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 「プリキュア テレビアニメ10周年記念作品」SS編 第4話



 「クリスマス・イブ」の前夜となる12月23日の深夜。
 ここ「PANPAKAパン」の厨房では、作業に勤しむ咲の姿があった。
 そんな咲の手には生クリームの絞り器が握られていた。


 「う~ん…、ん…、ん…」

 咲の視線の先には、まだ作りかけのケーキがあった。
 搾り器でケーキの上に生クリームをトッピングしていく。
 咲が行っていた作業とは、クリスマスケーキ作りだったのだ。
 見た目が悪いが味は良いと評判の咲の料理だったが、パテシエの父の血がなせる業か、
 そのケーキは中学生が作ったとは思えない程の出来栄えだった。
 最後に、クリスマスケーキの上にデコレーションの板チョコを乗せた咲が歓声を上げる。


 「出来た~!」

 「何が出来たの?」

 それは咲の母「沙織」の声だった。
 深夜の厨房に電気が付いる事に気付いた沙織が、様子を見に来たのだ。


 「は!?」

 突然の母親の声に驚いた咲は、慌ててクリスマスケーキを身体の後ろに隠す。

 「うわ~ぁ!何でもないよ~」

 「ん?」

 「あ、あはは…、ははは…、はは…」

 手作りのクリスマスケーキの事を母親から何とか隠そうする咲からは、明らかに焦りの色が見て取れた。
 誤魔化し笑いをする咲の顔に汗が浮かぶ。


 「まあいいわ…。明日はクリスマスセールで忙しくなるから、早く寝るのよ」

 そんな咲の態度に怪訝そうな表情を浮かべた沙織だったが、そう言うと寝室へと戻っていった。

 「あ、は~い…」

 ホッとした咲は、残りの作業に移る。
 クリスマスケーキをピンクの包装紙でラッピングすると、厨房の冷蔵庫に入れた。
 ラッピングのリボンには、紙で出来た花飾りが付いており、プレゼント用だという事が見て取れた。


 「よし!明日の準備は完璧!」

 そう言って、ガッツポーズを取る咲だった。




 翌日のクリスマス・イブ。
 クリスマス・イブ当日の朝は、晴天に恵まれていた。
 天気予報によれば夜から雪になるそうだが、今の時点では一向にそんな様子は感じられなかった。

 「PANPAKAパン」
のショーケースの中には、様々なクリスマスケーキが並んでいた。
 そのクリスマスケーキを見た舞やくるみ達から歓声が上がる。

 「わ~、美味しそう~」


 クリスマスセール当日を迎えた「PANKAPAパン」には、咲やみのりだけではなく、舞やくるみ、テンコの姿があった。
 そこに咲の父「大介」と沙織が店の厨房から出てきた。


 「みんな、今日は手伝いに来てくれて、ありがとう」

 「ケーキの予約が多くて、毎日人手が足りないのよ。大変かも知れないけど、宜しく頼むわね」

 「こちらこそ。こういうお手伝いって普段は出来ないから、とっても嬉しいです」

 舞の言った通り、今日は「PANKAPAパン」のクリスマスセールの手伝いをする為、くるみやテンコも集まっていたのだ。
 普段から「ナッツハウス」の手伝いをしてるくるみは、久しぶりの店の手伝いにやる気まんまんだったが、案の定、テンコは最後まで嫌がっていた。
 だが、最終的にはいつも通り、くるみとアルカードに強引に引っ張られ、ここ「PANKAPAパン」まで連れて来られたのだった。


 「終わったらクリスマスパーティーだからね!楽しみ、楽しみ」

 そう言って盛り上がる咲に、みのりが問いかける。

 「ねえ、ねえ、健太お兄ちゃんは、お手伝い来ないの?」

 「星野君は図書館のクリスマス会に行ってから来るそうよ」

 それは舞の声だった。
 クラスメートの「安藤加代」が朗読会を行っている図書館で、今日は子供たちを招いてクリスマス会が開催される事になっていた。
 その中で健太は新作の漫才を披露すると、やる気満々だった。


 「宮迫君と漫才やるって言ってたけど…、ま~た、みんなの前で寒いギャグ披露するんだろうな~」

 そう言った咲に、みのりが再び問いかける。


 「え~。じゃあ、ソフトボールのお姉ちゃん達は~?」

 「えへへ…、優子が星野君の新ネタは絶対見逃せないって、仁美も連れて行っちゃったの」

 「みんなも後でパーティーに来るから。くるみさんもテンコさんも一緒に楽しみましょうね」

 「そうね」

 舞の言葉に笑顔で返すくるみに対し、テンコは相変わらず空気を読まないローテンションだった。

 「はぁ…。パーティーなんて、めんどくさい…」

 溜め息をつきながら、小声でそう呟くテンコ。
 そんなテンコの言葉に、みのりは驚きを隠せない。


 「嘘!?嫌なの~?」

 「い、嫌な訳ないじゃない!ねえ!?」

 くるみが慌てて、その場を何とか誤魔化そうとする。
 そして、みのりに気付かれない様にテンコを睨みつけるくるみだったが、テンコにとっては何処吹く風。
 我関せずとばかりに、そっぽを向くのだった。

 その時、咲が何かを思い出した様に急に声を上げた。


 「あっ!そう言えば、みんなにお願いがあるんだ」

 「お願い?」


 そこにはサンタクロースの衣装に身を包んだ舞とくるみ、そしてテンコの姿があった。
 勿論、咲とみのりもサンタの衣装に着替えている。
 サンタの衣装と言っても、本格的なサンタクロースの衣装ではなく、所謂女性用のポップな衣装だ。
 下もズボンではなく、スカートになっている。
 咲たちはスタンダードな赤色の衣装だが、みのりの衣装だけはピンク色となっていた。


 「変身完了~!」

 「サンタさんだ~!」

 ノリノリに答える咲とみのりだったが、舞は少し恥ずかしそうだった。


 「ちょっと恥ずかしいかも…」

 「何で私まで…」

 テンコもくるみとアルカードの手によって、強引に着替えさせられていた。

 「まっ、私は経験済みですけどね」

 くるみは、ナッツハウスのクリスマスセールでサンタのコスプレは経験済みだった。
 恥ずかしがる舞に、相変わらずやる気のないテンコ

 「みんな、バッチリ似合ってるわよ。それじゃあ」

 「がんばろ~!!」

 「う、うん…」

 咲とみのり、そしてくるみのノリに戸惑いながらも頷く舞だった。


 そして「PANPAKAパン」のクリスマスセールが始まった。
 沙織の言った通り、店内はクリスマスケーキを求める客で、ごった返していた。
 お客さんへのケーキの手渡し係はみのりとテンコ、レジは沙織、ケーキ作りは大介、舞はラッピング、咲とくるみは接客を担当していた。

 「ありがとうございました~!!」

 「どうも、ありがとう」

 お客さんを送り出す咲とくるみ。
 そんなくるみを見た咲が、微笑み、感嘆の声を上げる。


 「へえ~」

 「
ん?何?」

 「あ、何でもないよ。接客の素人とは思えないな~って思って」

 「当たり前でしょ。私はパルミエ王国のお世話役よ!」

 そう言って胸を張るくるみ。
 そんなくるみを咲が更に持ち上げる。


 「さっすが~、くるみ!接客のプロね」

 咲の言葉に満更でもない表情を浮かべるくるみだった。

 その時、咲のポケットからフラッピの声が響いた。


 「咲~、お腹空いたラピ」

 「(うわ~!静かにして~)」

 慌てた咲が小声でフラッピに注意した直後、今度は舞のポケットからチョッピの声が響く。

 「チョッピもチョピ~」

 「はぁぁ!?うっ、チョッピもなの?」

 フラッピやチョッピの声に慌てる咲や舞にくるみが声を掛ける。


 「ここは任せて。私たちで大丈夫よ」

 「ありがとう。くるみ。テンコ」

 「え…?」

 舞からトレーを渡されて、呆然とするテンコ。

 「ごめんなさい」

 そう言って、咲と舞は店舗の裏へと走っていった。
 いきなり、舞からトレーを渡されて呆然としていたテンコだったが、その時、自分の顔が入り口のドアのガラスに映り込んでいる事に気付いた。
 テンコはガラスに映った自分の顔を見つめた。
 そんなテンコの口元が僅かに緩んだ様に見えた。

 「何してるの?」

 それは、くるみの声だった。
 ガラスを見つめているテンコに気付いたくるみが、テンコに声を掛けた途端、テンコの口元がいつものへの字口に戻った。


 「別に…」

 そう言うと、テンコは舞から渡されたトレーを片付けに行った。
 テンコの様子に怪訝な表情を浮かべたくるみだったが、咲と舞が抜けた現場から追い立てられる様に、仕事へと戻っていった。



 咲とみのりの部屋の中に咲と舞の姿があった。
 二人はベッドに腰掛けると、「クリスタル・コミューン」を振り、ヘッドのボール部分に息を吹きかけた。
 すると、フラッピのクリスタル・コミューンから小さな光の珠が飛び出し、それが精霊の形を模った。

 「アマアマ、アマアマ」

 それは精霊「アマアマ」だった。
 その名の通り外見は、甘い生クリームの様な姿をしていた。

 「ヤ~」

 アマアマの掛け声と共に指先から放たれた小さな精霊の光が、フラッピとチョッピのクリスタル・コミューンに降り注いだ。
 フラッピとチョッピが精霊の姿に戻ると、二人の手にはペロペロキャンディーが握られていた。
 しかし、フラッピとチョッピはそれに不満の様だ。


 「クリスマスだし、今日はケーキが欲しいラピ」

 「ええ~!?はいはい」

 そんなフラッピたちの我がままに呆れる咲だったが、フラッピたちの要望通り、咲と舞は再度息を吹きかけた。

 「ヤ~」


 それに応える様に、アマアマがフラッピとチョッピのペロペロキャンディーへ小さな精霊の光を振りかけた。
 すると、フラッピとチョッピの持っていたペロペロキャンディーンが、マロンケーキへと変化したのだった。

 「うわ~!いただきますラピ」「いただきますチョピ」

 美味しそうにマロンケーキを頬張るフラッピとチョッピ。

 その様子を見ていた咲が、ここが機とばかりに頬を染めながら舞に話しかける。


 「ね、ねえ、舞。別にどうでもいいんだけどさっ、今日のパーティー、和也さんは…、え~、どうする予定なのかな~って思って…」

 「和也」とは舞の兄「美翔和也」の事だ。
 咲は、その和也にほのかな恋心を抱いていた。
 どうでもいいと言う咲だったが、その態度から、それが大きな間違いだという事は、誰の目から見ても明らかだった。
 しかし、恋愛関係に鈍感な舞は、そんな咲の恋心に全く気付いていなかった。
 あっけらかんと答える。


 「うん。声を掛けたんだけど、クラスのみんなでパーティーするから、来られないみたい」

 「ええ~!…がっかり…」

 先程、どうでもいいと言っていた咲だったが、舞の言葉を聞いた途端、明らかに表情が曇った。
 そんな咲の変化に気付いた舞が、咲に問いかける。


 「お兄ちゃんがどうかしたの?」

 舞の問いに、咲は落胆の表情を隠す事なく、答え始めた。


 「う、ううん…。どうもしないよ…。そう言えば、誕生日プレゼントのお返しまだだったし」
 「もし、もしね、来られるんだったら渡そっかな~なんて思っただけなのよ」

 咲も笑顔を取り戻そうと頑張ったが、引きつった笑顔をするのが精一杯だった。
 しかし、先にも述べた通り、この手の話題に鈍感な舞は、その事に全く気付かない。


 「あ~、夏合宿の時のね」


 それは夏休みの時の出来事だった。
 ソフトボール部の夏合宿の最中に誕生日を迎える咲の為、ソフトボール部員や舞たちクラスメート、そして咲や舞の家族が協力して、
 咲のサプライズ誕生日パーティーを行ったのだ。
 その時、和也が咲にプレゼントした隕石の欠片の事を舞は思い出した。



 「お返しなんて、気にしなくていいのに~」

 「い、いや~、でも、そういうのって、ちゃんとしといた方がいいのかな?って」

 その会話にムープとフープ、フラッピが加わる。

 「クリスマスにお返しムプ?」


 「今日渡すって事はクリスマスプレゼントププ」

 「それは間違いなく、こ~く~は…!」

 「うわああぁぁぁぁああ!」

 咲の本音を語ろうとしたフラッピの口を咲は慌てて塞ぎ、羽交い絞めにした。
 そんな咲の行動を不思議そうに見つめる舞。


 「こく?」

 「(む~む~!)」

 咲に口を押さえられ、もがき苦しむフラッピに代わって咲が答える。

 「こ、コクと香りがあって、美味しいケーキだって!あ、あはは、は…。あっ、そろそろ戻らなきゃ、ね!ねっ!」

 「(む、むふ…)」

 咲の気迫に押され、頷くフラッピ。
 そして、そんな咲たちの様子を不思議そうに見つめる舞だった。




 ここは一筋の光も差す事のない滅びの国「ダークフォール」。
 その一角にある湖の上に、ダークフォールの支配者「アクダイカーン」の側近中の側近である「ゴーヤーン」の隠れ家があった。
 湖の中に浮かぶ岩山を削って造られた隠れ家の外観は、まるでゴーヤーンの顔そのものだった。
 その隠れ家の中には、滝に囲まれた庵があり、そこには自ら点てた茶をすするゴーヤーンの姿があった。


 「一体いつになれば王女の居場所を突き止められるのですか~?アクダイカーン様も大層お怒りにございますよ」

 ゴーヤーンが何者かに話しかけている。
 その場にいたのは、ゴーヤーンだけではなかった。
 そこにはダークフォールの幹部である「キントレスキー」と「ミズ・シタターレ」の姿があった。
 しかし、二人ともゴーヤーンの小言を気にする素振りもない。
 キントレスキーはダンベルで筋力トレーニングに励み、シタターレは自らの髪の毛を丹念にブラッシングしていた。
 そんな二人の態度に、流石のゴーヤーンも痺れを切らす。


 「聞いているのですか!?他のみなさんがプリキュアに敗れ、残るは貴方達だけでございますよ。何の為に蘇ったか分かっておるのですか!」


 「うるさいわね!ゴーちゃん…!アタクシをあいつらと同じにしないでくれる…?何度蘇っても弱い奴は弱いままなのよ」

 シタターレは、そう言い放つと、再び髪の毛のブラッシングを始めた。
 その言葉にキントレスキーが続く。


 「力無き者は敗れ、強者だけが生き残る…。それが勝負の定め…」

 「うん、そう…。私(わたくし)の様な強い者だけが」

 そのシタターレの言葉にキントレスキーが咬みついた。


 「何を言う!?強者とは、鍛え上げた肉体を誇る戦士の事…!貴様の様な軟弱者と一緒にするなっ!」

 「何ですって~!?このアタクシにだって筋肉ぐらいあるわよ!筋肉ぐらい!ほう~ら!プリプリプリ~ヒヒンッ!」

 そう言ってミズ・シタターレは二の腕を曲げてみせた。
 そんなシタターレにキントレスキーは、視線だけを向ける。
 だが、力を込めて、筋肉の盛り上がりを見せようとしているシタターレの二の腕には、さほど変化は見られなかった。


 「フン…」

 それを見たキントレスキーは、視線を戻し一笑に付した。
 キントレスキーのその態度がシタターレの癇に障る。


 「な、何が可笑しいのよ!?」

 そう言って、シタターレは立ち上がった。
 そんなシタターレにキントレスキーが、座ったまま言い返す。


 「それは筋肉ではない!」

 「肉は肉でしょ!」

 「お止めなさいぃぃぃ!!」

 言い争いを始めたキントレスキーとシタターレをゴーヤーンが一喝した。
 そして、言い争いを止めた二人の視線がゴーヤーンに向けられた。
 ゴーヤーンが言葉を続ける。

 「お二人とも、そこまで自信がおありなら、こうしましょう…」
 「プリキュアを倒したお方が、ダークフォール最強の戦士の称号を…得る…!それで宜しいですか?」


 「フン…!ゴーちゃんに言われなくても…、私(わたくし)がなってやるわよ!」

 「いや!最強の称号は私の物だ!」

 シタターレの言葉にキントレスキーが反応した。
 何故なら、嘗てダークフォール最高の戦士の称号は、キントレスキーの下にあったからだ。
 そう、プリキュアに敗れるまでは。

 「あら、そう…。だったら、どっちがプリキュアを倒すか勝負よっ!」

 シタターレの表情からも、その真剣さが窺えた。
 それにキントレスキーも応える。


 「いいだろう…。我が上腕二等筋にかけて、負けはせん…!」

 そう言うと、キントレスキーは腕を曲げ、二の腕の筋肉を盛り上がらせた。
 キントレスキーの二の腕の太さが、二倍近くも膨れ上がった。
 そして、それを合図かの様に、キントレスキーとシタターレは、咲や舞が暮らす「緑の郷」へと向かうのだった。

 「トウッ!」


 「フッ!」

 そんな二人の様子に、囲炉裏の前に一人残ったゴーヤーンが溜め息をつく。

 「ハァ~。ホントに頼りになるんですかね~?いずれにしても、次の一手考えておかねばなりませんかね」

 そう呆れた様に言ったゴーヤーンは、手にしていたお茶を一気に飲み干した。
 だが、お茶を飲み干した後のゴーヤーンの表情は一変していた。


 「ですが…、その前にダークフォールに入ったネズミの始末ですかねぇ…」



 「一体、ここはどうなってんのよ~。私たち、もう何日歩き回ってるのよ~」

 ダークフォールの何処かと思われる場所。
 暗く、広い洞窟が何処までも続いていた。
 そこに、そんな場所には不似合いな少女の声が響いた。


 「ここはダークフォールの中ダス…。そう直ぐには抜け出せないダス…」

 もう一つの声が聞こえた。
 その二つの声の主の姿が見える。
 最初の声の主は、咲や舞たちと同世代の少女だった。
 着ている服は、年頃の少女らしい服装だったが、その姿は何処かテンコに通じるものがあった。

 そして、もう一つの声の主は、何とムササビの様な小動物が発した声だったのだ。
 そう、それはテンコと共にいる妖精「アルカード」とそっくりな姿だった。
 しかし、アルカードの女性的な物腰に対し、この妖精は何処か男性的な物腰をしていた。
 そんな二人の会話を聞いていると、どうやら何日もダークフォールの中をさ迷い歩いている事が伝わってくる。
 一体、彼女たちは何者なのか。

 その時だった。


 「はぁ…。目的の物は一体…、どこなのよ~~~~!」

 突如、少女が大声を出したのだ。
 ムササビの様な姿をした妖精が慌てて少女の顔にしがみ付き、口を塞ぐ。

 「(しっ、静かにするダス~!)」

 自分の顔にしがみ付いた妖精を少女が強引に引き剥がした。

 「大丈夫よ…!もう何日も誰とも会っていないんだから。きっと、今ここには誰もいないのよ!」

 「ほほお…。あなた達ですが、ここ数日ダークフォールをうろついてたネズミは…」

 突然の声に驚く少女と妖精。
 二人が声の方へ振り向くと、そこにいたのは何とゴーヤーンだった。


 「なっ!なっ!何なのよ!いきなり!びっくりするじゃないっ!」

 驚かされた少女が、怒りの声を上げた。
 だが、一方の妖精の方は、どこか様子がおかしかった。
 身体がガタガタと震えていた。
 それは、ゴーヤーンの突然の声に驚いたからではない事が見て取れた。
 
その妖精は、ゴーヤーンの存在自体に恐れを抱いているかの様だった。

 「何なのよ…、アンタ…。なんか弱そうな顔ね…」

 そんな妖精の様子に気付いない少女が、ゴーヤーンを挑発した。

 「やっ…、止めるダ、ダス…」

 少女の挑発を止めようと、妖精は震える身体から、何とか声を絞り出した。
 だが、少女は聞く耳を持たない。


 「ちょっと、ホンキダス…。何ビビってんの?私を誰だと思ってるの」

 そう言うと少女は、腰のポーチから一枚のカードを抜き出した。
 そのカードには、プリキュアの様なイラストが描かれていた。
 しかし、それは見た事のないプリキュアの姿だった。

 少女がそのカードを正面に翳すと、右の腕の部分にカードのドライバーが浮かび上がり、腕に装着された。
 それは、何処か「キュアリアリー」のドライバーと共通するデザインだったる


 「チコ!やっ…、や、止めるダス~!」

 「ホンキダス」と呼ばれた妖精は、少女の事を「チコ」と呼んだ。

 「トランスフォーム!プリキュア!」

 チコは、ホンキダスの制止を聞かず、ドライバーにカードを通した。

 「Read complete CureMirage

 ドライバーから音声が流れると、ドライバーによって等身大に拡大されたカードがチコの前にホルグラフィーの様に浮かび上がった。
 そして、そのホログラフィーとなったカードがチコの身体をすり抜けていく。
 カードがチコの身体を通り抜けると、そこには見た事のないプリキュアに変身したチコの姿があった。


 「世界と世界を開く扉!キュアミラージュ!」

 チコは何と「キュアミラージュ」、「プリキュア」と名乗ったのだった。

 その様子を黙って見ていたゴーヤーンの口元に笑みが浮かぶ。


 「キュアミラージュ…?聞いた事ありませんね~」

 ゴーヤーンの口調には余裕が伺えた。
 だが、それはチコが変身したミラージュも同じだった。


 「覚える必要はないわ…。だってあなた…、今ここで私に倒されるんだから」

 そう言ってミラージュは、ゴーヤーンにウィンクした。

 「ほほぉ~。大した自信ですな…」

 ゴーヤーンの言葉を無視するかの様に、ミラージュは腰のポーチからカードを二枚取り出した。
 それを立て続けに右手のドライバー「ミラージュ・ドライバー」に通す。

 「Read complete DarkLemonade

 「Read complete DarkMint

 カードをドライバーに通す度にドライバーから音声が流れる。
 ドライバーを通したカードが、チコがミラージュへと変身した時と同じ様に、ミラージュの前に拡大され、浮かび上がった。
 だが、その拡大されたカードは、宙に浮かんだまま静止している。
 そしてミラージュは、更に一枚のカードを取り出した。

 「とっておきの…、見せてあげるわっ!」

 そう言って、そのカードをドライバーに通した。

 「Read complete DarkPrecure

 そのカードが、前の二枚のカードと同様、ミラージュの前に浮かび上がった。
 ミラージュの前に拡大された三枚のカードが浮かび上がっていた。
 そのカードには、あのプリキュア達が描かれていた。

 ミラージュが両腕を前に突き出し、右手の親指と人差指を立てて、左手を右手首に添える。
 それは、まるで拳銃を撃つ様なポーズを取っている様に見えた。

 「BANGBANGBANNNNNG!」

 ミラージュの声と共に右腕に装着されたドライバーから発せられた光が、ミラージュの人差指を伝い、目の前の三枚のカードを打ち抜いた。
 その瞬間、三枚のカードから三人のプリキュアが、まるで扉を潜る様に現れたのだ。
 そこに現れたのは、「ダークレモネード」、「ダークミント」、そして「ダークプリキュア」の姿だった。

 「みんな!やっちゃいなさいっ!」

 ミラージュの声に従うかの様に、三人のプリキュアがゴーヤーンを三方から囲んだ。
 だが、ゴーヤーンは何もせず、笑みを浮かべ、されるがままだった。
 いつもの様に手を揉む仕草をしたまま、その場に浮かんでいた。


 「ウッフフフフ…、ダークネス!フラァアアアアッシュ!」

 「ダークネスーッ!スプレーーーッド!」

 ダークレモネードとダークミントが続け様に必殺技を放つ。
 そして、ダークプリキュアが「ダークタクト」を構えた。


 「消えろ…。ダーク・フォルテウェーブ…!」

 三人のプリキュアの同時攻撃がゴーヤーンに襲いかかる。
 だが、ゴーヤーンは、その攻撃を避ける素振りさえも見せない。
 プリキュアから放たれた必殺技がゴーヤーンに直撃すると、その爆発により土煙が舞い上がった。


 「うふふ…」

 ダークフォールの大地をも揺るがす、プリキュア三人の同時攻撃だった。
 その衝撃により、洞窟の一部が崩れ落ちた。
 勝利を確信したミラージュから笑みがこぼれる。
 しかし、そんなミラージュの足をホンキダスが引っ張った。


 「ちょ、ちょっと何なのよ!放しなさいよっ!」

 「(いいから、逃げるダス!)」

 ホンキダスはミラージュに小声で返すと、強引にミラージュを引っ張って行こうとする。
 だが、ミラージュにはホンキダスが何を恐れているのかが全く分からない。
 ミラージュはホンキダスを足から引き剥がし、つまみ上げた。


 「何で逃げる必要があるのよ!あんな小物、ざっとこんなものよ!」

 しかし、ホンキダスはミラージュの手を振りほどくと、再度ミラージュの足を掴み、強引に引っ張って行こうとした。

 「兎に角、逃げるダス~!」



 そんな中、必殺技の爆発による土煙が晴れてきた。
 勝利を確信して微笑むダークミント。
 だが、その顔から笑みが消え、みるみる青ざめていった。


 「うっ…!そんなっ…!」

 ダークミントの視線の先にあったのは、無傷のゴーヤーンの姿だった。
 しかも、ゴーヤーンの顔には先程と変わらぬ余裕の表情が浮かんでおり、同じ様に手を揉む仕草を繰り返していた。


 「私の歌で止めを刺してあげるわ!」

 再度、必殺技を放とうと、ダークレモネードが構えた時だった。


 「傀儡(くぐつ)とは言え…、なかなかの力…。ですがっ!」

 そう言うとゴーヤーンは、三人のプリキュアの前から姿を消した。

 「何!?」

 ダークプリキュアが気付いた時、ゴーヤーンは既にダークプリキュアの背後を取っていた。
 そのゴーヤーンの掌に滅びの力が集まっていく。
 振り向く事すら許されない威圧感に、ダークプリキュアの頬を一筋の汗が伝った。

 「フフフフ…!」

 そして次の瞬間、ゴーヤーンから放たれた滅びの力によって、三人のプリキュアは一瞬にして消し去られてしまったのだった。

 三人のプリキュアを始末したゴーヤーンは、ミラージュへと視線を移した。
 しかし、そこにミラージュの姿は既になかった。


 「おや…?逃げられましたか…。逃げ足もネズミと同じですね~」
 「フフフ…。まあ、いいでしょう…。あの程度の者…、泳がしていても問題ありません…」


 そう言い残して、ゴーヤーンは地面に現れた滅びの力の空間の中へと姿を消した。


 その様子をミラージュとホンキダスは岩陰に隠れ、息を殺し伺っていた。

 「(なっ、なっ、何なのよ!あの化け物はっ…!あのダークプリキュアさえ、一瞬で倒すなんて…!)」

 さっきまでの自信は何処へ行ったのやら、ミラージュは岩陰に隠れたまま、小声でホンキダスに問いかけた。

 「(あれが『スプラッシュスター』の真の支配者『ゴーヤーン』ダス…)」

 「(あんな化け物に、どうやって勝てって言うのよ!)」

 「(今のミラージュの力だけでは無理ダス…。この世界のプリキュアの力が必要ダス…)」

 「はぁ…。気に食わないけど、こうなったら、あの女が何とかしてくれるのを待つしかないわね…」

 そう言って、ダークフォールの暗い空を見上げたミラージュの脳裏には、テンコの姿が浮かんでいた。



 「PANNPAKAパン」の厨房の冷蔵庫を開け、昨夜作ったクリスマスケーキを見つめる咲の姿があった。
 和也がパーティーに来ないと言った舞の言葉を思い出しては肩を落とす。


 「(はぁ…。和也さん、今日は来られないのかぁ…。折角プレゼント作ったのになぁ…)」

 その時だった。

 「こんにちは~」

 聞き覚えのある声が店頭から聞こえた。


 「あっ…!」

 咲には声を聞いただけで、その声の主が誰か分かった。
 それは和也の声だった。



 「いらっしゃいませ~」

 店では、沙織とくるみが接客をしていた。
 そこに和也がやって来たのだった。
 だが、和也は一人ではなかった。
 同じ学校の制服を着ている女性も一緒だった。
 どうやら、クラスメートの様だ。


 和也に会う為、店に出ようとした咲が、その女性の存在に気付いた。
 咲は、厨房の出入り口にある暖簾に隠れ、和也たちの様子を伺う。
 咲の視線の先には、一緒に来た女生徒と楽しげに会話する和也の姿があった。


 「ここのケーキ、美味しいのよね~」

 「へ~、知ってたんだ~。今日は妹が手伝いをしてるはずなんだけど~」

 そう言って店内を見回す和也とくるみの目が合った。
 それに気付いたくるみが会釈する。
 すると、和也がくるみの所へとやって来た。


 「ん…?やあ、美々野さん…だよね?咲ちゃんと舞は?」

 「奥にいますけど、呼びましょうか?」

 「あ、いいよ、いいよ。邪魔しちゃあ悪いから」

 「お待ちどう様!」

 そんな会話をしている内に、注文していたクリスマスケーキを受け取ったクラスメートが和也に声を掛けてきた。

 「それじゃ」

 和也はくるみに挨拶すると、クラスメートと一緒に帰っていった。


 「ありがとうございました~」

 その様子を陰から見ていた咲の目には、クラスメートと楽しそうに談笑しながら帰っていく和也の姿が映っていた。
 そんな和也を見送る咲の表情は、寂しげだった。


 「(和也さん…)」

 その時、くるみが咲に気付いた。

 「あっ…!」

 しかし、くるみが咲に声を掛けようとした時、丁度店に新たな来客があった。

 「いらっしゃいませ~」

 「いらっしゃいませ」

 くるみは、沙織の挨拶に促される様に挨拶した。
 そして、再び咲に目をやった時には、そこに咲の姿はなかった。

 肩を落とし、厨房の奥へと向かう咲。
 厨房の奥は、咲とみのりの部屋を始めとする家族の生活スペースの場へと繋がっている。
 厨房の中では、出来上がったクリスマスケーキを運ぶ舞と、ケーキ作りに勤しむ大介の姿があった。
 クリスマスケーキを運んでいた舞と肩を落として歩く咲がすれ違う。

 そんな咲の様子に気付いた舞が、咲に声を掛ける。

 「さ、咲…?」

 「…」

 しかし、咲は舞の呼び掛けに答えないまま、厨房の奥へと消えていった。


 「ん?」

 大介も、そんな咲の様子に気付いたが、お客さんがケーキを待っている今、目の前にあるケーキを作る事に専念するしかなかった。


 自分の部屋に戻った咲が、ベットの上に仰向けになる。
 その表情は、当然冴えない。
 いつもとは様子が違う咲の事を心配したムープとフープが、咲の下へと飛んで来た。


 「咲、元気ないムプ?」

 「失恋でもしたププ?」

 フープの言葉に慌てたフラッピがクリスタル・コミューンから元の精霊の姿へと戻った。

 「ププビキッ!ムープ!フープ!図星を突いちゃ駄目ラピ!咲の前で失恋は禁句ラピ」

 そんなフラッピの言葉に咲の表情が一変する。
 その事に気付いていないムープとフープが更に言葉を続ける。


 「とうとう和也さんに告白したムプ?」

 「見事に当たって砕けたププ?」

 「(んぐぐぐぐ…っ!)」

 咲の表情が怒りに歪んでいく。

 「そうじゃないラピ!お店に和也さんが来たラピ。ガールフレンドが一緒だったラピ」

 「クリスマスにムプ~」

 「それはデートの可能性、大ププ~」

 「うわぁあああ!デートも禁句ラピ~!」

 フラッピは、先程から必死にムープとフープの暴走を止めようとしているのだが、それが逆に火に油を注ぐ結果となっていた。
 そして、遂に咲の我慢が限界を超える時が来てしまうのだった。


 「うるさいわねぇえええ!!!」

 「ラピ!?」「ムプ!?」「ププ!?」

 「いい加減にしてくれる!?人が落ち込んでるのに、ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃっ!」

 「咲!話せば分かるラピ!」

 「誰とも話したくないわよ!もう、ほっといてぇ!!」

 「うわ~!!!」

 咲に怒鳴られ、部屋から追い出されるフラッピ、ムープ、フープ。
 フラッピ達が部屋から出た途端、咲はドアを締め、部屋に閉じこもってしまった。

 そして、階段を駆け降りるフラッピ達とくるみとテンコが出くわした。


 「どうしたの?」

 「ラピ…」「ムプ…」「ププ…」

 困惑の表情を浮かべるフラッピ達。

 
二階のテラスへと場所を移したフラッピ達は、そこで事の顛末をくるみとテンコに説明した。

 「咲は、とっても落ち込んでるラピ…。何とか立ち直ってほしいラピ~」

 それは、フラッピの本心だった。
 何故なら、フラッピには咲の気持ちがよく分かっていたからだ。
 チョッピに気持ちを伝えたい。
 でも、それが出来ない。
 咲の悩みは、フラッピの悩みでもあった。

 咲に元気になってほしいという気持ちは、ムープとフープも同じだった。
 さっきの事も決して咲を怒らせるつもりでやった事ではない。
 まだ幼い精霊のムープとフープは人間の小さな子供と同じだ。
 テレビの真似をしたい、背伸びしたい年頃なのだ。


 「そうなんだ…。そういう事なら、私に任せなさい!」

 くるみは自信たっぷりに答えた。

 「こういう時は、さりげなく話しかけて、相談に乗るのが一番なのよ!」

 まるで、自分が恋愛のプロであるかの様な言い様(よう)だった。
 そう言うくるみを余所に、テンコは面倒な事に巻き込まれたと言わんばかりに溜め息をつくのだった。

 「はぁ…」




 その様子を伺う二つの影があった。

 「いよいよね…。あくまでさり気なく奴らに近づくわよ…」

 それは、シタターレの声だった。
 だが、そこにいたのはシタターレだけではなかった。


 「しかし…、何故私までこんな恰好をしなければならんのだ…」

 そこには、何とサンタクロースの衣装に身を包んだシタターレとキントレスキーの姿があったのだ。
 それはシタターレ得意の変装だった。
 クリスマスに合わせて、サンタの格好をしていれば、難なくプリキュアに近付く事が出来る。
 そこで、油断しきっているプリキュアを倒す。
 それがシタターレの立てた完璧な作戦だったのである。


 「(サンタレスキー!)」

 「(サンタターレ!)」



 咲は、自分の部屋から出てきたものの、落ち込んだ表情のまま、店のオープンカフェのテーブルの掃除していた。
 掃除する手にも力が入っておらず、咲の心はそこにはない様に見えた。
 その様子を店内からガラス越しに見つめる舞、くるみ、テンコ。

 舞の表情は曇っていた。

 「朝は元気だったのに、どうしちゃったのかしら…。話しかけても全然答えてくれないの…」

 咲の部屋でフラッピとチョッピのお世話をした時も変わった様子がなかったのに、急に元気がなくなった咲に戸惑う舞。
 何も話してくれない咲に不安が募る。
 自分が咲を怒らせる様な事をしてしまったのではないかという不安が、舞の心にはあったのだ。
 そんな舞にくるみが真剣な表情で話しかける。


 「さりげなくよ、舞」

 「さりげなく…何を?」

 「こういう時は兎に角…、さりげなくなの…」

 「うっ…、よく分からないんだけど…」

 くるみの言っている事が理解出来ず、更に戸惑う舞。
 勿論、テンコは我関せずと言わんばかりに素知らぬ顔だった。

 その時、配達用の車に乗った大介が、舞たちの目の前を通り、店の前の道路へと向かって行くのが見えた。
 大介の乗る車が敷地の出口に差し掛かった時、大介は店に向かうサンタの衣装を着た二人に気付いた。
 そのサンタの衣装を着た二人の内の一人に大介は見覚えがあった。
 直ぐに車を止め、車の中から顔を出す。


 「これは、これは!いらっしゃいませ」

 大介が声を掛けた人物は、サンタの衣装を着たキントレスキーだった。


 「おお!しばらくだな、ご主人」

 「(ぎゅ!何で、そんなに親しげなのよ…!?)」

 シタターレの反応も当然だった。
 以前、プリキュアと倒す為、ここ「緑の郷」にやってきたキントレスキーは、いつも行っているトレーニングのランニング中に、
 偶然「PANPAKAパン」の前を通った。
 その時、焼きたてのパンの匂いと味に惹かれ、それ以来、この店の常連となっていたのだ。
 一方、大介も自分と同世代と思われるキントレスキーに親近感を抱き、時には娘の咲の事を話したりもする程の仲になっていた。


 「素敵な奥様ですね。では」

 大介は、そう言ってキントレスキーに挨拶すると、車での配達に出かけて行った。

 「うっ!おっ、奥様~!?この私(わたくし)が、アンタの奥様ですって~!?」

 キントレスキーの奥様と言われた事に、シタターレは怒りを露わにした。
 シタターレにとってキントレスキーは、夫どころか、ダークフォール最強の戦士の称号を掛けて競うライバルなのだ。

 その屈辱にシタターレの身体が怒りに震えた。

 「悪い冗談だな…」

 キントレスキーは、そう言って困惑の表情を浮かべた。
 キントレスキーにとってもシタターレは、ダークフォール最強の戦士の称号を掛けて競うライバルという事は間違いないのだが、
 シタターレの様に怒りに震える訳でもなく、ただ困惑の表情を浮かべるだけだった。

 「アンタに言われたくないわよ!!」

 一見、言い争いをしている二人だったが、この大介の一言が後(のち)の二人の意外な結末に繋がろうとは、
 この時、キントレスキー、そしてシタターレも思ってはいなかった。


 その時、キントレスキーとシタターレの存在に気付いた舞、くるみ、テンコ、そしてムープとフープが二人の前に現れた。

 「あなた達!また来たのね!」

 「ほお~、よく気付いたな」

 「そんな目立つ恰好じゃ、直ぐ分かるわよ…。あっ…!」

 自分の変装に気付いた舞たちに感心するキントレスキーに、くるみの素早いツッコミが入った。
 その時、くるみがこちらに向かって歩いて来る咲に気付いた。

 「ん??」

 キントレスキーとシタターレも咲の存在に気付いた。
 だが、咲はそんな事に全く興味がないかの様に、力なく、うな垂れたまま歩くだけだった。
 その手には竹ぼうきが握られているが、それを持つ手にも力を感じられない。

 「咲…!!」

 舞たちとキントレスキー、シタターレの前を無視するかの様に、うな垂れたまま通り過ぎる咲。

 「お!おい!待たぬか!」

 それをキントレスキーが咲の肩を掴み、引き止めた。

 「ほっといてよ…!」

 しかし、咲は引き留めようするキントレスキーの手をはたき落とした。
 だが、キントレスキーもここで退く訳にもいかない。


 「ほっとく訳にはいかん!」

 そう言って、再び咲の肩に手を置き、食い下がった。
 しかし、今の咲にはそんな事は関係なかった。
 全ての事が鬱陶しかった。


 「うるさいわね!今はあんた達に構ってる気分じゃないの!」

 咲は振り向く事もなく、怒気のこもった言葉を言い放った。
 だが、そんな咲の気持ちを知らないシタターレの一言が、咲の逆鱗に触れる事になる。


 「さてはアナタ…、クリスマスとかいうやつのせいで浮かれてるの…?」

 その言葉に、遂に咲が切れる。
 俯いた咲の口元が怒りで歪む。
 持っていた竹ぼうきを手放したかと思うと、その握り拳に力が入り、身体が怒りに震える。


 「うかれてなんか…、いないわよっ!」

 「ギョ…」

 咲の気迫にたじろぐキントレスキーとシタターレ。
 しかし、咲はここぞとばかりに、その怒りを爆発させる。

 「クリスマスだからって、何よ!アンタ達こそカップルで来るなんて、浮かれ過ぎじゃない!?嫌がらせにも程があるわ!」

 「誰がカップルやねん…」

 「アンタの事よ!ミズ・シミッタレ!」

 咲の気迫に押されながらもツッコミを入れたシタターレに、咲が更に罵声を浴びせた。
 その一言に、シタターレも遂に切れる。


 「ミズ・シタターレよ!シタターレ!絶対わざと間違ってるでしょ!いいから受け取りなさい!」

 そう言ってシタターレは、持っていたサンタの袋を構えた。

 「うっ…!?」

 「これがアタクシからのクリスマスプレゼントよ…。メリ~、クリスマ~ス!」

 その声と共に袋の中から、猛烈な吹雪が噴き出した。

 「あああっ!!!!!うううっ!!!ああ…!!!」

 その強烈な吹雪により、目を開ける事も出来ない咲、舞、くるみ、テンコ達。


 そして、その吹雪が収まると、そこは雪山に変わっていた。
 どうやら不思議な力によって、雪山へと移動させられてしまった様だった。


 「如何かしら?」

 「うっ!!!」「ムプ~」「ププ~」

 「アナタ達の最期には相応しい場所じゃなぁい?」

 そう言ったシタターレと表情が一変する。
 今までの余裕の表情は、そこにはなかった。
 そこには戦士の顔をしたシタターレの姿があった。
 それはキントレスキーも同じだった


 「プリキュア!勝負だ!」

 そして、キントレスキーとシタターレは、サンタの衣装を投げ捨て、その正体を現した。
 そこに立つ二人の姿は、ダークフォール最強の称号を争うに相応しい、戦士の佇まいだった。

 フラッピとチョッピがクリスタルコミューンから顔を出す。


 「咲~、舞」

 「変身するチョピ」

 「咲、大丈夫?」

 「うん…。もう、どうでもいいのよ!」

 心配する舞を余所に、やけっぱちの態度を取る咲だった。



 咲と舞がクリスタル・コミューンのヘッド部分のボールを回転させ、手を繋ぎ、構えた。

 「デュアル・スピリキュアル・パワー!!」

 咲と舞の手にあるクリスタル・コミューンが接触した瞬間、溢れ出した精霊の光が巨大な光の珠となり、二人を包み、空へと舞い上がった。
 その光の珠が弾け飛ぶと、そこに手を繋いだ二人の姿が浮かび上がる。

 二人は精霊の光を纏っていた。

 「花開け!大地に!」

 「羽ばたけ!空に!」

 咲と舞の声に答える様に、精霊の光がプリキュアのコスチュームへと変化していく。

 「はあっ!」

 プリキュアが大地へと舞い降りた。


 「輝く金の花!キュアブルーム!」

 「煌めく銀の翼!!キュアイーグレット!」

 「二人はプリキュア!!」

 「聖なる泉を汚す者よ!」

 「阿漕な真似は、お止めなさい!」



 プリキュアに変身した咲と舞にキントレスキーとシタターレの同時攻撃が襲いかかる。

 「てやぁぁあああ!!」


 突進してくるキントレスキーとシタターレの攻撃に備え、精霊のバリアを張るブルームとイーグレット。

 「たあああぁ!!」

 「てやぁぁあああ!!」

 だが、「フェアリ・キャラフェ」の力によって蘇ったキントレスキーとシタターレに精霊の力は通用しない。
 カレハーンやモエルンバと戦った時と同じ様に、精霊のバリアをあっさり破られてしまった。


 「うっ!」

 「うっ!」

 キントレスキーとシタターレの攻撃を何とか直前で避ける事が出来たブルームとイーグレットだったが、
 その表情にはこの後続くであろう苦闘への不安が浮き彫りになっていた。

 くるみとテンコもキントレスキーとシタターレとの戦いに参戦すべく、変身する。


 くるみが青い薔薇の中から現れた「ミルキィパレット」を手に取った。
 「ブラシペン」で4つのボタンをタッチすると、ミルキィパレットのボタンに青い薔薇の紋章が浮かび上がる。


 「スカイローズ・トランスレイト!」

 くるみの周りを青い薔薇が覆い尽くす。
 その薔薇の花弁が舞い上がると、その花弁がミルキィローズのコスチュームに変化していった。

 「青い薔薇は秘密の印!ミルキィローズ!」



 「はぁ…」

 溜め息をつきながら、テンコが腰に付けているポーチからカードを1枚抜き出した。
 そのカードには「キュアリアリー」の姿が描かれていた。
 カードを正面に翳すとテンコのベルトのバックル部分に「リアリー・ドライバー」が浮かび上がり、装着された。

 「トランスフォーム…プリキュア…」

 テンコがリアリー・ドライバーにカードを通す。

 「Ready to transform into a CureRealy

 ドライバーから音声が流れると、ドライバーによって等身大に拡大されたカードがテンコの前にホルグラフィーの様に浮かび上がった。
 そして、そのホログラフィーがテンコの身体をすり抜けていく。
 ホルグラフィーがテンコをすり抜けると、そこにはキュアリアリーに変身したテンコの姿があった。

 「…」


 「世界と世界を繋ぐ虹!キュアリアリーだド!」

 相変わらず名乗りを上げようとしないアリーの代わって、ムープ、フープ達と一緒に隠れているアルカードが名乗りを上げた。


 ミルキィローズとリアリーに変身した、その直後だった。

 「させないわよ」

 シタターレの合図と共にミルキィローズとリアリーの足元に氷のリングが現れた。
 その氷のリングが浮かび上がると、二人の身体を両腕ごと締めあげたのだ。


 「くっ!」

 ミルキィーローズは、その怪力で何とか氷のリングを壊そうとするが、リングはびくともしない。
 そんな中、リアリーはもがく事もなく、ただぼーっとつっ立っているだけだった。

 「ああっ!」

 そんなミルキィローズとリアリーのピンチに気を取られるブルームとイーグレット。


 「なかなかやるな…。二度と同じ手は食わんという事か」

 「そういう事…。あの二人は後でたっぷり可愛がってあげるわ。いい子だから、大人しくしてなさい」

 キントレスキーもシタターレの手際の良さに唸ざるを得ない。
 確かに、今までダークフォールの幹部がプリキュアに敗れ続けた原因は、プリキュア4人のコンビネーションにあった。
 実際、ミルキィローズとリアリーが現れる前までは、フェアリー・キャラフェによって蘇ったダークフォールの幹部たちを前に、
 プリキュアの精霊の力は全く無力だった。
 つまり、このミルキィローズとリアリーさえ抑えつければ、キントレスキーとシタターレ、そしてダークフォールの勝利は火を見るよりも明らかだった。


 「くっ!私の力でも壊せない…なんて…っ!」

 「…」

 ミルキィローズは何とか氷のリングを壊そうともがいていたが、そのリンクは一向に壊れれる様子はなかった。
 そんな中、リアリーは一見、無表情のままつっ立っている様にしか見えない。
 しかし、リアリーはアルカードにアイコンタクトを送っていた。
 リアリーの合図に気付いたアルカードは、頷くと、隠れていたその場所から姿を消した。



 「ミルキィローズ!」

 「リアリー!」

 ミルキィローズとリアリーに気を取られるブルームとイーグレットだったが、本当にピンチに晒されていたのは、二人の方だった。
 二人が気を取られている間にシタターレは、その頭上に巨大な水塊を生み出していた。
 その大きさは、既に直径10メートル近くに達している。
 ブルームとイーグレットも、やっとその存在に気付く。


 「はっ!!」

 「はぁぁあ!」

 しかし、既に遅かった。
 シタターレは、その掛け声と共にブルーム、イーグレットに向けて、巨大な水塊を放ったのだった。

 二人は、水塊の直撃こそは何とか免れるものの、その爆風によって吹き飛ばされてしまった。
 その水塊の爆発による衝撃で、大地は揺れ、巨大な爆風は空高くへと舞い上がる。
 だが、それだけでは終わらない。
 二人の敵はシタターレだけではなかった。

 その隙をキントレスキーが突く。

 「いぃぃぃっ、やっ!」

 ブルームとイーグレットは、何とか起き上がると、キントレスキーの攻撃に備え、精霊のバリアを張る。
 しかし。


 「ああ~っ!!」

 キントレスキーの一撃により、精霊のバリアは無残に砕け散った。
 だが、キントレスキーの強烈な一撃は、それだけでは止まらない。
 その威力を保ったまま、キントレスキーの拳がブルームとイーグレットを直撃した。
 二人は、まるで打ち出された大砲の弾の様に吹き飛ばされ、一度も地面に着く事なく、雪の壁に打ちつけられてしまった。


 「ああ…!」

 ミルキィローズは茫然と立ち尽くしていた。
 ダークフォール、一、二を争う実力者のコンビネーションの前に、ブルームとイーグレットには成す術がなかった。
 それでも立ち上がろうとするブルームとイーグレット。
 そんな中、ブルームの脳裏にあの出来事が浮かぶ。


 「私…」


 それは「PANPAKAパン」を訪れた和也とクラスメートの姿だった。


 「もう駄目かも…」

 そう言って力尽き、倒れ込んだ。
 ブルームの受けたダメージは、キントレスキーによる肉体的なダメージだけではなかった。
 「PANPAKAパン」にやって来た和也と、そして一緒にいたクラスメートの姿が、
 ブルーム、咲の心をこの雪山に積もる雪の様に冷たく凍りつかせていた。


 「ブルーム!」

 倒れ込んだブルームに気付いたイーグレットが、ブルームの名を叫んだ。
 しかし、ブルームからは何の反応もない。
 フラッピがブルームのクリスタル・コミューンから顔を出した。
 その表情には焦りの色が見える。


 「精霊の力が弱くなってるラピ」

 「クリスマスって言うより、これじゃ苦しみますって感じねぇ。観念して、王女の居場所を言ったらどう!?」

 「…」

 シタターレの言葉にも、立ち上がる事が出来ないブルーム。
 その時だった。


 「諦めちゃ駄目!ブルーム!」

 それはミルキィローズの声だった。

 「うっ…」

 その声にブルームが反応する。

 「あなたの気持ち…、私には分かるわ…」


 ミルキィローズの脳裏にココとのぞみの仲の良い姿が浮かぶ。


 「でも…、でも…、私は自分の心に嘘はつかない!それがどんなに苦しい現実だったとしても!」

 ミルキィローズの叫びにブルームが目を向けると、そこには必死に氷のリングの縛めを破ろうとしているミルキィローズの姿が映った。

 「ミルキィローズ…」


 「そうよ…。ブルームはいつも私を勇気づけてくれたわ。だから私もブルームの力に!」

 イーグレットはそう言うと、倒れているブルームを庇う様に、キントレスキーとシタターレの前に立ちはだかった。


 「イーグレット…」

 イーグレットのクリスタル・コミューンから顔を出したチョッピも、ブルームにエールを送る。

 「チョッピも頑張るチョピ~」

 「諦めちゃいけないラピ!ブルームの想いはいつかきっと届くラピ!」

 フラッピの言葉にムープ、フープ、そしてミルキィローズが続く。


 「ムープ達も」

 「諦めないププ!」

 「私たちが力になるから!」

 「ブルーム!!!」

 「諦めないで!」

 ムープ、フープ、ミルキィローズ、そしてイーグレットの熱い叫びが、ブルームの凍りついた心を少しずつ溶かしていく。


 「みんな…」


 「諦めの悪い奴ら…。だったら先にプリキュアを倒して、王女の居場所はそこの二人にじっくり!聞いちゃおうかしら…」

 シタターレは、そう言うとミルキィローズとリアリーに目を向けた。
 実際に二人は、シタターレの氷の縛めを未だ解く事が出来ないでいた。
 リアリーは涼しい顔をしたままだったが、ミルキィローズの表情には焦りの色が浮かぶ。


 「くっ!」

 「そうだな…。お前たちとの別れは辛いが、せめて止めはこの私がっ!」

 そう言って、キントレスキーは自らの拳に力を込めた。

 「いいえ!私(わたくし)がっ!」

 シタターレはそう言うと、自らの掌を空に掲げた。
 すると、そこに空気中から集められた水分が集まっていく。
 そして、みるみる内に巨大な水塊へと成長していったのだった。


 「うっ!」

 イーグレットが倒れているブルームを守る為、精霊のバリアを張ろうと、両手を構える。
 だが、ブルームの精霊の力が弱まっている影響が、イーグレットにも及んでしまう。
 イーグレットが構えても、精霊のバリアが出現しない。


 「精霊の光が出ないチョピ~」

 「それでもブルームを守らなきゃ!」

 チョッピの言葉にも、イーグレットの決意は揺るがない。
 例え精霊の力が使えなかったとしても、今まで何度も自分を助けてくれたブルームを、咲を絶対に守ってみせる。
 イーグレットの不退転の決意だった。


 だが、そんな事はシタターレにとって知った事ではない。
 掲げた掌の上には既に直径10メートルにもなろうとする巨大な水塊があった。
 そして遂に、その時が来る。


 「はぁぁあああ!!」

 シタターレが、その気合と共に腕を振り下ろすと、その巨大な水塊が倒れているブルーム、そして、それを守ろうとするイーグレットに向けて放たれた。


 「はっ!」

 その攻撃を受け止め様と構えるイーグレットだったが、その両手から精霊の光は溢れる事はない。
 迫りくる巨大な水塊にイーグレットの表情にも恐怖の色が見えた。

 「はっ…!」


 ミルキィローズ達には、シタターレの放った水塊がブルームとイーグレットに襲い掛かるのを、ただ見ている事しか出来なかった。

 「ああっ…!」「…」「ムプ~」ププ~」

 そして、遂にその巨大な水塊がブルームとイーグレットを直撃した。
 その爆風によって発生した靄が辺りを包み、視界を奪う。
 だが、シタターレは確かな手ごたえを感じていた。
 思わず、笑みがこぼれる。


 「これで決まりね」

 しかし、その直後、シタターレ、そしてキントレスキーの表情が一変する。


 「おっ!?」

 徐々に晴れていく靄の中に二つの人影が見える。
 それは精霊のバリアを張るブルームとイーグレットの姿だった。


 「ブ、ブルーム!?」

 「みんなが頑張ってるのに、私一人で落ち込んでいらんない!」

 いつもの姿に戻ったブルームのその力強い言葉に、イーグレットの表情にも笑みが戻った。
 だが、キントレスキーは二人にそんな余韻を与えない。
 直ぐ様、追撃に移る。


 「てやっ!」

 キントレスキーの渾身の一撃が再び二人に襲い掛かる。
 それに対し、ブルームとイーグレットが手を繋ぐと、精霊のバリアが一段と輝き始め、その色を強めた。
 その時、キントレスキーの拳と精霊のバリアが激突した。
 先の激突では、精霊のバリアでも全く防ぐ事が出来なかったキントレスキーの強烈な拳の一撃。
 しかし、その直後にあったのは、精霊のバリアによって吹き飛ばされるキントレスキーの姿だった。

 しかも、自らの攻撃の威力をそのままに跳ね返されたキントレスキーの先には、シタターレの姿があった。

 「ぬおあっ!」「うあああぁ!」

 油断しきっていたシタターレは飛んで来たキントレスキーに巻き込まれ、一緒に吹き飛ばされてしまった。
 シタターレにとっては、予想もしていない展開だった。

 そして、二人はそのまま雪の壁へ激突した。

 その間も、ミルキィローズは、氷のリングを破ろうと必死だった。
 その時、キントレスキーとシタターレに気付かれない様、ほふく前進しながら近付いて来るアルカードにリアリーが気付いた。

 吹き飛ばされたキントレスキーとシタターレが雪の中から顔を出す。

 「な、何よ!?この力は!?」

 シタターレも動揺を隠せない。
 先にドロドロンと組んでプリキュアを襲った際も、フェアリー・キャラフェの力によって復活した自分たちの力をプリキュアは防ぐ事が出来なかった。
 だが、自らも一目置くキントレスキーの一撃を、この二人は跳ね返したのだ。
 そんなシタターレにブルームとイーグレットが言い放つ。


 「私一人の力じゃない!みんなの力!」

 「みんなが支えてくれているから!」

 「どんな時も!」

 「絶対に諦めない!!」


 アルカードがリアリーの足元まで、やっと辿り着いた。
 リアリーが送った合図に気付いたアルカードは、キントレスキーとシタターレに見付からない様、ここまでほふく前進でやって来たのだった。


 「遅い…」

 「(無茶言うなド…!見付かったら大変だド…!)」

 アルカードは、リアリーのクレームに小声で反論すると、するするとリアリーの脚を螺旋状によじ登る。
 その時にはミルキィローズもアルカードの存在に気付いていた。
 リアリーの腰に付いているポーチに辿り着いたアルカードは、そのポーチから一枚のカードを抜き取った。

 そして、そのカードを持ったまま、リアリーのベルトのバックル部分まで移動すると、そのカードをドライバーに通した。

 「Ready to transform into a CureRouge

 カードを通したドライバーから音声が響く。
 アルカードは、カードをドライバーに通した勢いを利用して滑空すると、安全な場所まで逃げて行った。


 「プリキュア…メタモルフォーゼ…」

 ドライバーによって等身大に拡大されたカードが、リアリーの前にホログラフィーの様に浮かび上がり、リアリーの身体をすり抜けていった。
 カードがリアリーの身体をすり抜けると、リアリーは別のプリキュアに姿を変えていた。

 その変身による炎がリアリーの氷のリングだけでなく、ミルキィローズのリングをも溶かし、その呪縛から解き放った。

 「情熱の…赤い炎…!キュアルージュ!」


 シタターレの呪縛から解き放たれたミルキィローズが、ミルキィパレットを構える。

 「邪悪な力を包み込む」

 ミルキィローズがミルキィパレットを突き出すと、その先に巨大な青い薔薇が浮かび上がった。

 「薔薇の吹雪を咲かせましょう!
ミルキィローズ!ブリザードッ!」

 その声と共にミルキィパレットを振り抜くと、目の前に浮かび上がった巨大な青い薔薇が華吹雪へと変化した。


 ルージュが胸の前で両腕をクロスさせると、その両手の甲にある蝶のマークが輝き、光を放つ。

 「プリキュア!ファイヤー・ストライークッ!」

 ルージュの目の前に両手の甲から溢れた光が徐々に集まり、それがボールの様な球体へと変化する。
 そして、その球体に向けてルージュが、まるでサッカーボールを蹴るかの様に脚を振り抜いた。



 ミルキィパレットから放たれた巨大な青い薔薇の華吹雪とルージュが放った烈火の弾丸が一つとなり、キントレスキーとシタターレに向かって行く。
 それに気付いたキントレスキーとシタターレもガード体勢を取る。
 だが、ミルキィローズとルージュの力は、そのガードごとゴーヤーンの印を打ち砕いたのだった。


 「ウワアァァァアアアアアア!!」

 ミルキィローズとルージュの必殺技によって吹き飛ばされたキントレスキーとシタターレが地面に叩き付けられた。
 その隙にミルキィローズが、ブルームとイーグレットに合図を送る。


 「今よ!」


 「月の力!」

 「風の力!」

 「スプラッシュ・ターン!!」

 ムープとフープの力によって、「スプラッシュ・コミューン」から「プリキュ・スパイラル・リング」が現れ、ウィンディの手首とブライトの腰に装着された。


 その時、ゴーヤーンの印を失ったキントレスキーとシタターレが、決死の特攻を掛けてきた。


 「ウォォォオオオオ!!」

 その気迫を感じ取ったフラッピとチョッピが顔を出す。

 「ブルーム!」

 「イーグレット!」

 「うん…!!」

 フラッピとチョッピの呼び掛けに、ブルームとイーグレットが視線を交わし、頷いた。



 ブルームとイーグレットがスパイラル・リングにリングを装填し、回転させた。
 そして、二人は手を繋ぎ、目を閉じる。
 ブルームとイーグレットが構えると、それに呼応するかの様に大地から、そして大空から幾百、幾万もの精霊の力が光の粒となり、溢れ出す。
 その膨大な量の精霊の粒子が二人のスパイラル・リングに吸い寄せられる様に集まっていった。

 「精霊の光よ!命の輝きよ!」

 「希望へ導け!二つの心!」

 「プリキュア・スパイラルハート!!」

 スパイラル・リングに集まった精霊の力の粒子がブルームとイーグレットの手の甲から溢れ出し、光の水流を描いた。
 その光の水流が徐々に形を変え、ブルームとイーグレットの前で渦となった。


 「スプラーーーーーーーーーシュ!!」

 その掛け声と共にブルームとイーグレットが目の前にある光の渦を両手で打ち抜く。
 その瞬間、その二つの渦から膨大な精霊の光の激流が放たれた。
 その激流はやがて交わり、一つとなり、巨大な槍の様な形へと変化した。


 
「私たちも力を合わせるわよ!」

 そう言って、ブルームとイーグレットが放った精霊の光の受け止めるシタターレ、そしてキントレスキー。
 ブルームとイーグレット、シタターレとキントレスキーの力が拮抗する。

 しかし、ブルームとイーグレットのスパイラル・リングが回転し始めると、キントレスキーとシタターレは徐々に押され、後退していく。

 「キィィィィィイイイイヤ!ウーッ!またしても…!」

 逃げようとするシタターレの腕にキントレスキーが手を掛けた。

 「ウッ!ちょ、ちょっと、離しなさい!」

 「敵に背を向けるなど、戦士の恥だ…!美しく散れる…」

 そう言うキントレスキーにシタターレは罵声を浴びせる。


 「だっ、誰がアンタなんかとっ!一人で勝手に死になさいよ!」

 しかし、キントレスキーはシタターレのそんな言葉に動じた様子は全く感じられなかった。
 それどころか、その表情には、どこか清々しささえ感じ取れた。
 そんなキントレスキーがシタターレを見つめながら、穏やかな口調で話しかける。


 「フッ…。お前もなかなかの兵(つわもの)…。共に戦えて満足だぞ…」

 キントレスキーからの思わぬ言葉にシタターレは、その頬を染める。
 その瞬間、シタターレの身体から一気に力が抜けた。

 「え…?あっ…」

 精霊の光が迫る中、見つめ合うキントレスキーとシタターレの姿がそこにはあった。
 ここが戦いの場とは思えない二人の表情だった。
 キントレスキーが、シタターレに最期の言葉を贈る。


 「去らばだ…」

 精霊の光の受け止める事を止めたキントレスキーとシタターレを精霊の光が包み込む。
 だが、それはまるで二人を祝福する光のヴェールの様にも見えた。


 「アンタ、惚れたねぇえ!」

 「アンタがスキィイイ!」

 シタターレとキントレスキーは、そう言い残すと、お互い見つめ合ったまま、精霊の光によって浄化され、元の姿へと戻っていった。
 その後は、他の幹部たちの時と同じだった。
 二人の身体を形成していた滅びの力は四散し、やがて消えていった。



 激闘を終えた咲たち。
 咲たちの暮らす緑の郷では、クリスマスの夜を迎えていた。

 晴天だった昼間とは一変し、雪が深々と降っている。
 そんな中、クリスマス・セールを終えた「PANKAPAパン」の2階の広間には大介と沙織、そして咲たちの姿があった。


 「みんな!今日は本当にお疲れ様」

 「たあくさん食べてね」

 「は~い!!!」

 子供たちの労をねぎらう大介と沙織。
 咲もすっかり元気を取り戻していた。
 そして、咲たちの前には、ケーキやフライドチキン等、パーティー用の料理が沢山並べられていた。


 その時、玄関のチャイムが鳴った。

 「あ~!きっと健太達だよ!」

 そう言って、咲は玄関へ駆け下りて行った。


 だが、咲が玄関のドアを掛けてみると、そこに立っていたのは意外な人物だった。

 「やあ」

 「え~!?か、和也さん…?」

 それは舞の兄「和也」だった。
 和也を見た咲の顔がみるみる赤面していく。


 「クラスのパーティーに出てたけど、途中で抜けてきちゃった。咲ちゃん家(ち)のケーキ、みんなとっても美味しかったって」

 「え…?うちのケーキ…?」

 和也の言葉に戸惑う咲。
 次々と予想外の事が起こり、咲は頭の中を整理出来ないでいた。


 「クラスメートが注文してたんだ。僕も一緒に取りに来たけど、咲ちゃんも舞も丁度いなかったね」

 「そのクラスメートの人って、まさか…!」

 「うん!PANPAKAパンの大ファンだって」

 「はあ…、ファンですか…」

 咲の頭の中の混乱が、和也の言葉を聞く度に徐々に整理されていく。


 「そう、明日はボーイフレンド連れて来るって、張りきってたよ」

 「(じゃあ、和也さんの恋人じゃないんだ。私の早とちり?)」

 咲は、和也のその言葉でホッと胸を撫で下ろすのだった。

 「どうしたの?」

 「うわ…!い、いえ…!それよりお友達のパーティー抜け出して良かったんですか?」

 咲にも、やっと余裕が出てきた。


 「ど~しても、咲ちゃんに渡したい物があったから」

 そう言って和也は、クリスマスのラッピングを施した袋を差し出した。
 袋の中に入っていたのは、黄色いショールだった。
 そのショールを咲の肩に掛ける和也。

 「メリー・クリスマス」


 「あ、ありがとうございます…。あの…私からも…」


 リビングに移動した和也の前に、咲がプレゼント用のラッピングがされた箱を出した。
 それは前日の深夜まで掛かって作ったクリスマスケーキの入った箱だった。

 その箱を開けた和也が、驚きの声を上げる。

 「うわぁ…!」

 その中には、見事にデコレートされたクリスマスケーキが入っていたのだ。


 「あんまり上手に出来てないかも知れないんですけど…、和也さんの為に作ったんです!」

 リビングのイスに座った和也が、咲の作ったクリスマスケーキを口に運ぶ。
 咲もイスに座り、緊張の面持ちで和也の言葉を待つ。


 「美味しい!」

 「ホントですか!」

 和也のその言葉で、咲の表情にも笑顔が戻った。


 「うん…!クリスマスに咲ちゃんの手作りのケーキを食べられるなんて、最高だよ!」

 和也の言葉に微笑む咲。

 「来年のクリスマスにも食べたいな」

 「はい!」

 そこに舞とくるみ、テンコがやってきた。
 なかなか戻ってこない咲の様子を見に来たのだ。
 舞も和也の登場に驚きを隠せない。


 「お兄ちゃん!どうしてここに?」

 「フフ…。内緒~」

 そう言って微笑む和也だった。






 キャスト

 高尾天子(キュアリアリー)/声:千葉千恵巳

 高尾地子(キュアミラージュ)/声:石毛佐和

 アルカード/声:TARAKO

 ホンキダス/声:矢尾一樹


 美々野くるみ(ミルキィローズ)/声:仙台エリ



 日向咲(キュアブルーム)/声:樹元オリエ

 美翔舞(キュアイーグレット)/声:榎本温子

 フラッピ/声:山口勝平

 チョッピ/声:松来未祐

 ムープ/声:渕崎ゆり子

 フープ/声:岡村明美



 日向大介/声:楠見尚己

 日向沙織/声:土井美加

 日向みのり/声:斎藤彩夏

 美翔和也/声:野島健児

 アマアマ/声:埴岡由紀子

 女子高生/声:沖佳苗



 キントレスキー/声:小杉十郎太

 ミズ・シタターレ/声:松井菜桜子

 ゴーヤーン/声:森川智之



 キュアルージュ/声:竹内順子

 ダークレモネード/声:釘宮理恵

 ダークミント/声:皆口裕子

 ダークプリキュア/声:高山みなみ


 ドライバー/声:Beckii Cruel






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