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 「プリキュア テレビアニメ10周年記念作品」SS編 第1話



 「滅びの力」により汚された「フェアリー・キャラフェ」の力によって蘇ったカレハーンとドロドロンに苦戦するブルームとイーグレット。


 「フフ~ン!そんなんで僕たちに勝てると思ったら、大間違いです!」

 「どう足掻いてもお前達の勝つ可能性は1%もない!言え!王女は何処だ!」

 「教えてくれたらね、ちょっとは手加減してあげてもいいよ」

 圧倒的な力を得て蘇ったドロドロンとカレハーンには余裕すら伺えた。
 しかし、そんな窮地にあってもプリキュアは決して諦めない。
 イーグレットとブルームが、ドロドロンとカレハーンにいつもの啖呵を切る。


 「誰が貴方達に」

 「教えるもんですか!」

 そう言って立ち上がるイーグレットとブルーム。

 「感じ悪~!」

 ドロドロンは、その声と共に突き出した両手首から蜘蛛の糸を放つ。
 放たれた糸が広がると同時に、網の形へと変化した。
 それはまるで、圧縮されて糸状になっていた網が広がったかの様に見えた。
 ブルームとイーグレットは、その網を精霊のバリアで防ごうと構えたが、ドロドロンの方が一瞬早かった。
 二人は、その網によって両腕を絡めとられ、身動きが取れなくなってしまった。


 「フフ~ン!さ~王女が何処にいるか教えて下さ~い♪」

 そう言うとドロドロンは、プリキュアの両腕を絡め取った網を締め上げていった。



 「咲!」

 それはコロネの声だった。
 ブルームとイーグレットが直面した危機を目の当たりにしたコロネは、じっとしている事が出来なかった。
 自分ではどうする事も出来ない事は分かっていた。
 だが、それでも苦しむ二人の姿を、コロネは黙って見ている事が出来なかったのだ。

 しかし、二人の下へ向かおうするコロネを引き止める声が響く。


 「いけません!コロネ、危険です」

 それは「泉の郷」の王女フィーリアの声だった。
 フェアリー・キャラフェを奪われ、実体を保つ事が出来なくなっていたフィーリアは、コロネの身体を借り、その存在を保っていた。
 しかし、コロネも黙ってはいない。


 「じっとしてられないんだ!咲に助けられなかったら、今の俺はない!」

 5年前、咲に助けられたコロネの記憶が蘇る。
 コロネがまだ子猫の頃、「トネリコの森」に捨てられたのを救ってくれたのが咲だった。


 「だから、咲を助けたいんだ!咲の為だったら何でもやる!」

 その気持ちはムープとフープも同じだ。

 「王女様!ムープもやるムプ!」

 「プリキュアを助けるププ!」


 その間もプリキュアはドロドロンに追い詰められていた。
 ドロドロンによって両腕を封じられたブルームとイーグレットが、じわじわとドロドロンの下へと引き寄せられる。
 ドロドロンは鼻歌を唄いながらも、決してその手を緩める事はなかった。


 その姿を見たフィーリア王女も遂に決断する。


 「分かりました。やってみましょう!皆さんの力があれば、出来るかも知れません」

 「王女様!ムープの力をあげるムプ!」

 「フープの力もあげるププ!」

 その声と共にムープとフープの身体が輝き始めた。
 その姿は、嘗てゴーヤーンの隠れ家で見せたムープとフープの姿と同じだった。
 プリキュアのピンチに、ムープとフープの真の力が再び発現する。


 「やろう!1%でも可能性があるなら!」

 「ええ」

 ムープとフープ、そしてコロネの強い気持ちにフィーリア王女も覚悟を決め、頷いた。


 そんな中、ドロドロンはブルームとイーグレットを追い詰めていた。

 「この網は~♪強いです~♪そう簡単には切れません~♪んふふ~ふふふふふ~♪とぉおおお」

 得意の鼻歌を唄っているドロドロンだったが、プリキュアを追い詰める手は緩めない。
 それはまるで、蜘蛛の巣に掛かった獲物をいたぶっているかの様にも見えた。


 その頃「ダークフォール」では、支配者であるアクダイカーンの側近ゴーヤーンが自らの隠れ家で、お茶をすすっていた。
 純和風の隠れ家は茶室も兼ね備えており、ゴーヤーン自慢の隠れ家である。
 その傍らにはプリキュアから奪ったフェアリー・キャラフェが置かれている。
 フェアリー・キャラフェによって復活したカレハーンとドロドロンがプリキュアを圧倒する中、ゴーヤーンも余裕の表情で寛いでいた。

 「さて、いよいよ今日でプリキュアも見納めですねぇ。うん?」

 そう言って、茶釜の中に映し出されたプリキュアの様子を伺う。
 そこに映ったのは、ドロドロンから放たれた網によって両腕を封じられ、苦しむプリキュアの姿だった。

 「ウ~ホホホホホホ…!」

 追い詰められているプリキュアの姿を確認したゴーヤーンから、笑い声が木霊する。
 嬉しさのあまり、癖である手を揉む仕草が思わず出てしまう。


 「緑の郷」ではプリキュアを助ける為、ムープとフープ、コロネが力を合わせていた。
 ムープとフープから放たれた月の力と風の力がコロネの身体に集まる。
 その力により、コロネの身体から黄金の光が発せられた。
 それに呼応するかの様に、コロネの身体からフィーリア王女の姿が薄らと浮かび上がる。
 泉の郷の王女フィーリアが、緑の郷の精霊たちに呼びかける。


 「緑の郷の命たちよ!力を貸して下さい!届け!二人の元へ!」

 月の力と風の力を得て金色に輝くコロネの身体からフィーリア王女によって、その力が解き放たれた。
 精霊の力が向かったのは、「大空の樹」の洞の中だった。
 その力は次元を超え、ダークフォールのゴーヤーンの隠れ家にあるフェアリー・キャラフェへと伝わった。
 精霊の力によって、滅びの力に汚されていたフェアリー・キャラフェの力が瞬く間に浄化される。


 そして、浄化されたフェアリー・キャラフェの力が、二つの「奇跡の滴」へと変化した。
 その奇跡の滴は、まるで意識を持っているかの様にフェアリー・キャラフェから飛び出すと、満と薫が眠る湖へと転がって行った。
 プリキュアが苦しむ様子を見る事に夢中なゴーヤーンが、それに気付く事は最後までなかった。

 しかし、その奇跡の滴は満と薫の元までは届かなかった。
 湖面まで後もう少しという所で、コロネたちの力が尽きてしまったのだ。

 「もう少しなのですが…」

 「もう一度頑張るぞ!」

 フィーリアの声に応えるコロネ。
 ムープ、フープも再び意識を集中し始めた。


 ブルームとイーグレットはドロドロンの網から未だ脱出する事が出来ないでいた。

 「う~ん…、だよ~♪」

 ドロドロンが腕から伸びている網に力を入れるとブルームとイーグレットを締め上げる力が一段と増した。
 その激痛により、ブルームとイーグレットは片膝をついてしまった。
 しかし、二人は決して根を上げない。

 「しぶといな…」

 それは、プリキュアの様子を静観していたカレハーンの声だった。

 「う~ん、さっと諦めろよ…!」

 ドロドロンの言葉に、ブルームとイーグレットが再び立ち上がる。

 「嫌よ!」

 「私達は絶対に!」

 「諦めない!!」

 プリキュアは決め台詞を叫ぶと、両腕を封じているドロドロンの網から脱出する為、再び力を込める。

 カレハーンとドロドロンに追い詰められながらも、プリキュアは決して諦めようとはしない。


 その声は、ダークフォールの暗い湖の底で眠る満と薫の下にも届くのだった。

 「(咲の…声…)」

 「(舞の…声…)」

 今までゴーヤーンの問い掛けにも答える事なく、眠り続けていた二人の口元が僅かに開くと、そこから気泡が洩れた。

 「(ここは…何処…)」

 「(さあ?…私達、消えたんじゃなかったの…?)」

 今度は二人の目が僅かに開いた。
 だが、その力は余りにも弱々しい。


 「(分からない…)」


 緑の郷では、プリキュアの戦いが続いていた。
 ドロドロンの網を遂に引きちぎる事に成功したブルームとイーグレット。

 「切れた!」

 ドロドロンが思わず驚きの声を上げた。
 だが、プリキュアの置かれた状況が決して好転したわけではない。
 カレハーンとドロドロンの猛攻に身を晒すブルームとイーグレットには、その攻撃をかわし続けるのが精一杯の状態だった。
 しかし、そんな状況の中でも諦めず、一瞬の隙を突き、挑み続けるブルームとイーグレット。


 「たああああああ!!」


 その声はダークフォールの湖の底で眠る満と薫にもハッキリと届いた。
 プリキュアの声に反応した満と薫が目を見開く。


 「(今の声は!」」

 「(やはり!)」

 「(間違いない!!二人の声だ!!)」

 咲と舞の声に気付いた満と薫が身体を動かそうともがく。
 だが、いくら身体に力を入れても、無駄だった。
 まるで深海の水圧に押しつぶされているかの様に、僅かしか身体を動かす事が出来ない。


 「(駄目だわ…!身体が動かない…!)」

 「(手足の感覚もない…!)」

 満と薫が、プリキュアに思いを馳せる。
 どんな強敵を前にしても、諦めず戦い続けるプリキュアの姿が二人の脳裏に浮かび上がった。


 「(でも、どんなピンチの時だって、絶対に諦めなかったわね、あの二人は)」

 「(今もきっと、頼まれもしないのに、誰かの為に頑張ってる。二人で力を合わせて!…。満…、私諦めたくない…)」

 「(私もよ…。もう一度二人に)」

 「(二人に会いたい…!!)」

 薫が満にアイコンタクトを送る。
 それに気付いた満が頷き返した。
 そして、二人は身体を動かそうと、再び身体に力を込める。

 「(うううううう…!!)」


 満と薫が封じられている湖の手前で止まっていた奇跡の滴が光り輝く。


 その頃、緑の郷でもブルームとイーグレットは、カレハーン、ドロドロンと戦い続けていた。
 しかし、その劣勢は今も変わりない。
 ダメージを受けているのはプリキュアだけで、カレハーンやドロドロンには余裕すら伺えた。



 劣勢の中でも諦めていないのはプリキュアだけではない。
 コロネ、ムープ、フープ、そしてフィーリア王女も諦めていなかった。

 奇跡の滴に力を送り続ける。

 「力を貸して下さい!満!薫!」

 フィーリアは満と薫へ願いを送り続けた。
 プリキュア、コロネ、ムープ、フープ、フィーリア、誰もが諦めず、持てる力を振り絞る。


 それはダークフォールの湖の中に封じ込められている満と薫も同じだった。

 「(うううううう…!!)」

 満と薫も最後の力を振り絞る。

 
その時だった。
 みんなの心が一つになった瞬間、止まっていた奇跡の滴が再び動き出したのだ。


 そして、満と薫の眠る湖へと落ちて行った。


 「咲と舞の為に!」

 フィーリア達の気持が届いたと思った、その時。


 湖の水面に届く直前だった奇跡の滴が忽然と消えてしまったである。

 「(もう…)」

 「(力が…)」

 残る全ての力を使い切った満と薫には、もう指一本動かす力さえ残されていなかった。
 全ての力を使い果たした二人は、再び深い眠りへと落ちて行った。

 消えた二粒の奇跡の滴。
 ダークフォールの者の仕業なのだろうか。
 だが、未だゴーヤーンはフェアリー・キャラフェの滅びの力が浄化された事にさえ気付かず、
 茶釜の中に映るプリキュアの苦しむ姿を眺めるのに夢中になっている。
 消えた奇跡の滴の行方は、この時点では誰も知り得る事はなかった。



 今まで何とかカレハーンとドロドロンも猛攻を凌いでいたブルームとイーグレットだったが、遂に彼らの猛攻の前に倒れてしまう。

 「フン!他愛無い奴らだ…」

 「がっかりだよ!」

 勝利を確信し、倒れているプリキュアを見降ろすカレハーンとドロドロン。
 そんな中でも、プリキュアは再び起き上がろうとする。
 しかし、それを黙って見ている彼らではなかった。


 「全然大した事ないね。フン」

 「これで終わりにしてやる」

 無情にも、プリキュアに止めを刺そうと構えるドロドロンとカレハーン。

 「じゃあね、プリキュア。バッハハ~イ♪」

 精霊のバリアを張る力もなくしたブルームとイーグレットは、思わず目を瞑ってしまう。

 「枯葉よ!」

 「ド~ン!」

 カレハーンとドロドロンの止めの同時攻撃がブルームとイーグレットを襲う。

 その時だった。



 「ミルキィローズ・ブリザードッ!」

 その声と共に放たれた青い薔薇の花弁が、カレハーンとドロドロンの攻撃を防いだ。

 「青い…」

 「薔薇…?」

 まだ立ち上がる事が出来ないブルームとイーグレットだったが、彼女達の目に映ったのは美しい青い薔薇の花弁だった。
 カレハーンとドロドロンの放った攻撃と青薔薇との衝突による衝撃で土煙が舞い上がった。


 「ホワイ!?」

 舞い上がった煙が晴れるにつれ、その中から二人の少女のシルエットが浮かび上がった。
 その姿は、どこかプリキュアに通じる姿に見える。
 一人はピンクが主体のコスチュームを着た黒髪の少女、もう一人は青い薔薇をイメージさせる様なコスチュームを着た紫色の髪の少女だった。
 二人とも咲や舞と同じ年頃の様に見えた。
 そして、黒髪の少女の肩には、小動物の様な生き物が乗っていた。
 その姿はモモンガの様に見えた。

 「ここは…?」

 それは、紫色の髪をした少女が発した言葉だ。

 「ここは『スプラッシュスター』の世界だド」

 何と、それは黒髪の少女の肩に乗っている小動物の声であった。

 「スプラッシュスター…ね…」

 先程から話しているのは、紫色の髪をした少女と小動物だけで、黒髪の少女は一切言葉を発していなかった。



 「モモンガが喋ってる…!?」

 「あなた達は、一体…?」

 ブルームとイーグレットが驚くのも当然であった。
 だが、二人の少女の登場に驚いているはプリキュアだけではない。
 ドロドロンやカレーハーンにとっても、それは同じ事だ。


 「何だよ、お前達!邪魔すんなよ!」

 「何だ、貴様ら。プリキュアの仲間か!?」

 その声に、二人の少女と妖精がカレハーンとドロドロンに視線を向けた。
 青い薔薇の少女が名乗りを上げる。


 「青い薔薇は秘密の印!ミルキィローズ!」

 それにモモンガの様な小動物が続く。


 「妖精界の王女、アルカードだド!」

 そう言ってポーズを決めた。
 しかし、黒髪の少女は一切何も話そうとしない。
 相変わらず、周りに興味を示さず、そっぽを向いていた。


 「ミルキィ…ローズ…?」

 「アルカード…?」

 ブルームとイーグレットにとっても「ミルキィローズ」や「アルカード」という名前は初耳だ。
 そんな中、名乗ろうともしない黒髪の少女に対し、ミルキィローズが痺れを切らした様に言い放つ。


 「ちょ、ちょっと!あなたも名乗りなさいよ!」

 「…。めんどくさい…」

 それが黒髪の少女が発した初めての言葉だった。
 しかも、何とか聞き取れる様な小声だ。
 その言葉を聞いたミルキィローズの眉間にしわが寄る。


 「なっ!面倒くさいって…!」

 「世界と世界を繋ぐ虹!『キュアリアリー』だド!」

 黒髪の少女の態度に業を煮やしたアルカードと名乗ったモモンガが、変わりに答えた。

 「キュア…リアリー…」

 「私たちの他に…プリキュアがいたなんて…」

 ブルーム、イーグレットにとっても、それは驚きの事実だった。
 しかし、それはカレハーン達にとっても同じ事だ。


 「キュアリアリーだと…。お前達、プリキュアを助ける為に来たのか…」

 「別に…」

 カレハーンの問いにリアリーが小声で返した。


 「べ、別にって…」

 そんなリアリーの態度に怒りを通り越して、呆れた様にガックリと肩を落とすミルキィローズ。

 「そうだド!アル達はこの世界のプリキュアを助ける為に来たド!」

 「ちょ、ちょっと!それは私のセリフでしょ!」

 そう言い放ったアルカードに突っかかるミルキィローズ。


 「そんな事、決まってないド…」

 アルカードは、バカにした様に舌を出した。
 その態度にミルキィローズが突っかかる。


 「あなたね~!」

 カレハーンとドロドロンを無視するかの様に、ミルキィローズとアルカードが言い争いを始めた。


 「も~、ごちゃごちゃ煩いな~!何でもいいから、そこどけよ~!もぅ」

 ミルキィローズとアルカードの言い争いを聞いていたドロドロンが痺れを切らした様に言った。
 それを聞いたミルキィローズが振り返る。


 「ここは私たちが相手よ!」

 そう言って、ミルキィローズが凛々しくポーズを決めた。

 「…」

 それに比べ、リアリーは相変わらず無関心の様だった。
 ぼ~っと明後日の方向を見ている。


 「カレッチ~、あいつら纏めてやっつけちゃおうよ~」

 「無論だ。プリキュア共々、倒してやる。フッ!」

 そう言うと、カレハーンはプリキュア達に向けて攻撃を放った。
 滅びの力を宿した枯葉がプリキュア達に襲いかかる。
 その瞬間、ミルキィローズがカレハーンの放った攻撃を前に立ちはだかった。


 「はっ!」

 その気合と共にミルキィローズが「ミルキィミラー」を構えると、カレハーンが放った攻撃をそのまま弾き返したのだ。
 それは、カレハーンにとって予想外の反撃となった。


 「ウォ!グハァ!」

 思いがけない反撃を受けたカレハーンは、自らの放った攻撃の直撃を受け、逆に吹き飛ばされてしまう。
 それをドロドロンが受け止めた。

 「馬鹿な!?何故、俺の力が通用しない!」

 「そうだよ!プリキュアの力は消せるのに~!」

 カレハーンとドロドロンの言う通りだった。
 フェアリー・キャラフェの力で蘇ったダークフォールの幹部の前では、ブルームとイーグレットの精霊の力は全く通用しなかった。
 だが、その事がカレハーンとドロドロンの慢心に繋がっていた。
 その隙をミルキィローズは見逃さなかった。


 「リアリー!」

 ミルキィローズがリアリーに向かって叫んだ。
 その声を合図にアルカードは、リアリーの肩から飛び降りて滑空すると、ブルームとイーグレットの近くにある岩陰へと避難した。


 「もう…。めんどくさい…」

 そう言いながらも、リアリーは腰に付いてあるポーチに手を伸ばす。
 リアリーは、そのポーチから一枚のカードを取り出すと、自らのベルトのバックル部分に取り出したカードを通した。
 ベルトのバックル部分は、カードのスキャナーになっていた。

 「Ready to transform into a CureBlossom

 バックルからドライバーの音声が響く。
 リアリーがスキャンしたカードを手放すと、そのカードが輝きながらリアリーの前に浮かび上がった。

 浮かび上がったカードが、みるみる巨大化していく。
 それは実態のないホログラフィーの様に見えた。
 その大きさは、直ぐにリアリーの等身大の大きさに変化した。
 しかも、その巨大化したカードにはリアリーやミルキィローズとも違う別のプリキュアの姿が浮かび上がっていたのだった。

 「プリキュア…オープンマイハート…」

 リアリーのその声に応えるかの様に、浮かび上がったホログラフィーが、リアリーの身体をすり抜けていった。


 カードがリアリーの身体をすり抜けて消えた瞬間、ブルームとイーグレットは我が目を疑った。
 何と、そこに立っていたのはリアリーではなかったのだ。

 全くの別人の少女だった。
 それは先程のカードに浮かんでいた別のプリキュアの姿だったのだ。


 「大地に咲く一輪の花!キュアブロッサム!」

 そう言ってポーズを決めたリアリーは、先程までのやる気を微塵も感じないリアリーではなかった。
 それに声も、話し方も全く違っている。


 リアリーの変化にブルームとイーグレットも驚きを隠せない。


 「え~!!??」

 「リアリーが…!」

 「別人になった…?」

 目を白黒させるブルームとイーグレット。
 二人ともリアリーの変化に戸惑っていた。
 キュアブライトやキュアウィンディへの変身というレベルではない。
 リアリーは、姿も声も、話し方さえ違う、全くの別人に変わっていたのだったから。


 「別人ではないド。あれはキュアリアリーだド」

 ブルームとイーグレットの驚いた様子を見たアルカードが、岩陰から顔を覗かせ、少し得意げに答えた。

 「え~と…、全く別人にしか見えないんだけど…」

 ブルームが目を擦りながらアルカードに問い返す。


 「キュアリアリーは他のプリキュアの力を使えるんだド」

 「他のプリキュアって…、彼女たちの他にもプリキュアが、まだいるって事!?」

 「説明は後だド!」

 説明すると長くなると思ったのか、アルカードはイーグレットからの問いかけを打ち切った。


 そんな中、「キュアブロッサム」へと姿を変えたリアリーが「フラワータクト」を構えた。

 「集まれ!花のパワー!ブロッサムタクト!」

 ブロッサムがフラワータクトを振る度に、辺りが桜の花で満たされていく。

 「花よ輝け!プリキュア・ピンクフォルテウェーーーーブッ!」

 その掛け声と共にフラワータクトから強大な光の種がカレハーンとドロドロンに向けて放たれた。

 「ヤバッ!」

 危険をいち早く察知したドロドロンがそれを避ける。
 だが、反応が一瞬遅れてしまったカレハーンは、回避するタイミングを失ってしまった。


 「ウッ!ええい!」

 カレハーンは、その光の種を防御しようガード体制を取った。
 しかし。


 「ウアアアアァァァァァァァアア!!!」

 ブロッサムから放たれた力の前に、そのガードごと吹き飛ばされてしまった。
 そして、その力はカレハーンの胸に付いていたゴーヤーンの印(いん)をも打ち砕いたのだった。

 「カレッチ~ィ!」

 吹き飛ばされ、みっともなく尻もちをついたカレハーンの下にドロドロンが駆け寄って来た。
 その時、ドロドロンがカレハーンの胸元から消えたゴーヤーンの印に気付いた。


 「あれ?カレッチ、何かキレイになったね。良かったじゃん」

 ドロドロンの言葉に苛立ちを隠せないカレハーン。

 「良くない!力を消されたんだ!」

 立ち上がると同時に、ドロドロンが差し出した手を打ち払った。


 「あ、そう?そうなの?」

 そう、このゴーヤーンの印こそ、復活したカレハーンたち幹部の力の源だった。
 今まで、ブルームとイーグレットの放つ技が、全て通用しなかったのも、この印が影響していた。
 だが、ブロッサムに変身したリアリーには、この印を砕く力が秘められていたのだ。



 「今よ!」

 ミルキィローズがブルームとイーグレットに向かって叫んだ。

 その言葉にブルームとイーグレットが頷いた。

 ブルームとイーグレットが「プリキュア・スパイラル・リング」に二つのリングを装填し、リングを回すとスパイラル・リングが輝き始めた。
 そして、二人は手を繋ぎ、目を閉じる。

 ブルームとイーグレットが構えると、それに呼応するかの様に大地から、そして大空から幾百、幾万もの精霊の力が光の粒となり、溢れ出す。
 その膨大な量の精霊の粒子が二人のスパイラル・リングに吸い寄せられる様に集まっていった。

 「精霊の光よ!命の輝きよ!」

 「希望へ導け!二つの心!」

 「プリキュア・スパイラルハート!!」

 スパイラル・リングに集まった精霊の力の粒子がブルームとイーグレットの手の甲から溢れ出し、光の水流を描いた。
 その光の水流が徐々に形を変え、ブルームとイーグレットの前で渦となった。


 「スプラーーーーーーーーーシュ!!」

 その掛け声と共にブルームとイーグレットが目の前にある光の渦を両手で打ち抜く。
 その瞬間、その渦から膨大な精霊の光の激流が放たれた。



 しかし、カレハーンは、それを迎え撃つ。
 それは彼の執念だった。
 今までプリキュアに敗れ続けた。
 一度も勝つ事もなく、浄化されてしまった。
 だが、フェアリー・キャラフェと滅びの力により蘇り、プリキュアを倒す力をも手に入れた
 その力を失ったからといって、おめおめとダークフォールに戻る事は、彼のプライドが許さなかったのだ。

 それに自分自身はプリキュアの攻撃を防ぐ術を失ってしまったが、まだドロドロンがいる。
 こいつを盾にすれば、まだ活路は見える。
 それがカレハーンの立てた作戦だった。


 「ドロドロン!いいな!」

 「合点だ!」

 「行け!」

 「退け~!」

 ブルームとイーグレットから放たれた精霊の光の激流に特攻しようとするカレハーン。
 そして、地面の中に退避するドロドロン。

 「うっ!え!?」

 ドロドロンの予想外の行動に思わず振り返るカレハーン。

 「え?」

 それはドロドロンにとっても同じ事だった。

 カレハーンの思惑は見事に砕け散った。
 しかし、現実は厳しい。

 「ウワァアアア!?」

 カレハーンが再び前を向いた時には、彼の目の前にプリキュアが放った精霊の光の激流が迫っていた。


 「こういう時は、前進だろうがぁあああ!」

 精霊の光の激流を目の当たりにしたカレハーンが叫ぶ。


 「いやいや、逃げるが勝ちだね~」

 それをドロドロンが土の中を逃げながら、さらっと返した。


 「うっ!?ドロドロン!貴様ぁあああ!」

 カレハーンを精霊の光の激流が包み込んだ。
 精霊の清らかな光によって浄化されていくカレハーン。


 「アクダイカーン様ぁああ!踊る奴や歌う奴はと合いまっせぇええん!!!」

 それがカレハーンの最期の声だった。
 そう叫ぶと、カレハーンは元の枯葉の姿へと戻っていった。
 すると、カレハーンの身体を形成していたと思われる滅びの力がゴーヤーンの印の様な形を模った。
 と思った瞬間、それが弾け飛び、その中から小さくなった滅びの力が溢れ出す。
 だが、その小さな滅びの力は、やがて四散し、消えていった。

 その様子をドロドロンは、土の中から上半身だけ出し、眺めていた。


 「あ~あ、消えちゃった~。逃げればよかったのにね!僕のせいじゃないもんね!バイバ~イ♪」

 ドロドロンは、滅びの力が四散していく様子をしばらく眺めていたが、そう呟くと地面の中へと消えて行った。


 ブルームとイーグレットに起こった危機は、予想しえなかった結末を向かえた。
 二人は変身を解くと、フラッピ、チョッピと共に、ミルキィローズとキュアリアリーと名乗った少女たちの下へ向かった。


 咲と舞がミルキィローズとリアリーに合流した時には、二人も変身を解き、普段の姿に戻っていた。
 だが、ミルキィローズとリアリーの服装を見た咲と舞は驚きを隠せえなかった。
 何と二人が着ていたのは、咲と舞が通う「夕凪中学校(凪中)」の制服だったのだ。


 「え~!?その服は!?」

 「私たちと同じ制服…?」

 「まあ、細かい事は気にしないで」

 驚く咲と舞に対し、ミルキィローズだった紫色の髪の少女は、あっけらかんと答えた。
 まるで、この事態が織り込み済みの様にも見て取れた。


 そこに、ムープとフープ、コロネが合流する。

 「満と薫は!?」

 「満と薫!?満と薫がどうかしたの!?」

 コロネの言葉に咲の顔色が変わる。
 それは舞も同じだった。
 その時、コロネの身体からフィーリア王女が浮かび上がった。


 「フィーリア王女!一体、何が起こったのですか?」

 「分かりません…。確かに私達は満と薫の下に力を送りました。しかし、その力が急に消えて…」

 舞の言葉に困惑の表情を浮かべるフィーリア。
 フィーリアにも一体何が起こったのか分からなかった。


 「まさか、あなた達が満と薫を!」

 咲が凪中の制服を着た紫色の髪の少女に詰め寄る。

 「私達はここに来たばかりなのよ!そんな事、分かる訳ないでしょ!」

 「そうよ、咲。とにかく、話を聞きましょ!」

 紫色の髪の少女たちに詰め寄る咲を舞が諌めた。
 フラッピとチョッピも咲を落ち着かせようと舞に続く。


 「そうラピ!」

 「落ち着くチョピ~!」


 その時、この状況を黙って見ていたコロネが、紫色の髪の少女達に問いかける。

 「君達は一体何者なんだ?」


 コロネの落ち着きはらった声と、本質を突いた質問に、咲も少しだが落ち着きを取り戻した様に見えた。
 そこにいる誰もが、二人の少女が次に発するであろう言葉に注目する。
 そんな雰囲気の中、ミルキィローズと名乗った少女が、軽く咳払いをした後、改めて声を出す。


 「その前にまずは自己紹介ね。私は『美々野くるみ』。そして彼女が…」

 くるみと名乗った少女が脇に控えている黒髪の少女に振る。
 しかし、黒髪の少女はそっぽを向いたまま、何も答えようとしない。
 そんな黒髪の少女の態度にくるみは苛立ちを覚えながらも、再度自己紹介を促す。


 「ちょっと…!自己紹介は!?」

 「…。やだ…」

 黒髪の少女はくるみを見る事なく答えた。
 それがリアリーの変身を解いた黒髪の少女が発した初めての言葉が、これだ。


 「やだって、あなたねぇ…!」

 「この娘(こ)は、テンコ!『高尾天子(たかおてんこ)』だド!」

 眉間に皺を寄せたくるみが声を出そうとした瞬間、黒髪の少女の肩に乗っている妖精のアルカードが代わりに答えた。
 それは、カレハーン達の前に現れた時と全く同じやり取りだった。


 「アルカードの事はアルって呼んでほしいド!」

 そう言って自身の自己紹介も行った。
 しかし、テンコと紹介された黒髪の少女は、それでもそっぽを向いたままだ。


 「一体、何が起こったのか教えてほしいの。満さんと薫さんの事も」

 舞が痺れを切らした様に問いかけた。
 だが、この後、くるみの口から出た答えは、咲や舞たちを驚愕させる内容であった。


 「私が説明するわ。…。私達は貴女達とは違うプリキュアの世界からやってきたの」

 くるみから発せられた言葉に、そこにいる誰もが言葉を失った。
 と言うより、今、くるみから発せられた言葉を頭の中で一生懸命理解しようとしていたと言うのが、正しい表現かも知れない。
 それ程、くるみが発した言葉は、咲たちにとって理解しがたい内容だったのだから。
 しかし、何故かくるみは、そんな咲たちの反応が分かっていたかの様に落ち着き払っている。


 「プリキュアが他にもいるムプ?」

 「聞いた事ないププ」

 思いもよらなかったくるみの発言に誰もが言葉を失う中、その内容を余り理解出来ていないムープとフープが呑気に会話した。
 その会話にアルカードが乗っかる。


 「くるみ達の世界は「5GoGo!(ファイブゴーゴー)」だド」

 「まあ、私もまさか他にプリキュアの世界があるなんて知らなかったけどね」

 自分の発言よって言葉を失っている咲たちの姿を見たくるみが、呆れた様な声を上げた。
 アルカードとくるみは、そんな様子の咲たちに構わず話を続ける。

 「プリキュアの世界はまだまだあるド」

 「私が回っただけでも、私の世界以外に『ハートキャッチ』、『マックスハート』の世界があったわ」

 「その他にもまだまだプリキュアの世界があるド!」

 「そ、そんなにあるラピ~!?」

 くるみとアルカードが語っている他のプリキュアの世界の話にフラッピが驚きの声を上げた。


 「私の世界はアルとテンコが訪れた最初の世界だったの」

 そんな会話を黙って聞いていた舞が、くるみとアルカードに問いかける。


 「何故、そんなにプリキュアの世界を回ってるの?」

 舞からの問いにくるみは肩をすくめ、アルカードに振った。
 アルカードは、困った様な表情を浮かべると、少し間を置き答えた。


 「…こんな事を言っても信じてもらえないと思うけど…、元々はプリキュアの世界は一つだったんだド」

 再び、その場を沈黙が支配する。
 そして次の瞬間。


 「ええ~!!?」

 驚愕の声が上がった。

 「驚いたでしょ。しかも、私もあなた達と本当は知り合いなんですって」

 くるみが肩をすくめて、そう言った。
 しかし、くるみの言葉から、彼女自身もその事を自覚していない事は伝わってきた。
 他のプリキュアの世界が存在するという事さえ信じられない中、今日初めて会った、見た事もない少女と、本当は知り合いだと言うのだ。


 「そんな事、信じられないよ…!」

 「そうよ。それに今までに会った事があるなら、忘れるはずないけど…」

 「会った事ないムプ!」

 「今日初めて会ったププ!」

 咲と舞、ムープとフープの声も最もだった。
 普通の子供と比べても、素直な性格の咲と舞だったが、くるみとアルカードから出てくる言葉は、どれも耳を疑うものばかりだった。


 「でも、それが真実なんだド。そして今、一つだったプリキュアの世界が七つに分かれようとしてるんだド!」

 「それがどうしたって言うの!私たちには関係ない事だし…!そんな事より私たちにとっては、満と薫の事の方が大切なんだから!」

 「咲…」

 咲の口から出た怒気さえ含んだ言葉だった。
 しかし、それは咲が満と薫の事をどれだけ大切に想っているかの裏返しだという事は、舞にもよく分かっていた。
 だが、くるみは、そんな咲の言葉に怯む様子もなく言葉を続けた。


 「でも、そういう訳にはいかないみたいなのよね」

 アルカードがくるみに続く。


 「そうだド!このままプリキュアの世界が離れて続けてしまえば、いずれはどの世界も消えてなくなってしまうんだド!」

 次々と発せられるアルカードの言葉は、どれも咲たちにとって全く現実味がない。
 その言葉を素直に信じる事が出来なかった。
 本当だったら、ここにいたのは満と薫だったかもしれない。
 そう思い始めると、余計にくるみとアルカードの言葉を受け入れる事が出来なくなっていった。


 「そんな事、信じられないラピ…!」

 フラッピだけではない。
 咲や舞、チョッピたち、誰もがそう思っていた。


 「そっ!私も最初信じられなかったけどね…」

 その様な咲たちの反応も織り込み済みなのか、くるみは諦めとも取れる態度を取る。
 だが、アルカードは違った。
 その目は真剣である。


 「お願いド!アル達に力を貸してほしいド!」

 そう言って、アルカードは咲たちに深々と頭を下げた。
 アルカードのその姿勢が、決して嘘や冗談ではない事は、咲や舞には直ぐに分かった。
 それはアルカードの真摯な姿勢だけではなく、咲や舞が従来持っている相手を思いやる心根が大きく影響した事は間違いなかった。

 しかし、咲や舞は素直にアルカードの言葉を受け入れる事は出来ない。
 咲や舞、そして精霊たちには直面した問題がある。


 「そ、そんな事、急に言われたって…!」

 「私たちも今、この世界を守る為にダークフォールと戦ってるの…」

 「そうラピ!」

 「『太陽の泉』を守らないと大変な事になるチョピ…」

 咲と舞、フラッピとチョッピの言う事も最もだった。
 奪われたフェアリー・キャラフェによって蘇ったダーク・フォールの幹部達。
 今まで姿を見せたのは、カレハーンにモエルンバ、そしてドロドロン。
 しかし、それでは済まないであろう事は、咲たちも感じ取っていた。
 咲たちが今、陥っている窮地は、幼いムープやフープにさえ理解出来ていた。

 その時、それまで一言も発する事なく、くるみ達の話を聞いていたフィーリア王女が口を開いた。


 「分かりました…。お手伝いしましょう…」

 「フィーリア王女!!!」

 フィーリアの驚きの言葉に一同が声を上げた。

 フィーリアの言葉に驚いていたのは咲たちだけではなかった。
 この一件の当事者であるくるみ自身も驚きを隠せないでいた。
 何故なら、くるみがかつて回った世界でさえ、他のプリキュアの協力を得るのは容易い事ではなかったからだ。
 それに、アルカードとテンコがくるみ達の世界に来た時に、いの一番で反対したのはくるみ自身だったのだから。


 「フィーリア王女!ダークフォールとの戦いはどうるんですか!それに満と薫も…!」

 咲がフィリーア王女に詰め寄る。
 その時だった。
 くるみから意外な言葉が返ってきた。


 「それは大丈夫よ。だって、私たちもあなた達と一緒にこの世界の敵と戦うんだから」

 「え!?」

 「そうだド。今までもそうだったド。その世界のプリキュアと一緒に戦ってる内に、次の世界への扉が開いたド」

 「そう…なの…?」

 予想もしえなかったくるみとアルカードの言葉に呆気にとられる咲たち。
 その事が分かっていたかの様に落ち着き払った様子のフィーリアにチョッピが問いかける。


 「フィーリア王女は知ってたチョピ?」

 フィーリアがチョッピの問いに首を振り、答える。

 「いいえ…。ですが、彼女を見た時、何かを感じるのです…」

 そう言って、テンコの方を見た。

 「…」

 しかし、テンコは相変わらず、そっぽを向いたままだ。
 先程からのアルカードとくるみの話にも一切口を出す事はなかった。

 それどころか咲たちは、フィーリア王女がテンコの事を口に出すまで、そこにいる事さえ忘れていた。
 実は、フィーリアはテンコを初めて見た時から、テンコから目を離す事はなかった。
 まるで、テンコの心の奥底まで見透かそうとするかの様に。
 その事に気付いていたのは、フィーリアの宿主となっているコロネだけであった。


 「フィーリア王女…」


 「…。分かったわ!あなた達に協力する!」

 それは、どちらかと言うとくるみ達に疑心を抱いていた咲の口から出た言葉だった。

 「咲!」

 コロネが声を上げた。
 フィーリア王女は協力すると言ったが、コロネ自身はまだくるみ達の事を信じきれないでいた。
 と言うより、これ以上、自分の命の恩人である咲に危険な目に合ってほしくないというのが本心だ。
 だが、咲は「伝説の戦士プリキュア」である。
 咲たちが戦わなければ、この緑の郷はダークフォールに滅ぼされてしまうだろう。
 それも分かっていた。
 どちらもコロネの本心な事には変わりなかった。


 「悔しいけど、復活したカレハーンに、わたし達の力は通用しなかった…。今のままじゃ、満と薫を助ける事なんて出来ないよ!」

 咲と舞に先日のカレハーンとモエルンバとの戦い、そして先程までのカレハーンとドロドロンとの戦いの記憶が蘇る。
 カレハーンとモエルンバの戦いでは、ゴーヤーンが余裕を見せて退いたお陰で助かった。
 そして、先程までの戦いは、ミルキィローズとキュアリアリーの手助けがなければ、確実に自分達が破れていただろうという事は、
 実際に戦った咲と舞には痛いほど分かっていた。


 「咲…。…そうよ。確かに太陽の泉を守るのも大切だけど…、私達は…もう一度…、満さんと薫さんに会いたい…!」

 そう言った舞の目には、薄らと涙が浮かんでした。


 「咲…」

 「舞…」

 その気持ちは、フラッピとチョッピ、そしてムープ、フープも同じだった。

 「満に…」

 「薫に会いたいププ~!」

 咲と舞の言葉にフラッピ達の心も一つになった。


 「よし!これで決まりね」

 それまで黙って咲たちの話を聞いていたくるみが元気に声を上げた。


 「ありがとうだド!」

 そう言って、アルカードは何度も頭を下げた。
 だが一人だけ、その輪に加わらない者がいた。


 「はぁ…。めんどくさい…」

 溜め息をつき、小声で呟くテンコの姿がそこにはあった。

 そんな中、咲と舞はダーク・フォールで眠る満と薫に思いを馳せる。


 「(満…、薫…待ってて…)」

 「(私達が必ず…)」

 「(助け出してみせる!!)」





 キャスト

 高尾天子(キュアリアリー)/声:千葉千恵巳

 アルカード/声:TARAKO


 美々野くるみ(ミルキィローズ)/声:仙台エリ


 日向咲(キュアブルーム)/声:樹元オリエ

 美翔舞(キュアイーグレット)/声:榎本温子

 フラッピ/声:山口勝平

 チョッピ/声:松来未祐

 霧生満/声:渕崎ゆり子

 霧生薫/声:岡村明美


 フィーリア王女/声:川田妙子

 コロネ/声:渡辺英雄


 ドロドロン/声:岩田光央

 カレハーン/声:千葉一伸

 ゴーヤーン/声:森川智之


 キュアブロッサム/声:水樹奈々


 ドライバー/声:Beckii Cruel





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