?」
フェアリーリップがポーチから燃え上がるレッドリップを取り出し、フェアリーエクストレに込めた。
紡「エレメント・スピリチュアル・パワー!」
振りかざしたフェアリーエレクトレの先から真っ赤な炎の精霊が溢れ出す。
フェアリーエクストレをタクトの様に振るうと、その炎がフェアリーエクストレの動きに合わせ螺旋の帯となり、フェアリーリップを包み込んだ。
カーボニウム「おい、おい…。俺様に敵わないと分かって、焼身自殺かよ!勘弁してくれよ…。ウヒャヒャヒャヒャ…」
?「オ~レイ!チャチャチャ~。それは違うぜ、セニョ~ル…。これは俺のハートがいつも情熱で燃え上がっているからさっ!チャッ、チャ~」
その炎の中から現れたフェアリーリップのコスチュームの一部が炎の形に変化しており、瞳の色が赤色に変わっていた。
しかし、それより目を引くのが、その動きだった。
フェアリーリップは「チャチャチャ」とリズムを取りながら、常に踊り続けていた。
その踊りは、華麗とは程遠い動きのダンスだった。
舞「その声…」
咲「その動き…」
満「まさか…」
一同「モエルンバ!!!!」
モエルンバ「みんな、お待たせ!チャ、チャ…。また会えて嬉しいぜ!セニョリ~タッ!」
薫「貴方も…」
モエルンバ「そうだぜ、チャッ、チャ~。俺は火の守護精霊…。プリキュアを助ける為、炎の中から蘇ったぜ!チャッ、チャ~」
それまで、モエルンバの踊りを呆然として見ていたカーボニウムが、我に返った様な態度で捲くし立てた。
カーボニウム「おい!何だよ!何だよ!え!?その動きは!?やられ過ぎて、頭おかしくなったんじゃねぇか!?」
カーボニウム「ダンスでも踊ってるつもりかよ?ド下手なダンス踊りやがって!」
それまで常に踊り続けていたモエルンバの動きがピタリと止まった。
モエルンバ「何だと!今のは聞き捨てならないぜ!チャ!チャ!チャ!」
紡「(モエルンバ!貴方の力を使ってやってもらいたい事があるの!)」
モエルンバ「セニョリ~タからのお願い…。断る事なんで出来ないぜっ!チャ、チャ、チャ~」
紡「(実は…)」
モエルンバ「フム、フム…。了解だぜっ!セニョリ~タッ!」
再びモエルンバがダンスを踊り始める。
紡「(みなさん!)」
フェアリーリップの声がブルーム達の心に直接語りかけた。
咲「…分かった!」
舞「科学の実験と同じね!」
咲「え?そうなの?」
舞「もう…」
満「確かに一理あるわ…」
薫「もう、これに賭けるしかないわね…」
再びプリキュア達とカーボニウムが対峙する。
カーボニウム「おい、おい…!何だよ!その目は…!?私達はまだ諦めてません?って目だぞ!」
カーボニウム「そいつが変なダンスを踊ったからって、何も変わった訳じゃねぇんだぞ?お前達のやってきた事は無駄な事って事には変わりねぇんだからよ」
モエルンバ「それは違うぜ!セニョ~ル!」
再びモエルンバが踊りを止め、カーボニウムを指差した。
モエルンバ「無駄な努力なんて世の中にはないんだぜ!セニョ~ル!流した汗と涙は裏切らないんだぜっ!チャ、チャ、チャ~」
カーボニウム「ウヒャヒャヒャヒャ…。今時、根性論かよ!え!?じゃあ、俺様が努力しても無駄だったって事を教えてやるよ!」
モエルンバ「それは、こっちのセリフだぜ!チャ、チャ、チャ~!イッツ、ショータイーッム!!」
プリキュア達とカーボニウムの激闘が再び幕を開けた。
モエルンバは両手から炎を生み出し、それをカーボニウムに向けて放つ。
カーボニウム「は!?この俺様が炎如きで燃やせると思ったのかよ!」
カーボニウム「ダイヤモンドがどうやって出来るか知ってるのかよ?え!?地球内部の高温高圧の場所で生成されてるんだぜ!?それが!」
そう言うとモエルンバの放った炎を弾き飛ばした。
カーボニウム「こんな生っちょろい炎で燃やせるもんかよ!ウヒャヒャヒャヒャヒャ…!」
モエルンバ「なら、こちらも教えてやるぜ!チャ、チャ、チャ!」
モエルンバが両手を頭上に挙げた。
その掌の上に小さな火種が出来る。
モエルンバ「この宇宙で最も低い温度は絶対零度…。つまり、-273.15℃…チャ、チャ~」
モエルンバの掌の火種がみるみる大きくなる。
モエルンバ「それに対して、絶対温度が何度か知ってるかい?セニョ~ルッ?」
カーボニウム「そんな事、知ってる訳ねぇだろ~!くっだらね~」
プリキュアの攻撃を軽々捌きながら答えた。
だが、モエルンバの掌の上にある火球を見て、カーボニウムの動きが止まった。
その火球の大きさは、いつも間にか10メートルをも超えていた。
まるで、小さな太陽がそこに生まれた様だった。
モエルンバ「答えは…、チャ、チャ~!そう!無限大…!ファイヤーーーーーー!!」
その掛け声と共に巨大な火球がモエルンバの両手から放たれた。
カーボニウム「おい!えっ!じょっ、冗談だろっ!!?」
プリキュア達は、モエルンバが放った火球がカーボニウムにぶつかる直前で四散し、身をかわした。
カーボニウム「クソッ!」
今までプリキュアのどんな攻撃を喰らっても防御姿勢を取らなかったカーボニウムが思わず防御体勢を取った。
小さな太陽とも言える程の熱を帯びた火球がカーボニウムを直撃した。
カーボニウム「くっ!…。おい!おい!おい!何だよ!これっ!!身体が燃えてるじゃねぇか~!!!え!?」
火球の直撃を受けたカーボニウムの身体が燃えている。
モエルンバ「俺も燃えるぜ!セニョ~~~~~~ッル!」
そこへバレリーナの様にクルクルと回転しながらモエルンバが、カーボニウムにドリルの様な回転蹴りを入れた。
カーボニウム「ちょ!ちょ!マジかよっ!!!?えーーーーーーーー!?」
モエルンバの回転蹴りを喰らったカーボニウムが入り江の海中に突っ込んだ。
火球によって熱せられていたカーボニウムが海中に落ちた為、その熱で海水が蒸発し、辺り一面に水蒸気が上がった。
その水蒸気によってカーボニウムは視界を奪われた。
まるで濃霧の中にいる様だった。
カーボニウム「ウヒャヒャヒャヒャ…!バカだね~!自分で火を付けて、自分で消してやんの!」
カーボニウム「これで俺様にどんな攻撃も通用しないって分かったろ!?え!?」
しかし、カーボニウムの声に誰も答えない。
波の音が聞こえるだけだ。
カーボニウム「はっ!お前ら、ほんっと~~~~~~~に、救い様のないバカだな…」
その時、何処かでガラスに皹が入った様な音がした。
カーボニウム「あぁ?何の音だ?」
モエルンバ「言ったはずだぜ、セニョ~ル。流した汗と涙は裏切らないんだぜっ!チャ、チャ、チャ~」
モエルンバの声が木霊した。
カーボニウム「はぁ~?お前、な…、にぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!??」
カーボニウムがふと目を落とすと、自分の胸部に皹が入っていた。
その場所は、プリキュア達が何度も、何度も攻撃していた場所だった。
モエルンバ「水の一滴、岩をも砕く!だぜっ!チャ、チャ、チャ~!今だ!セニョリ~~~~タッ!!」
再びモエルンバの声が木霊した。
カーボニウムが慌てて周りを見渡す。
だが、先程の水蒸気で視界を奪われたままだった。
咲「大地の精霊よ」
舞「大空の精霊よ」
薫「精霊の光よ!命の輝きよ!」
満「希望へ導け!二つの心!」
舞「今、プリキュアと共に!」
咲「奇跡の力を解き放て!」
水蒸気による濃霧に囲まれた一帯にプリキュアの声だけが響く。
カーボニウム「おい!おい!!おい!!!マジかよ!!?冗談だろ!!え!!!?」
咲舞満薫「プリキュア」
咲舞「ツインストリーム」
満薫「スパイラルスター」
咲舞満薫「スプラーーーーーーーッシュ!!!!」
カーボニウムの目の前の霧が突然晴れた。
だが、そこでカーボニウムが見た物はプリキュアから放たれた巨大な光の渦だった。
カーボニウムがその光の渦の直撃を受ける。
カーボニウム「だ、大丈夫に、き、決まってんだろ…っ!お、俺様はネオ・ダークフォール…、さ、最強の盾だぞっ!!!」
だが、光の渦の直撃を受けたカーボニウムの胸部の皹がどんどん広がっていく。
咲舞満薫「はあーーーーーーーーーーっ!!!!」
プリキュアから放たれた光の力が更に強くなった。
カーボニウム「よせっ!よせぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
光の渦の中でカーボニウムのコアが遂に剥き出しになった。
カーボニウム「…俺様…は…、死ぬ…のか…。そ…、そんなわきゃ…ねぇだろ…。え!?俺様は…、俺様は…不死身で…、無敵の…。俺様は…」
遂にカーボニウムは光の中に消えていった。
その後、霧が晴れた砂浜には砕けた宝石が一つ落ちていた。
キャスト
日向咲(キュアブルーム)/声:樹元オリエ
美翔舞(キュアイーグレット)/声:榎本温子
霧生満(キュアブライト)/声:岡村明美
霧生薫(キュアウィンディ)/声:渕崎ゆり子
フラッピ/声:山口勝平
チョッピ/声:松来未祐
ムープ/声:渕崎ゆり子
フープ/声:岡村明美
モエルンバ/声:難波圭一
紡(フェアリーリップ)/声:斎藤千和
カーボニウム6/声:高木渉
マーキュリー80/声:三瓶由布子
第12話「最終決戦!奪われた太陽!」へ続く
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