「プリキュア テレビアニメ10周年記念作品」SS編 第2話
あの衝撃的な出会いの翌日。
冬の小春日和の中、「PANPAKAパン」のオープンカフェに集う咲や舞たち。
そこには他の「プリキュア」の世界からやって来たと言っている「美々野くるみ」、「高尾天子」、妖精の「アルカード」の姿もあった。
しかし、天気とは裏腹に、そこには重苦しい空気と沈黙が流れていた。
そんな空気に耐えられず、フラッピが声を上げる。
「それにしても、こないだは本当に危なかったラピ。でも何とか切り抜ける事が出来たのは、くるみとテンコのお陰ラピ」
「…」
咲はまだくるみとテンコに対しての不信感がぬぐいきれないでいた。
コロネやムープ、フープから聞いた満と薫の事。
しかし、そこに現れたのは満と薫でなく、くるみとテンコだった。
本当なら、満と薫に会えたかも知れない。
この二人が現れなければ。
その気持ちは舞も同じだったが、少しでもこの場の空気を良くしようと、フラッピに合わせた。
「本当にそうね」
「でも、どうして満と薫でなく、くるみとテンコが来たラ…!な、何でもないラピ!」
舞の行為を台無しにするフラッピの不用意な一言だった。
咲の表情を見たフラッピが、あわてて言葉を濁した。
「ふぅ…」
「…」
くるみも自分たちが歓迎されてない空気は、他の世界でも味わった事だが事だが、だからと言ってこの状態が快適かと言うと、そういう訳では決してない。
思わず、溜め息が漏れてしまった。
そんな中、コロネもこの状況を少しでも良くしようと考え込んでいた。
元と言えば、自分の不用意な発言が、今の状況を生んでしまったのだから。
「そ、それはだな…」
その場を少しでも和ませようと、コロネがしどろもどろに話し出そうとした時だった。
コロネの胸が光り、フィーリア王女の声が聞こえてきた。
「まだ諦めてはなりません。お互いがお互いを想う強い気持ちが大きな力を生み出すのです。それは精霊の力も滅びの力も超えた強い絆の力なのです」
「と、いう訳だ」
結果的に助け船を出されたコロネだったが、まるで自分もフィーリアと同じ考えだったかの様に答えた。
中年らしい強かさを垣間見せた。
「絆の力…」
咲はフィーリアの言葉を復唱した。
「絆の力か…」
くるみの脳裏に「5GoGo!」の世界に残った仲間たちの姿が浮かんだ。
その時、咲たち下に咲の妹「日向みのり」が現れた。
フラッピやアルカードたちは急いで隠れ、コロネも普段通りの猫のポーズを装った。
「あれ~?」
「みのり…」
みのりがくるみとテンコの所までやってきた。
「こんにちは。『日向みのり』です」
くるみとテンコに笑顔で挨拶するみのり。
「こんにちは、みのりちゃん。私は『美々野くるみ』。宜しくね」
くるみもみのりに笑顔で返した。
「くるみお姉さんだ~」
みのりが満面の笑みを浮かべた。
そして、くるみと同じテーブルに着いてるテンコの方を見る。
「お姉さんは?」
しかし、テンコは相変わらず、そっぽを向いたままだ。
「ちょっと!」
くるみがテンコに注意するが、テンコは無視したままだ。
すると、みのりはテンコの座っているイスの方に回り込む。
すると、テンコはイスをみのりと反対側に座り直した。
それでも、みのりは諦めない。
「こんにちは。日向みのりです」
みのりが再びテンコの向いてる方向に移動し、挨拶した。
だが、テンコは相変わらず黙ったままだ。
「お姉さんは?」
そう言ってみのりはテンコの顔を覗き込んだ。
みのりとテンコの目が合った。
咲がみのりに注意しようとした、その時だった。
「…テンコ」
テンコがみのりから目を逸らしながら、小さな声で答えた。
「て、テンコ…!」
くるみとが驚いた様なリアクションを取った。
まさか、本当にテンコ自らが名乗るとは思っていなかったのだ。
今までの世界を旅した時もそうだった。
実際に、今までテンコが自ら名乗った事など、一度もなかったのだから。
それは、テンコの鞄の中で隠れているアルカードも同じだった。
「(テンコが…、名乗ったド…!?)」
「テンコお姉さんだぁ!」
そんな事に気付かないみのりは、再び満面の笑みを浮かべた。
その時、テンコの脳裏にはみのりとは違う少女が浮かんでいた。
その少女が微笑み掛ける。
「(お姉ちゃん…)」
ここは一筋の光も差す事のない滅びの国「ダークフォール」。
そのダークフォールの支配者アクダイカーンの怒りの声が響き渡る。
「王女を見付けて来いと言ったはずだ!一体、どうなっておるのだ!」
その怒りに呼応するかの様にアクダイカーンが鎮座する前にある泉に波紋が走った。
アクダイカーの叱責に縮みあがるゴーヤーン。
「実はもう一歩という所で謎の者たちに邪魔されまして」
「その様な訳の分からぬ者どもに何を手こずっておるのだ!」
アクダイカーンの怒りに、側近であるゴーヤーンの額にも冷や汗がにじみ出る。
「ご、ご安心下さい、アクダイカーン様。キャラフェがこちらにある限り、泉を復活させる事は出来ないのですから」
ゴーヤーンの手にはフィーリア王女から奪った「フェアリー・キャラフェ」が握られていた。
「その間に謎の者達もろともプリキュアを消滅させてご覧にいれます。そうですよね?キントレスキー殿。モエルンバ殿」
その声と共に、ゴーヤーンの背後に何処からともなく、キントレスキーとモエルンバが現れた。
「勿論、我々の邪魔をする者は許さない!きちんと追求し、全力で!」
ゴーヤーンからの問いかけに力強く答えるキントレスキー。
そして。
「最高のショーをご覧にいれます。チャ、チャ、チャ~」
そう言ったモエルンバは、その場でダンスを踊り始めるのだった。
そんなモエルンバの態度に苛立ちを隠せないキントレスキー。
「ショーではない!真剣勝負だ!」
咲と舞が通う「夕凪中学校」。
咲と舞のクラス「2年B組」の教室に咲と舞、そしてくるみとテンコの姿があった。
くるみとテンコは、以前、満と薫がいた席に何事もなかった様に座っていた。
そこに担任の篠原先生の声が響く。
「十二月も、もう半ばだ。勉強も大変だろうけど、部屋はちゃんと暖かくして、風邪をひかない様に気を付けるんだぞ」
そんな中、咲が後ろの席の舞に小声で話しかけた。
「あそこは満と薫の席なのに…。夏に転校してきたのは、満と薫じゃなく、あの二人の事になってるみたい…」
「うん…。みんな普通に挨拶していたものね…」
「そんな事ない…!満と薫はこの教室にいた…!友達にもなった…!」
「うん…」
咲と舞の言う通りだった。
くるみとテンコは咲や舞のクラスメートとして学校に登校してきたのだった。
しかも、無くなっていた満と薫の席がくるみとテンコの席だという。
クラスメート達も、まるで夏に転校してきたのが、くるみとテンコだったかの様に、普通に接していた。
満と薫が消える前のクラスメートの記憶が、そのままくるみとテンコにすげ変わっていたのだった。
まるで元々満と薫が存在していなかったかの様に。
「という訳で、いよいよ明日から期末テストが始まる。みんな、精一杯頑張るように」
「はい!!!」
篠原先生の言葉に元気に応えるクラスメートたち。
だが、咲にとっては期末テストという心境ではなかった。
「(期末テストか…。あの二人の事も謎だらけだっていうのに…)大丈夫かな…」
と、思わず本音を口に出してしまった。
「大丈夫かなと思ったら、勉強する!」
「うっ、あ~、はい…」
篠原先生に注意され、縮こまる咲。
そんな咲の様子を見たクラスメートたちの笑い声が教室に響く。
「アハハハハ…!!!」
放課後の教室。
帰る準備をしていたくるみとテンコに咲と舞が声を掛けた。
「あのさぁ…。二人に聞きたい事が色々あるんだけど…」
「何を?」
思い切って声を掛けた咲に対し、くるみはあっさりと返す。
そんなくるみの態度にムッとしながらも、言葉を続ける咲。
「何をって二人の事だよ」
そんな咲の様子を見た舞がフォローを入れる。
「取り合えず、テスト勉強も兼ねて、一緒に来ない?」
「そう…ね…」
くるみはそう言ったが、テンコは相変わらず黙ったままだった。
学校の下駄箱で、靴に履き替えるくるみとテンコ。
「聞きたい事があるって言ってたけど、わたし達の事、余り信用されてないみたいね…」
くるみが下駄箱に上履きを戻しながら、テンコに話しかけた。
「関係ない…」
「関係ないって、わたし達もこの世界の事を聞いておかないと」
「行かない…」
「行かないって、あなたね~」
くるみにとって、テンコのリアクションはいつもの事だったが、この態度に腹が立つ事はあっても、慣れる事はなかった。
その時、テンコの鞄からアルカードが首だけ出した。
「駄目だド!この世界のプリキュアと力を合わせる事が出来ないと、次の世界には行けないド!」
「そうよ!引っ張ってでも行くからね!」
そう言うと、くるみは腕まくりのポーズをとった。
くるみの言葉は冗談ではなかった。
本気でテンコを引っ張ってでも連れて行くつもりだった。
「めんどくさい…」
テンコは口癖とも言えるその言葉を溜め息と共に小声で呟いた。
咲の部屋に咲と舞、くるみとテンコ、精霊たちが集まっていた。
だが、そこにはある種の緊張感が流れており、誰も言葉を発していなかった。
「…」
まるで、喋った者が負けの様な空気が流れていた。
その時、みのりがその空気を破るかの様に部屋のドアを開けた。
精霊たちが急いで姿を隠す。
「くるみお姉さん!テンコお姉さん!ねえ見て、見て!」
「みのり、勉強が終わるまで駄目だって言ったでしょ!」
「だって~」
みのりを注意する咲。
そんなみのりにくるみが声を掛ける。
「いいわよ、何?」
「うん!」
くるみの下に駆け寄るみのり。
「も~」
そう言う咲だったが、舞もみのりの登場によって、この場の空気が和んだのを感じとっていた。
「ふふ…」
舞の表情にも笑みが浮かんだ。
「読書感想文を書いたんだ」
そう言って、くるみに読書感想文を渡した。
くるみが読書感想文に目を通す。
テンコは相変わらず無関心の様だった。
「うん、よく書けてるわ。『パルミエ王国』お世話役の私が言うんだから、間違いないわ」
「ぱるみえおうこくって、なあに…?」
そう言って、誇らしく答えるくるみ。
「パルミエ王国」とはくるみの世界で、くるみが暮らしていた国の名前だったが、咲たちには知る由もない。
「はぁ…」
「うふふ…」
咲からは溜め息が漏れ、舞からは笑みがこぼれた。
その様子を遠くの木の上から伺うキントレスキーの姿があった。
「う~む…、何故だ!何故、奴らはあんなに仲良くしているのだ!」
そこにモエルンバが踊りながら現れる。
「ま、相手が増えた分、ショータイムが華やかになるってもんさ、セニョ~ル」
「だから、ショーではない!真剣勝負だと何度言わせる!」
そう言うと、キントレスキーが握り拳に力を入れた。
「奴らは徹底的に懲らしめてやらねばならんな!」
みのりが部屋から去ると、再び精霊たちが姿を現した。
「プリキュアの世界が他にもあるって本当ラピ?」
「そうだド。今、私達が訪れたプリキュアの世界は、この世界で四つ目だド。まだ、残されたプリキュアの世界が三つあるド」
「世界がこのままだと消えてしまうって本当チョピ?」
アルカードが少し間を置き、ゆっくりと頷いた。
「このままだと七つの世界は離れ続け、どの世界も宇宙の果ての闇の中に呑みこまれてしまうド」
「怖いムプ~」
「怖いププ~」
ムープとフープが震えながら抱き合う。
その会話にくるみが加わる。
「それを防ぐには、七つの世界のプリキュアの心を繋げなくてはならないの」
「それが出来るのがテンコ、キュアリアリーだド」
アルカードの言葉に、みんなの視線がテンコに集まった。
「…」
しかし、テンコは相変わらず無関心な態度のままだった。
「そうなの。テンコさんも色々な世界を回ってきたのね」
「…」
舞の問いかけにもテンコは黙ったままだ。
舞は先程からテンコに出来るだけ話しかけようとしていたが、何度話しかけてもテンコは舞に対して無視する様な態度を取るばかりだった。
そんな態度のテンコに遂に咲が切れて、立ち上がった。
「そんな事、急に言われても信じられないよ!それにこの娘(こ)の態度は何なの!?舞が話しかけても無視してばっかりじゃない!」
「この娘がプリキュアの心を繋ぐ!?そんなの無理に決まってるじゃない!」
「咲…!」
ギリギリの緊張を保っていた空気が、この事で一気に崩れる。
舞もどうしていいのか分からず、おろおろする事しか出来なかった。
それは精霊たちも同じだった。
ムープとフープに至っては、この空気に耐えきれず、目に涙を浮かべていた。
そんな中、くるみは咲を落ち着かせようと声を上げる。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ!」
その時だった。
テンコが突然立ち上がったのだ。
「な、何よ!言いたい事があるなら言ってみなさいよ!」
そう言い身構える咲に対し、テンコは。
「…帰る」
そう言って咲の部屋から出て行ってしまったのだ。
唐突な出来事に、咲の部屋にいた全員の動きが止まった。
「ちょ、ちょっとテンコ!テンコ、待ちなさい!」
くるみが慌ててテンコの後を追った。
部屋には咲と舞、精霊たち、そしてアルカードだけが残った。
「咲、言い過ぎよ…」
テンコとくるみが部屋から出て行った後、初めて声を発したのは舞だった。
「だって、あの娘の態度!舞は腹が立たないの!?」
「でも、テンコさんだって、この世界に来て色々不安だと思うし…」
転校生だった舞には、新しい環境に接する事に対する不安な気持ちがよく分かっていた。
だが、咲には舞の気持ちが分かっていなかった。
その結果、自分の苛立ちを舞にぶつける事になってしまう。
「もし、あの二人が来なければ、満と薫が戻ってきてたかも知れないんだよ!舞は、満と薫が戻ってこなくてもいいって言うの!?」
その一言に舞の表情が一変した。
舞の中で押さえつけていた感情が、一気に爆発する。
「そんな事、一言も言ってないでしょ!それに最初にくるみさんとテンコさんに協力するって言ったのは咲じゃない!」
舞にしては珍しく、激しい口調だった。
ここまで感情的な舞の姿を見たのは、舞の母親の埴輪が壊れた一件以来の事だった。
そんな咲と舞を落ち着かせようと、フラッピとチョッピが間に入る。
「喧嘩は止めるラピ!」
「いつもの二人じゃないチョピ…」
チョッピの目には涙が浮かんでいた。
ムープとフープに至っては、そんな状況に耐えられず、今にでも大声で泣き出しそうな表情だった。
「ムプ…」
「ププ…」
ムープとフープが泣き出そうとした瞬間、今まで咲と舞のやり取りを呆然と見ていたアルカードが大声で泣き始めた。
「うわ~ん!喧嘩は止めるド~!」
余りにも大げさな泣き方をするアルカードに呆気にとられる咲と舞。
「ちょ、ちょっと…」
「アル…」
「テンコは…、テンコは可哀そうな娘だド~!」
アルカードは泣きながら話し続ける。
だが、アルカードの口から語られるテンコの過去は、咲や舞の想像を超える物のだった。
「テンコには…、テンコには、感情がないんだド…」
「感情が…ないって…」
想像もしていなかったアルカードの言葉に動揺する咲。
それは舞や精霊たちも同じだった。
アルカードは言葉を続ける。
「アルの住んでいた世界には王族でも普段は入れない禁断の地があったド…。その地にある小さな祠には『世界と世界を繋ぐ虹』があると言われてたド…」
「アルも、それは宝石か何かだと思ってたド…。それが人間だったなんて思ってもいなかったド…」
「人間…?え…!?まさか…!?」
アルカードから発せられた信じられない言葉に舞の顔色が変わった。
「そうだド…。その小さな祠に閉じ込められていたのがテンコだド…」
「!!」
「暗く、狭い、誰も近寄る事のない小さな祠に、あの娘は何年もたった独りで閉じ込められてたんだド…」
「ラピ…」
「チョピ…」
そこにいる誰もがテンコが経験してきた想像しえない苦痛と孤独に胸を痛める事しか出来なかった。
そんな重苦しい空気の中、咲がアルカードに問いかける。
「それって…、いつの話なの…?」
アルカードは俯いたまま咲の問いに答える。
しかし、その答えは咲や舞たちの想像を更に超える衝撃を与える事になるのだった。
「禁断の地に世界を繋ぐ虹が降りたのは、今から9年前の事だったド…」
誰もが言葉を失なった。
「きゅっ…、9年前って…」
「テンコさんがわたし達と同じ14歳なら…」
「5歳の頃から、あの小さく、暗い祠に一人ぼっちで閉じ込められていたんだド…」
アルカードの口から発せられる言葉は、どれも咲や舞の想像を超える事ばかりだった。
5歳と言えば、みのりよりも小さな子供だ。
そんな小さな子供がたった一人、9年間も、誰も近寄る事もない、暗い小さな祠に閉じ込められていたの言うのだ。
大人でも耐える事の出来ないであろう孤独を、テンコはそんな小さな時から9年間も課せられていた。
その9年間の孤独と恐怖がテンコから感情を奪った事は、咲や舞にも容易く想像出来た。
テンコが経験したであろう孤独、恐怖、哀しみ、苦しみ。
それは温かく家族に囲まれて育ってきた咲や舞とは正反対の暮らしだった。
二人には、テンコの境遇に、ただ、ただ胸を痛める事しか出来なかった。
「そして、アルがテンコと出会った時には、テンコは感情を持っていなかったド…。喜び…、怒り…、哀しみ…、楽しみ…」
「誰にも生まれ持ってある七つの感情をなくしていたんだド…」
「そんな…」
「…」
アルカードが咽び泣いていた顔を少しだけ上げた。
「でも、テンコは三つの感情を取り戻したド…。テンコが訪れた三つのプリキュアの世界で三つの感情を取り戻したド…」
その言葉と共に、アルカードの表情が少しだけ明るくなったと思った瞬間、再び表情を曇らせた。
「でも、その感情はまだ表には出てないド…。感情を失っていた時間が長過ぎたんだド…」
「喜べないムプ~」
「笑えないププ~」
ムープとフープが泣きながら、抱き合った。
咲や舞、フラッピやチョッピにもテンコが何故、ああいう態度しか取れない事が理解出来た。
テンコには分からないのだ。
自然と溢れ出る感情がないテンコには、周りと気持ちを合わせる事が出来なかったのだ。
「テンコの奪われた七つの感情と七つのプリキュアの世界は関係あるのかも知れないド!」
「プリキュアの世界を救う事は、テンコ自身も救う事なんだド…。世界を…、テンコを助けてほしいド~!」
そう言って再び泣き伏した。
アルカードの必死の叫びが、そしてそこで語られたテンコの過去が、そこにいる誰もの心を動かしていた。
みんなの心が一つになっていた。
「舞…!」
「うん!」
咲と咲、そして精霊たちは、部屋を飛び出していった。
涙を拭ったアルカードも、慌てて咲たちに続いた。
夕陽の沈む海岸線。
そこには通行人や車の姿もなかった。
ただ波の音だけが聞こえる。
そんな夕陽が照らす道をテンコとくるみは歩いていた。
「いい加減にしなさいよね…!この世界のプリキュアの協力がなきゃ、私たちはこの世界から出る事が出来ないんだから…」
「どうでもいい…」
「どうでもいいって、私は困るの!ココ様、ナッツ様…、のぞみ達の所に帰るんだから!」
「フフフフフ…、それは無理だぜ、セニョリ~タ」
それはダークフォールの幹部の一人、モエルンバの声だった。
その声の先には、歩道のガードレールに身体を預けるモエルンバの姿があった。
くるみは素早く身構える。
一見、優男にも見えるモエルンバだったが、先日のカレハーン、ドロドロンと同じ闇の力が感じ取れた。
「その通りだ」
その声にテンコとくるみが振り向くと、そこには同じくダークフォールの幹部の一人、キントレスキーが立ちはだかっていた。
モエルンバに気を取られた瞬間、既に退路は断たれていたのだった。
「プリキュアを助けるとどういう事になるか、じっくりと教えてやろう」
キントレスキーは、そう言って組んだ両手の拳の骨を鳴らした。
「イッツ、ショーターーーーイム!」
モエルンバの声が夕焼けの海岸に響き渡った。
「ん!?」
店先のいつもの場所で寛いでいたコロネは何かを感じ取った。
咲と舞がテンコ達を追いかけようと家を出た時、二本足で駆けるコロネの姿が目に映った。
「フッフッフッフッフッ…」
「コロネが走ってる…」
「意外と速いのね…」
「うわっ!って、駄目でしょ!そんな恰好で走っちゃ~!」
我に返った咲の声にコロネが足を止め、振り返る。
「それどころじゃない!あいつ等がまた現れたよ!」
「ええ!?」
「嫌な感じがする…!くるみとテンコが危ない!」
コロネは先日の敵よりも強い闇の力を感じ取っていた。
この感覚をコロネは知っていた。
あの男が再び現れたのだ。
「フン!ハァアアア!」
キントレスキーが構えた拳を道路に打ち込むと、強靭なアスファルトを砕きながら、くるみとテンコに向けて衝撃波が放たれる。
その攻撃を寸前で避けた二人が身構えた。
くるみが青い薔薇の中から現れた「ミルキィパレット」を手に取った。
「ブラシペン」で4つのボタンをタッチすると、ミルキィパレットのボタンに青い薔薇の紋章が浮かび上がる。
「スカイローズ・トランスレイト!」
くるみの周りを青い薔薇が覆い尽くす。
その薔薇の花弁が舞い上がると、その花弁がミルキィローズのコスチュームに変化していった。
「青い薔薇は秘密の印!ミルキィローズ!」
「テンコ!」
ミルキィローズに変身したくるみが、テンコの名を呼んだ。
「はぁ…、めんどくさい…」
そう言いながら、テンコが腰に付けているポーチからカードを1枚抜き出した。
そのカードには「キュアリアリー」の姿が描かれていた。
カードを正面に翳すとテンコのベルトのバックル部分に「リアリー・ドライバー」が浮かび上がり、装着された。
「トランスフォーム…プリキュア…」
テンコがリアリー・ドライバーにカードを通す。
「Ready to transform into a Cure…Realy」
ドライバーから音声が流れると、ドライバーによって等身大に拡大されたカードがテンコの前にホルグラフィーの様に浮かび上がった。
そして、そのホログラフィーがテンコの身体をすり抜けていく。
ホルグラフィーがテンコをすり抜けると、そこにはキュアリアリーに変身したテンコの姿があった。
「…」
「世界と世界を繋ぐ虹!キュアリアリーでしょ!」
黙っているリアリーの代わりにミルキィローズが苛立った様に名乗りを上げた。
「プリキュアに味方する者がどんな目に遭うか、思い知らせてやる!」
キントレスキーの攻撃がミルキィローズとリアリーを襲う。
二人はキントレスキーの攻撃をガードするが、その圧倒的なパワーに吹き飛ばされてしまった。
しかし、キントレスキーのターンは、まだ終わらない。
ミルキィローズの着地の隙をキントレスキーは見逃さない。
キントレスキーの強烈な飛び蹴りがミルキィローズに襲い掛かった。
「きゃあぁぁあ」
キントレスキーの蹴りによって、ミルキィーローズが再度吹き飛ばされた。
「…!」
リアリーがミルキィローズに気を取られた瞬間、炎がリアリーを襲った。
そこには身体に炎を纏ったモエルンバが浮かんでいたのだった。
「おっと。お前の相手はこの俺だぜ」
その炎の熱でリアリーの表情が僅かに歪む。
「うっ…!」
これが本気になったダークフォールの幹部の力なのか。
ミルキィローズからも先日の戦いの中で見せた余裕は消えさっていた。
「くっ!」
そんな二人を前にキントレスキー、モエルンバには余裕すら伺えた。
「さあ!パーティーはこれからだぜ!セニョリータ!」
巨大な土煙が爆音と共に上がった。
モエルンバから放たれた巨大な火の弾だった。
ぎりぎりで避けたミルキィローズとリアリーだったが、火の弾が落ちた跡のクレーターが、その威力を物語っていた。
質量の力で出来たクレーターではない。
その火の弾が持つ熱量で地面を溶かしていたのだ。
直撃を受ければプリキュアでも、ただでは済まない事は明白だった。
しかし、二人の敵はモエルンバだけではない。
キントレスキーの猛攻が始まった。
空中回転で威力を増したキントレスキーの飛び蹴りが二人に襲いかかる。
それはまるで古代の兵器「バリスタ」から放たれた巨大な矢の様な一撃だった。
その衝撃で砂浜に巨大な土煙が上がった。
その土煙からミルキィローズとリアリーが左右に飛び出した。
二人一緒にいては、攻撃が集中してしまうと判断したミルキィローズの作戦だった。
リアリーが脱出した土煙を振り返った時、土煙が竜巻へと変化した。
「…!?」
その瞬間、竜巻が消え去り、そこからキントレスキーがリアリーに向かって飛び出してきた。
正に、一瞬の出来事だった。
リアリーは、キントレスキーの強烈なパンチをぎりぎりでガードした。
その衝撃でリアリーの表情が歪む。
しかし、キントレスキーは拳を引かない。
そのまま、リアリーのカードを突き破ろうとしていた。
「ぐっ…」
キントレスキーの力に負けまいと、踏ん張るリアリーだったが、キントレスキーには余裕すら伺えた。
「どうした!?反撃してもいいんだぞ!」
ダークフォール最強の戦士の前にリアリーは踏み止まるのが精一杯だった。
その時、キントレスキーが急に拳を引いた。
それにより、リアリーはバランスを崩し、前のめりになった。
キントレスキーが、その隙を突く。
「てい!」
素早く身体を入れ替え、リアリーの背中に横蹴りを放った。
その一撃でリアリーは吹き飛ばされた。
「はっ…!」
吹き飛ばされたリアリーにミルキィローズが気を取られた瞬間、モエルンバの炎がミルキィローズに襲いかかった。
「あっ、ああああぁぁぁああ!」
その炎によって、ミルキィローズの悲鳴と共に身体から黒い煙が上がる。
辺りに焦げくさい臭いが広がった。
崩れ落ちるミルキィローズとリアリー。
そこにキントレスキーが一歩、一歩近づいてくる。
「勝負は勝負だ…!私はいつでも全力で戦うつもりだ…!例え相手が、どこの輩か分からなかったとしてもだ!」
そんな中、モエルンバは、その様子を余裕の笑みを浮かべ眺めていた。
モエルンバ、キントレスキーとミルキィローズ、リアリーとの力の差は歴然に見えた。
ならば余計な力を使う必要はない。
モエルンバは、キントレスキーの出方を伺った。
「私達の事はどうでもいいでしょ…」
それは、ミルキィローズの声だった。
圧倒的な力を見せ付けられながらも、再び立ち上がろうとするミルキィローズとリアリーの姿が、そこにはあった。
「どうでもいいだと!?どうでもいいなら、何故戦う!?お前達の言う事は…!」
キントレスキーの眉間に血管が浮かび上がった。
その表情が、怒りに震えている事は明白だった。
「まるで筋が通っていないではないかぁあああああああ!」
その怒号と共にキントレスキーの身体から力が噴き出す。
その衝撃により、辺りの空気が震える程だった。
キントレスキーの渾身のパンチがミルキィローズとリアリーに襲い掛かる。
二人は、何とかその一撃をガードしたが、キントレスキーのターンはまだまだ続く。
キントレスキーは、二人でやっと防いだ先程の一撃に匹敵するパンチの連打を繰り出したのだ。
「てぇいっ!!お前達の力はこんなものかっ!もっと本気を出せぇええ!!!」
そう言いながらも、キントレスキーは手を休める事はない。
ミルキィローズとリアリーには、その攻撃を防御し続ける事しか出来ないでいた。
「そうそう。これじゃ、パーティーが盛り上がらないぜ」
その様子を傍観しているモエルンバの声だった。
キントレスキーの猛攻は止まらない。
それどころか、パンチを繰り出すスピードが徐々に上がってきた。
「オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ…!」
キントレスキーの圧倒的な手数のパンチに、ミルキィローズとリアリーは徐々に圧されていった。
「フン!」
キントレスキーの渾身の蹴りをぎりぎりで避けたミルキィローズとリアリー。
「チャ!」
しかし、そこにモエルンバの炎の渦が襲いかかってきた。
「きゃあぁぁぁああ!!」
モエルンバの炎の渦がミルキィローズとリアリーの退路を断った。
そこにキントレスキーの追撃が襲いかかる。
「ああぁあ!!」
ミルキィローズとリアリーを捕まえたキントレスキーが、プロレス技のベアハッグで二人を締め上げた。
「くっ!ああぁあ!!」
キントレスキーのベアハッグにより、ミルキィローズとリアリーの表情が歪む。
モエルンバは苦しむ二人の姿を、腕を組んで眺めていた。
「やれやれ、もうフィナーレかい?」
モエルンバの言葉にも、ミルキィローズとリアリーは何も返す事が出来ない。
何故なら、二人にはキントレスキーの怪力によって締め上げられる事によって聞こえる、自分の身体の背骨や肋骨が軋む音しか聞こえていなかったのだから。
「うっ、ううぅぅぅうう!くぅぅぅ…」
「うっ、うぁぁぁああ!うううぅぅぅ…」
そして、遂にミルキィローズの身体から力が抜けた。
遂に力尽きてしまったのか。
その時だった。
ミルキィローズの口元が僅かに動いた。
「確かに…筋は通っていなかも知れない…。だけど私たちは…」
ミルキィローズの掌から青い薔薇の花弁が舞い上がる。
その薔薇がキントレスキーの顔面を直撃した。
「ヌオッ!」
思わずミルキィローズとリアリーを締め上げる腕が緩んだ。
二人は、キントレスキーの呪縛から抜け出すと一転、反撃に出た。
「ふっ!!」
ミルキィローズとリアリーの息の合ったパンチがキントレスキーを直撃した。
「ヒォォォォオオオオオオオオ!!!」
予想もし得なかった反撃を受けたキントレスキーは、海の上まで吹き飛ばされていった。
「プリキュア世界を取り戻してみせる!」
吹き飛んだキントレスキーによって、海面に水飛沫が上がった。
「私は別に…」
そんなミルキィローズの決意の籠った言葉に対し、普段の無気力な返事を返すリアリー。
ミルキィローズの表情が怒りに震える。
「あなたねぇぇぇ!」
ミルキィローズとリアリーが、そんなやり取りをしている間に、崩れ落ちた水飛沫の中からキントレスキーが姿を現した。
だが、その表情は笑っていた。
キントレスキーが求める物、それは強者との戦いのみだった。
この笑いはキントレスキーが二人の力を認めた証なのだ。
「フフフフフ…、やっと本気になったようだな…」
「俺も燃えるぜ!セニョリータ!」
モエルンバは、そう言うと自らの両方の掌に炎を宿した。
キントレスキーとモエルンバが再びミルキィローズとリアリーに襲いかかる。
ミルキィローズがキントレスキーの攻撃をカウンターで返し、顔面に回し蹴りを入れる。
だが、キントレスキーを仰け反らせるのが精一杯で、直ぐに反撃を受けた。
ぎりぎりでガードしたミルキィローズだったが、その衝撃でガードごと吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
苦戦しているのはミルキィローズだけではなかった。
モエルンバの炎の攻撃を空中に避けたリアリーだったが、モエルンバは追撃の手を休めなかった。
両手に炎を宿したモエルンバが、空中にいるリアリーに襲い掛かる。
その攻撃をスペインの闘牛士の様に華麗に避け、蹴りを放つリアリー。
しかし、その直後、モエルンバの腕から伸びた炎のロープがリアリーの身体を縛り上げ、地面に叩きつけるのだった。
その衝撃により、砂浜に土煙が上がる。
その時だった。
土煙の中から青い薔薇の花弁が舞い上がり、キントレスキーとモエルンバに向かって行った。
思わぬ反撃に、青い薔薇の直撃を受けるキントレスキーとモエルンバ。
土煙の中から身構えたミルキィローズとリアリーの姿が現れた。
手応えを感じたミルキィローズだったが、そこには無傷のキントレスキーとモエルンバが立ちはだかっていたのだった。
「チャチャチャ~」
それに驚きを隠せないミルキィローズ。
だが、このままやられる訳にはいかなかった。
この世界のプリキュアの力が借りれない以上、リアリーと二人でこの強敵を倒すしかなかったのだ。
「リアリー!」
「はぁ…」
ミルキィローズの声に、溜め息をつきながらも、リアリーはポーチからカードを取り出そうとした。
しかし、それをモエルンバは見過ごさなかった。
「そうはさせないぜ!チャ!チャ!」
モエルンバが指を鳴らすと、ミルキィローズとリアリーに向かって炎の壁が襲いかかった。
その攻撃を避けようと空中に逃げる二人。
しかし、それを読んでいたキントレスキーが空中で待ち構えていた。
「へぇぇぇぇぇい、やぁあ!!!」
キントレスキーのカウンター攻撃は空気の壁を破る程の威力だった。
ミルキィローズとリアリーは砂浜に叩きつけられ、その衝撃により巨大な水柱ならぬ、砂柱が上がった。
キントレスキーは、体操選手の様に着地し、ポーズを取った。
土煙が徐々に消えていく中、ミルキィローズとリアリーのシルエットが浮かび上がった。
そのシルエットは何とか立ち上がろうとしていたが、力尽き、倒れこんだ。
倒れているミルキィローズとリアリーの下に近付いていくキントレスキーとモエルンバ。
ミルキィローズとリアリーは、既に虫の息だった。
だが、キントレスキーとモエルンバは歩みを止める事はない。
そして遂に倒れている二人を見下す様にキントレスキーが立ちはだかった。
「プリキュアに加担した事を後悔しながら消えるがいい」
そう言うと、キントレスキーは両拳に滅びの力を集めた。
キントレスキーの両拳から滅びの力が溢れ出す。
「くっ…」
「…」
ミルキィローズとリアリーは、遂に意識を失ってしまった。
どれ位、時間が経過したのだろうか。
一瞬だった様にも感じるし、悠久の様にも感じる時間だった。
意識を失って倒れたミルキィローズとリアリーの脳裏に咲と舞の声が響く。
「(テンコさん!)」
「(くるみさん!)」
「(テンコさん!)」
「(くるみさん!)」
ミルキィローズとリアリーの名前を何度も叫ぶ咲と舞の声に、二人の目の前に見えていた光が少しずつ大きくなった。
そして、その光が目の前を覆った瞬間、二人の目の前に咲と舞の笑顔が浮かび上がった。
二人がまだ一度も見た事がないはずの咲と舞の満面の笑顔だった。
「はっ!」
「…!」
その瞬間、ミルキィローズとリアリーは意識を取り戻した。
だが、目の前には今にも滅びの力を纏った両拳で、二人に止めを刺そうとするキントレスキーの姿が映った。
その時だった。
「ド~~~~~!」
モモンガの様に両手、両愛を広げ、滑空してきたアルカードが、キントレスキーの顔に張り付いたのだった。
「何!?」
突然の出来事に動揺するキントレスキーの両拳から滅びの力が消え去った。
そんな事があったにも関わらず、ミルキィローズとリアリーの視線は全く違う場所にあった。
「ん?」
それに気付いたモエルンバがミルキィローズとリアリーの視線の先に送ると、そこには息を切らせた咲と舞の姿があった。
「ま、前が見えん!?」
そんな中、キントレスキーは顔に張り付いたアルカードを引き剥がそうとしていた。
だが、アルカードも引き剥がされまいと必死だった。
それは時間を稼ぐ為ではなかった。
思わず飛び出してしまったが、後の事を全く考えていなかったのだ。
今がチャンスだった。
フラッピとチョッピが叫ぶ。
「咲!舞!早く!」
「変身するチョピ~!」
咲と舞が「クリスタル・コミューン」のボールを回転させると、手を繋ぎ、構えた。
「デュアル・スピリキュアル・パワー!!」
咲と舞の手にあるクリスタル・コミューンが接触した瞬間、溢れ出した精霊の光が巨大な光の珠となり、二人を包み、空へと舞い上がった。
その光の珠が弾け飛ぶと、そこに手を繋いだ二人の姿が浮かび上がる。
二人は精霊の光を纏っていた。
「未来を照らし!」
「勇気を運べ!」
咲と舞の声に答える様に、精霊の光がプリキュアのコスチュームへと変化していく。
「はあっ!」
プリキュアが大地へと舞い降りた。
「天空に満ちる月!キュアブライト!」
「大地に薫る風!キュアウィンディ!」
「二人はプリキュア!!」
「聖なる泉を汚す者よ!」
「阿漕な真似は、お止めなさい!」
キントレスキーは顔に張り付いていたアルカードの首根っこを掴むと、後方に放り投げた。
「ド~~~っ!」
「何故ここに…。まあ、いい…。今はこの者たちに制裁を加えるのが先だ」
「お前達とは後でじっくり遊んでやるぜ」
そう言うと、キントレスキーとモエルンバはブライトとウィンディを無視するかの様に、ミルキィローズとリアリーの下へ向かっていこうとした。
だが、その前にブライトとウィンディが立ち塞がった。
「そうはさせない!」
「ミルキィローズとリアリーに手を出さないで!」
それを見たムープとフープも声を上げる。
「二人を助けるムプ!」「二人を助けるププ!」
「月の力!」
「風の力!」
「スプラッシュ・ターン!!」
ムープとフープの力によって、「スプラッシュ・コミューン」から「プリキュ・スパイラル・リング」が現れ、ウィンディの手首とブライトの腰に装着された。
そんなブライトとウィンディの態度にキントレスキーは苛立ちを隠せない。
「邪魔だ!どけぇぇぇぇぇい!」
「チャ!チャ!」
モエルンバもキントレスキーと共にブライトとウィンディに襲い掛かる。
それを迎え撃つブライトとウィンディ。
「はああぁあ!!」
ブライトとウィンディ、キントレスキーとモエルンバ、光と闇が激突する。
それを呆然と見つめているミルキィローズとリアリーの姿があった。
さっき言い争いをしたはずの咲が、自分たちを助ける為に目の前で戦っているのだ。
それも当然だった。
二人は、咲と舞がアルカードの口からテンコの過去ついて聞いた事を全く知らなかったのだから。
「ブライト…、ウィンディ…」
「…」
しかし、「フェアリー・キャラフェ」によって復活したキントレスキーとモエルンバには、ブライト、ウィンディの攻撃は通じない。
ブライトの光のバリアはキントレスキーに破らてしまった。
ウィンディから放たれた竜巻も、モエルンバにとっては何処吹く風だった。
「くすぐったいチャチャチャ!」
抵抗も空しく、キントレスキーとモエルンバの前に倒されるブライトとウィンディ。
「あぁ…」
「うっ…」
それを見届けたキントレスキーとモエルンバが、再びミルキィローズとリアリーの下へ向かおうとする。
「フン…。さあ邪魔者を懲らしめるぞ」
「イッツ、ショータイム」
キントレスキーとモエルンバが踵を返した。
その時、キントレスキーは自分の左足に違和感を感じ、足元を見た。
そこには、倒れたままキントレスキーの足にしがみ付くブライトの姿があった。
「二人には手出しさせない…」
それはウィンディも同じだった。
ウィンディも倒れたまま、モエルンバの足にしがみ付いていたのだった。
「そうよ…。指一本触れさせない…」
そんなブライトとウィンディの態度にキントレスキーの表情が怒りに変わる。
「邪魔をするなと…、言ったはずだぁぁぁぁぁあああ!!!」
砂浜に再び巨大な砂柱が舞い上がった。
「ああああぁぁぁぁ!!」
キントレスキーの怒りの一撃によって、空中へと吹き飛ばされるブライトとウィンディ。
そして、重力に引かれるまま、二人は砂浜へと激突したのだった。
「順番も守れんのか…。いいだろう。望み通り、お前達の相手を先にしてやる」
キントレスキーがブライトとウィンディに向かおうとした時、今度はミルキィローズとリアリーが立ちはだかった。
「貴方達の相手は、私達でしょう」
「…」
リアリーが再び腰のポーチからカードを取り出そうとする。
「またそれかい?チャ、チャ!」
モエルンバが指を鳴らすと、再びミルキィローズとリアリーに炎が襲いかかる。
その炎は壁となり、やがて炎の竜巻へと変化していった。
「ファイヤー!」
炎の竜巻によって閉じ込められたミルキィローズの脳裏に「5GoGo!」の世界の仲間が浮かぶ。
ミルキィローズは思わず目を瞑った。
「ううっ…!(ココ様、ナッツ様、みんな…)」
しかし、炎の壁は一定の幅で動きを止めた。
ミルキィローズとリアリーが振り向くと、そこには炎の壁を必死に抑え込むブライトとウィンディの姿があった。
「どうして!?私たちは他の世界の人間なのに…」
ミルキィローズの言葉にブライトが叫ぶ。
「そんなの関係ない!」
「アルから聞いたの…。テンコさんの事…」
「さっきはごめんね…。あんな事言っちゃって…。私たちも協力するよ!二人が次の世界に行ける様に!」
「ブライト…、ウィンディ…」
ウィンディとブライトの言葉にミルキィローズの目に薄らと涙が浮かんだ。
そして、リアリーは腰のポーチから1枚のカードを取り出した。
そのカードを見たミルキィローズの表情に笑みが浮かぶ。
「そのカードは…!」
その頃、炎の竜巻の外ではモエルンバが勝利に酔っていた。
「燃える、燃える、燃えるぜぃ!さあ!ラストショーだぜぃ!」
燃え上がる炎の竜巻に胸躍らせるモエルンバと、それを黙って見つめるキントレスキー。
その時、キントレスキーは、その炎の竜巻の中から何かを感じ取った。
「うっ!」
「どうした?」
モエルンバがそんなキントレスキーを怪訝そうな表情で伺った。
「今は危険だ!一旦退いた方がいい」
「おいおい…、ここまで来て何をビビってんだ?セニョール」
「いや、待て。長年の経験と勘で分かる。今行けば確実にやられる!」
そんなキントレスキーの言葉を一笑に付すモエルンバ。
「フン…!それなら俺一人で派手に」
モエルンバの身体が炎に包まれる。
「ショータイムだぜ~!モエ、ルンバ~!!」
そう言うと、モエルンバはキントレスキーの忠告に耳を貸さず、プリキュア達が閉じ込められている炎の竜巻に向けて突進して行った。
「いかん!戻れ!モエルンバ!」
その時だった。
「Ready to transform into a Cure…Aqua」
炎の竜巻の中からドライバーの音声が響いた。
「チャ?」
「プリキュア!サファイア・アローーーー!」
その声と共にモエルンバの前にあった炎の竜巻が一瞬の内に消えてなくなったのだ。
「な!?」
消えた炎の竜巻から現れたのは、リアリーが変身した「キュアアクア」とミルキィパレットを構えたミルキィローズの姿だった。
「邪悪な力を包み込む」
ミルキィローズがミルキィパレットを突き出すと、その先に巨大な青い薔薇が浮かび上がった。
「薔薇の吹雪を咲かせましょう!ミルキィローズ!ブリザードッ!」
その声と共にミルキィパレットを振り抜くと、目の前に浮かび上がった巨大な青い薔薇が華吹雪へと変化した。
青い薔薇の華吹雪がモエルンバの身体を打ち抜いた。
その力がゴーヤーンの印を打ち砕く。
「今よ!」
アクアとミルキィローズの後ろに控えていたブライトとウィンディがスパイラル・リングにリングを装填し、回転させた。
そして、二人は手を繋ぎ、目を閉じる。
ブライトとウィンディが構えると、それに呼応するかの様に大地から、そして大空から幾百、幾万もの精霊の力が光の粒となり、溢れ出す。
その膨大な量の精霊の粒子が二人のスパイラル・リングに吸い寄せられる様に集まっていった。
「アチャチャ!」
「精霊の光よ!命の輝きよ!」
「希望へ導け!二つの心!」
「プリキュア・スパイラルスター!!」
スパイラル・リングに集まった精霊の力の粒子がブライトとウィンディの手の甲から溢れ出し、光の水流を描いた。
その光の水流が徐々に形を変え、ブライトとウィンディの前で渦となった。
「スプラーーーーーーーーーシュ!!」
その掛け声と共にブルームとイーグレットが目の前にある光の渦を両手で打ち抜く。
その瞬間、その渦から膨大な精霊の光の激流が放たれた。
ブライトとウィンディの両腕から精霊の光の渦が放たれた。
「アチャチャ!」
その精霊の光の渦がモエルンバを包み込み、まるで星の様な形を模った。
「そんな!今度こそ燃え尽きちゃったぜ、セニョリータ…」
そう言い残し、モエルンバは元の火へと戻ったのだった。
その後は、カレハーンの時と同じだった。
モエルンバの身体を形成していた滅びの力は四散し、やがて消えていった。
その様子をキントレスキーは空中から見届けていた。
「奴らが力を合わせると、これ程までとは…!」
そう言って、プリキュア達の前から姿を消した。
夕陽の下、砂浜に集う4人のプリキュアと精霊たち。
リアリーはアクアの姿から元に戻っていた。
その時、ブライトがリアリーに歩み寄ると、頭を下げた。
「テンコさん、さっきはごめんなさい!」
突然の事に、リアリーが戸惑いを見せる。
「ちょ…、ちょ」
リアリーも、どう対応していいか分からず、思わずミルキィローズに視線を送った。
すると、ミルキィローズが笑顔でブライトに声を掛けた。
「咲さん、気にしないで。咲さん達の気持はよく分かったし、それに…」
そう言うと、ミルキィローズはブライトとウィンディを見て、少し恥ずかしそうに言葉を続けた。
「本当の事言うと私、二人がきっと来てくれる様な気がしてたの…」
「私は別に…」
「リアリー…!」
いつもの態度に戻ったリアリーに注意するミルキィローズ。
その時、いつものビッグスマイルに戻ったブライトが、ミルキィローズとリアリーに呼び掛けた。
「当たり前だよ!」
それにウィンディが続く。
「うん!だって私達…」
「友達だもん!!」
ブライトとウィンディの思いがけない言葉に、ミルキィローズの目に薄らと涙が浮かんだ。
「咲さん…、舞さん…」
その時、いつもへの字口だったリアリーの口元が緩んだ事にアルカードが気付いた。
「テンコが笑ってるド」
それを聞いたリアリーが、そっぽを向く。
「え!?テンコ笑ってるの!?」
「笑ってない…」
顔を背けるリアリーをミルキィローズがからかう様に顔を見よう覗き込んだ。
「後、私の事は咲でいいよ。みんな私の事、咲って呼ぶから。私もくるみ、テンコって呼んでいい?」
「私の事も舞って呼んでね」
「勿論!」
ブライトとウィンディの言葉に、ミルキィローズがウインクしながら答えた。
「私は嫌…」
そう言ったリアリーだったが、何処か照れくさそうに見えた。
ブライトとウィンディ、ミルキィローズ、そして精霊たちの目が合った瞬間。
「うふふ…、あはははは…」
その場所は、みんなの笑顔と笑いに包まれたのだった。
キャスト
高尾天子(キュアリアリー)/声:千葉千恵巳
アルカード/声:TARAKO
美々野くるみ(ミルキィローズ)/声:仙台エリ
日向咲(キュアブルーム)/声:樹元オリエ
美翔舞(キュアイーグレット)/声:榎本温子
フラッピ/声:山口勝平
チョッピ/声:松来未祐
ムープ/声:渕崎ゆり子
フープ/声:岡村明美
日向みのり/声:斎藤彩夏
篠原先生/声:氷青
フィーリア王女/声:川田妙子
コロネ/声:渡辺英雄
モエルンバ/声:難波圭一
キントレスキー/声:小杉十郎太
ゴーヤーン/声:森川智之
アクダイカーン/声:五代高之
キュアアクア/声:前田愛
ドライバー/声:Beckii Cruel
|